ミハイル・ガルージン 駐日ロシア連邦特命全権大使
ロシア・ウクライナ紛争が 国際秩序を再構築する

2022年2月、ロシア・ウクライナ紛争が勃発した。日本国内では一部の国会議員が言うように、様々なメディアや機関を通じて、ウクライナ大統領ゼレンスキー氏の言葉だけが聞こえてくるが、もう一方の当事者であるロシア側の声はまったくと言っていいほど届いてこない。7月19日午後、日本の国会議員や経済界に多くの読者を持つ本誌はロシア大使館を訪問し、日本通として知られる駐日ロシア大使のミハイル・ガルージン氏に2時間に及ぶ独占ロングインタビューを行った。ガルージン氏は終始流暢な日本語で我々の質問に答えてくれた。

重なる脅威、やむなき選択

―― 今年2月、ロシアはプーチン大統領の指揮の下、ウクライナに対して特別軍事作戦を展開し、これに対してNATO諸国や日本は様々な制裁を加えました。まずは、このたびロシアが特別軍事作戦を採るに至った背景についてお伺いしたいと思います。

ガルージン ありがとうございます。非常にいい質問ですね。今回の特別軍事作戦の背景には、ロシアの国家利益を脅かす隣国ウクライナの存在があることを、私としてはまず強調しておきたい。つまり、ロシアは国連憲章第51条に規定されている国家自衛権に基づいて、やむをえず今回の行動を採ったということです。

ウクライナの脅威とは大きく分けて二つあります。

一つは、現在のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国に居住するロシア系住民を対象とした大規模な弾圧と大量虐殺です。少し歴史を遡りますと、2014年2月、ウクライナの首都キエフでネオナチによるクーデターが起きました。彼らは当時の合法的な政権を打ち倒し、ロシア語の使用を禁じようとしただけでなく、ロシアと共有してきた歴史認識や価値観を含む、ロシアとの一切の関係を断ち切ろうとしたのです。

歴史認識を共有することは極めて重要なことです。第二次世界大戦において、ロシアとウクライナは旧ソ連の一部としてともにナチスドイツと戦いました。ですが、当時のウクライナにはすでにナチスに協力する勢力が存在していたのです。1991年、旧ソ連が解体されると、ウクライナは独立し、そういった勢力がしだいに表舞台へと出てきました。

クリミア半島およびルガンスクとドネツクは当時ウクライナの州でしたが、人口の半数以上はロシア系住民でした。民族的にはウクライナ人、ユダヤ人、タタール人などもいたわけですが、彼らに共通しているのはロシア語を母語とし、ロシアの文化や歴史に誇りを持っており、2014年2月のネオナチによるクーデターを認めてはいなかったということです。

ウクライナはクリミア半島が再びロシアに組み込まれるのを阻止するために民族主義者武装集団を派遣しようとしたし、ドネツクとルガンスク、つまりドンバスに対して、大規模な武力的制圧を実行しました。空襲や砲撃、派兵から、経済封鎖や飲料水の遮断まで、ナチスドイツと何ら代わることのない野蛮な手段に訴えたのです。

こういった蛮行により、ウクライナ東部に住む3000人もの民間人が死亡しました。その中には150人に及ぶ子供たちも含まれています。現在もドネツク人民共和国の首都ドネツク市には子供たちの死を悼む「天使の並木道」があり、時々ウクライナの捕虜をそこへ連れて行っては、何の罪もなく殺された子供たちに謝罪させています。

ロシア系住民に対するこのようなジェノサイドを、ロシアとしては座して見ているわけにはいきません。これは明らかな脅威であります。もう一つの脅威とは、ヨーロッパの安全保障問題に起因するものです。

 

―― それはつまりNATOによるものですね。

ガルージン そう、まさにNATOの東方への拡大という脅威です。1980年代末から90年代の初めにかけて、NATOの各国首脳は当時のソ連の指導部およびロシアの指導部に対して、NATOが一寸たりとも東に拡大することはないと、たびたび約束を交わしてきました。そもそもNATOが1949年に成立したのは、旧ソ連の脅威に対抗するためでしたが、のちに旧ソ連が中心となっていたワルシャワ条約機構は解体され、NATOに対する旧ソ連の脅威、言い換えればNATOの存在意義自体がなくなったはずなのです。

