およそ中国人で映画『非誠勿擾』(邦題:『狙った恋の落とし方。』)を知らない者はいないだろう。今から十数年前、この映画の大ヒットにより、中国に北海道観光ブームが起こった。そのロケ地として有名になったのが、東北海道の釧路市だ。先ごろ、自然豊かな釧路市を訪れ、蝦名大也市長に、釧路の魅力、アフターコロナのインバウンド政策、中国との交流などについて伺った。
「スイスにも比肩する」
自然豊かな阿寒の魅力
―― 現在、中国からの訪日客数は激減していますが、「コロナ後に行きたい国№1 は日本」(1 位は北海道)という調査結果もあります。釧路の魅力について教えてください。
蝦名 釧路は、映画『非誠勿擾』(邦題:『狙った恋の落とし方。』)のロケ地として有名になり、ピーク時で4万人くらいの中国の方が訪れてくれました。映画の力はすごいですね!
ここの魅力は何と言っても豊かな自然です。一つの町で阿寒摩周国立公園と釧路湿原国立公園という二つのナショナルパークを有しています。ある民間企業が、全国60カ所以上で空気のきれいさを調査した結果、一番きれいな場所が阿寒湖畔でした。
明治の開拓時代に、阿寒湖の開拓の功労者である前田正名が、手つかずの自然に感動し、「この景観はスイスのそれにも比肩する。阿寒の山林は伐る山ではなく、見る山だ」と言って保存した歴史が、この地域のマインドとなっています。
そして、特別天然記念物の「タンチョウ」と「阿寒湖のマリモ」の生息地があり、タンチョウは一時期、絶滅寸前にまで陥りました。当時20羽くらいまで減ったのを地域一体となって保護し、今は1900羽にまで増えています。また、環境省が絶滅危惧種に指定しているマリモも同様に、環境保護の観点から保護活動を行っています。
すばらしい地域資源の保護・保全に努めながら、豊かな自然と共生するまちづくりに努めるという地域マインドをもって、なおかつさまざまな経済活動も行っているところが釧路の魅力だと思っています。
釧路の魅力を中国に向け
積極的に発信する
―― アフターコロナに向けて、どのようなインバウンド対策をお考えですか。その場合、釧路の魅力をどのように発信していきますか。
蝦名 来年9月に、国際シンポジウム「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」が北海道で開催されます。
アドベンチャートラベルは「自然とのふれあい」「文化交流」「アクティビティ」のうち、二つ以上の要素で構成される体験型の旅行のことで、外国人からも人気が高く、自然・文化などの地域資源を活かせる重要な観光コンテンツとなっています。これには長期滞在が見込まれ、観光消費額も大きいという特徴があり、アフターコロナの旅行スタイルとして注目されています。
実は、主催団体のシャノン・ストーウェル会長が、2016年に釧路にご来訪され、このエリアの自然をご覧になって、ここで日本で最初の世界大会を開催したいというお話をいただきました。しかし、世界大会の開催は一地方自治体では難しいので、北海道全体で取り組むことになりました。
ここには、釧路湿原や天然のダムなど豊かな自然環境があり、ゆったりと流れる釧路川でのカヌーや冬のスノーバイクが楽しめます。また、シマフクロウやオオワシなどが一番多く生息しており、保護活動も活発ですので、アフターコロナに向けて、釧路が持つたくさんの魅力を中国向けSNS「weibo(ウェイボー)」などで積極的に発信していきたいと思います。
互いを知り認め合い
幅広い視野を持つ
―― これまでさまざま中国と国際交流をされていますが、今後どのような取り組みをお考えですか。
蝦名 日本で唯一の坑内掘りの炭鉱を持つ釧路として、 2002 (Hl4) 年度より、海外産炭国への石炭採掘・保安技術の継承を目的に、研修生の受入事業を実施しており、中国からも多くの研修生にお越しいただいています。
以前、中国の国家炭鉱安全監察局を表敬訪問した際に、研修生の方々が安心して研修できるよう、市民との交流の機会も設けていることなどに対し、中国政府からも大変高いご評価をいただいています。
若い世代が、様々な国や地域の人々とのかかわりの中で、互いを知り認め合うこと、幅広い視野を持つことが大切であり、交流の基本となると考えています。
中国とのビジネスを
行政がサポート
―― 近年、中国企業と日本企業の協力が進んでいます。中国企業とのビジネス展開について、どのように考えていますか。
蝦名 ビジネスの取り組みについては、民間がさまざまな取り組みを進めていく中で、行政がそれをどのような形でサポートしたり、バックアップするかということになります。
まずは中国との交流を深め、さまざまな分野で信頼関係を高めながら、ビジネスの土台をしっかり構築していくのが行政の役割だと考えています。
気候は涼しいが
人は温かい
―― 日本の都道府県にはその土地特有の気質があり、その地の経済や文化に影響を与えていると思います。釧路市民の気質について、教えてください。
蝦名 北海道の開拓の歴史のなかで、とリわけ釧路市民は、外から来た方をあたたかく受け入れる気質があります。
たとえば、釧路は日本の中でも冷涼な気候ですから、猛暑の中で避暑地としての取り組みを行っています。現在、涼しさをPRしながら取り組んでいる長期滞在事業ではリピーターが多く、北海道内での実績で10年連続1位を獲得しています。
リピーターの方々に尋ねると、釧路の人たちは本当に温かいのでまた来たくなるのだそうです。中には、夏の間、釧路の博物館でボランティアガイドをやってくださっている方もいらして、驚いたことがあります。気候は涼しいが、人は温かいのが釧路市民の気質ですから、中国の方にはぜひともいらしていただきたいと思います。
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