にもかかわらず、90年代以来、NATOは旧ソビエト領と旧社会主義陣営の諸国を五度にわたって受け入れ、東方への拡大をやめることなく、いまやロシアと隣接するに至りました。その流れの中でNATOは、とりわけ2014年2月のクーデター以降、積極的に、大々的に、そして軍事的にウクライナにてこ入れしてきました。ウクライナを反ロシア国家として仕立て上げ、ロシアという存在を根底から揺るがすためです。これがロシアに対するもう一つの、極めて深刻な脅威です。

ウクライナをNATO加盟国にするというのは、2008年4月にルーマニアで開かれたブカレストサミットにおいて決定されました。2014年2月のクーデター以来、ウクライナは極めて殺傷能力の高い武器を所有しはじめ、ネオナチズムの傾向は日増しに強まり、文化、メディア、言語、教育といった一切をロシアと切り離すため、NATOもウクライナの政策を支持しました。

我々はこのたびの特別軍事作戦を通じて、アメリカ国防省の管理下にあるウクライナの生物学研究所で、生物兵器の研究・開発が進められていることを示す数多くの資料を入手しました。これは生物兵器禁止条約に明らかに違反しています。特に指摘しておきたいのは、今年2月に開かれたミュンヘン国際安全保障会議の席上で、ウクライナの大統領が核兵器の保有をほのめかすような発言をしたことです。これは極めて危険なシグナルです。このように、生物兵器と核兵器の所有をたくらむ政権が、武力によってクリミア半島を奪おうとしているのです。

この8年、つまり2014年2月のクーデター以降はそうした状況にありました。それでもロシアはこの二つの大きな問題、すなわちドンバス地域のロシア系住民の保護とNATOの東方拡大がもたらした軍事的脅威を、外交によって解決するべく終始努力を惜しみませんでした。その第一歩が、ミンスク合意の履行を促すというものです。

ミンスク合意とは、ウクライナ東部で行われていた戦闘の停止について交わされた議定書で、2015年2月に調印されました。そこには、ウクライナの領土内でもドネツクとルガンスクは一定の自治権を有しつつ地方政権として存続することが明記されています。つまりミンスク合意は、ウクライナの領土と主権を保障する協議とも言えるでしょう。

そして何よりミンスク合意は、2015年2月に国連安保理の全会一致を経て承認された国際法の一部であり、ウクライナ、ドネツク、ルガンスクそれぞれに対して法的拘束力を有するのです。しかしウクライナは、このミンスク合意を履行するつもりはなかった。彼らはこの停戦協議を利用して、東部地区を制圧するための軍備増強の時間稼ぎとしたのです。これは私がでたらめを言っているのではありません。ミンスク合意に署名したウクライナのポロシェンコ前大統領が、ウクライナは当初からミンスク合意を履行するつもりはなく、一時的な停戦と軍備増強のための時間稼ぎに利用したに過ぎないと、6月17日のインタビューで明言しているのです。

我々がミンスク合意とその履行のために費やした一切の努力は、こうしてウクライナ政権およびその背後にいる西側諸国によって無視され、踏みにじられたのです。

ヨーロッパの安全保障については、我々もヨーロッパ安全保障協力機構の一員として、1999年に採択されたヨーロッパの安全保障憲章の精神にのっとり、一貫して外交手段による問題の解決を図ってきました。この憲章にはすべてのNATO加盟国とウクライナ大統領も署名しています。

ヨーロッパの安全保障憲章には、安全保障の不可分性の原則について明記されています。これはどういうことかと言いますと、ヨーロッパ安全保障協力機構の加盟国は、自国の安全を守るために同盟を自由に選べるが、そのために他の加盟国の安全を脅かしてはならないというものです。つまり、同盟国を自由に選択することと、ほかの加盟国にとっての脅威となることとは切り離して考えることはできない、これが不可分性の原則です。ただ、これはいわゆる政治的な約束で、決して法的拘束力を持つものではありませんでした。いま、我々はNATOの拡大を目の当たりにして、国家の安全保障における不可分性の原則を外交によって明文化したいと望んでいます。事実、我々は何度も繰り返し提案しました。直近では2021年の12月にもしています。その内容は、NATOが東方への拡大をやめること、ウクライナが加入を放棄すること、NATOは1997年に署名されたロシアNATO基本議定書の水準まで軍備を縮小することなどです。これらは至って正当な提議で、むろんロシアも一定の責務を負うものです。

ですが、残念ながら今年の1月、NATOは非常に高慢な態度で我々の提案を拒絶しました。その理由というのが、安全保障の枠組みを守れるのはNATOだけであって、NATO非加盟の国にそれは成しえないという、極めて非合理的な論理で対応してきたのです。

それだけでなく、NATOはこれからも新規加盟国を受け入れる用意があると表明しました。ですが、NATOの公約を見れば一目瞭然、新規加盟国を迎える義務があるなどとはどこにも書かれていません。にもかかわらず、NATOはウクライナとジョージアを加盟希望国として認めています。いまのNATOは明らかにロシアを敵視しています。ウクライナのような反ロシア国家を含むNATOは、すでに我々の足もとへと迫り、深刻な軍事的脅威となっているのです。

また、NATOには長きに及ぶ侵略の歴史があります。20世紀から今に至るまで、NATOは何度も主権国家を侵略してきました。旧ユーゴ、イラク、リビア、シリアなどの国家体制を破壊したほか、数十万にも及ぶ無辜の民を殺害し、国際的なテロ活動のためにいわば空き地を用意したのです。

第二次世界大戦以後、武力によって新たな国境を作ったのはNATOなのです。戦後の国際秩序の根幹を揺るがしているのも、やはりNATOなのです。そんな危険な組織が目の前に現れたら、どうしたって巨大な脅威でしかありません。そして、その脅威を取り除く外交ルートが断たれた以上、我々もやむをえず特別軍事作戦を選択するしかなかったのです。

そしてこの作戦を通じて、ウクライナ政権のネオナチ的な体質がいっそう浮き彫りになってきました。たとえば、彼らは自国民や自国の国籍を持つ人々を人間の盾にしています。また、居住区やショッピングセンターから学校や幼稚園、果ては病院といった施設にまで兵士を無理やり配置しています。このように非人道的で野蛮な方法はナチスのやり方そのものです。

我々がなぜ特別軍事作戦を選択するしかなかったのか、おわかりいただけたでしょうか。我々の目的と任務はロシア系住民を守ること、ウクライナを非武装化すること、非ナチ化すること、ウクライナの中立を確保すること、いかなる軍事ブロックにも所属させないことにあります。

ずいぶん長い回答になってしまいましたね、申し訳ありません。ですが、このように詳しく説明しなければ、ロシアの苦しい胸中をご理解いただけないと思ったのです。

制裁は主権の代償である

―― 現在、ヨーロッパ諸国によって種々の制裁が加えられています。ですが、ルーブルは暴落しておらず、経済状況も西側諸国の見立てほど悪化していません。この点についてはどうお考えですか。

ガルージン ロシアのある政治家が言いました。制裁を受けるのは国家の主権を守るために支払うべき代償であると。まさにロシアは盲目的に西側諸国に追従することなく、あくまで自主的な外交政策を堅持しています。ですから、これらの制裁はその代償と言えるでしょう。

実は、ロシアに対する制裁は今年の2月24日以降にはじまったわけではありません。それ以前から様々な手段で制裁が加えられてきました。ですから、我々には制裁が発動されてもそれに対応する十分な経験があり、ある意味では、ロシアは制裁下での活動に慣れていると言えるでしょう。今回の制裁はこれまでにない規模で行われていますが、西側が想定していたような効果が得られていないのはそのためです。産業生産に大幅な下降は見られず、失業率もわずか3.9%にとどまっています。さらには各国の企業が撤退したあと、すぐに工業、建築、交通、サービス業などの諸分野でロシア国内の企業がそれを埋め合わせています。

産業や資源に限らず、教育や文化の面においても、西側諸国は大国ロシアの潜在的な力を見誤ったと言えるでしょう。経済制裁を通じてロシアのような大国をコントロールしようとするのは、あまりに稚拙な考え方です。経済制裁は確かに一定程度の悪影響を与えるでしょう。自動車製造業といった一部の産業は苦境に陥るかも知れません。ですが、それはあくまで一時的なことであり、ロシアほどの大国を世界経済、国際政治の舞台から排除することなど到底不可能なのです。

我々からすれば、このたび制裁を発動しているアメリカやEU、日本も含まれますが、そういった国々はみな信を置けない相手だと考えています。ロシアは今まさに関係のあり方を抜本的に見直している最中です。逆に今後は中国、インド、ASEAN諸国、南米諸国、中近東の諸国といった、独立自主の外交政策を堅持する主権国家と、相互の協力関係をいっそう強めていきたいと思っているところです。今後、ロシアの経済は六つの原則に従って発展していくことでしょう。それらを順次挙げていくと、一つ目は公開性と平等なパートナーシップ、二つ目は起業家に対するサポート、三つ目は責任あるバランスの取れたマクロ経済政策の実施、四つ目は社会的な公平性、五つ目は優先的なインフラ設備の発展、そして六つ目は技術分野におけるイノベーションの確保です。この六つの原則が、今後のロシア経済を支える六本柱となるのです。

 

アメリカが主導する

戦後国際秩序の破壊

―― このたびの特別軍事作戦には国際秩序の再建という側面もあるかと思いますが、この点についてはいかがお考えでしょうか。

ガルージン まず、先ほども申し上げましたように、戦後の国際秩序を破壊したのはアメリカをはじめとする西側諸国とNATOです。

アメリカとその衛星国は手を取り合い、国連を中心とする国際秩序を破壊しています。アメリカが中心となって支配的な立場に立つ、新たな国際関係の枠組みを構築しようとしているのです。

言い換えれば、アメリカは今まさに国連憲章に則った戦後の国際秩序を破壊し、いわゆる新たな国際的ルールを押し付けているのです。その新たな国際的ルールが、誰によって策定されたのか、どこで、どのような形式で作成されたのか、それは誰にもわかりません。

 

日露関係の未来は

日本の態度にあり

―― 意外なことに、このたび日本は先頭に立って対ロ制裁を行いました。その原因はどのあたりにあるとお考えでしょうか。また、岸田政権の対ロ制裁について、どのような評価をお持ちでしょうか。今後の両国の関係はいかにして再構築するべきなのでしょうか。

ガルージン まず確かなこととして、安倍元総理が在任中はたびたびプーチン大統領と対話を重ね、両国の関係を目に見える形で改善し、政治や安全保障の面で互いの信頼を深め、日露関係は飛躍的に発展しました。まずもって、安倍先生のご冥福を心より祈りたいと思います。

安倍元総理は両国間における経済面でのプロジェクトを促進させました。もちろんその中にはロシア北部にあるヤマル半島の天然ガス田の開発プロジェクトも含まれます。それと同時に、両国間の文化交流や人的交流といった面でも、安倍元総理はそれらをいっそう活発化させました。ほかにも、プーチン大統領と「日露相互交流年」を2018年5月から2019年6月まで実施し、さらに「日露地域・姉妹都市交流年」を実施することで合意し、今年の1月にはその開幕式が開かれています。ただ、これは岸田政権による対ロ制裁のために今は中断を余儀なくされています。要するに、安倍元総理は日本とロシア両国のために莫大かつ豊かな外交的遺産を残したのです。これは不朽の偉業であると言えるでしょう。

こういった両国の多年にわたる努力の結果を、岸田政権は今まさに打ち砕いています。極めて遺憾ながら、それが現実なのです。では、なぜ日本がそのようなことをするのか。個人的には二つの理由が考えられます。一つは、近隣の大国であるロシアとの関係よりも、西側諸国やG7との連帯を優先したということ。もう一つは、日米関係を重視しているという姿勢を打ち出すため、ロシアとの関係を犠牲にしてでもアメリカへの忠誠を示したということです。

とはいえ、実際のところ、これらの制裁はロシアに対して何ら致命傷を与えるには至っていません。それどころか、かえって日本自身にマイナスの影響を与えています。それは食料品やエネルギー資源の高騰、数十年にわたって築き上げてきたサプライチェーンの断絶などです。これらはすべて日本の経済に悪影響を及ぼしています。

では、今後の日露関係はどうなるのかというと、おそらくそれは日本の出方によって決まると思います。と言いますのも、双方の努力によって築かれてきたこれまでの関係を破壊しているのは、ロシアではなく日本だからです。ですから今後の日露関係は、日本が冷静に両国の関係を見つめ直し、責任ある態度を取れるかどうかにかかっているのです。今後の日本との関係を考えるにあたっては、ロシアに対して日本が実施した経済制裁、および岸田政権による公然たる誹謗中傷について、しっかりと検討する必要があるのは言うまでもありません。

その一方で、我々は実利と互助を重んじ、日本を含む西側諸国に対してこれまで通り開放的な態度で接します。ですが、どんな形であれ、いわゆる先進国に依存することはないでしょう。なぜなら我々が今はっきりと見ているように、西側諸国は経済を武器として使うのですから。

 

中国はロシアにとって

不可欠のパートナー

―― 近年、中国とロシアの関係は新たな高みに到達しているように思いますが、大使は中ロ関係の発展についてどのように考え、またそれがアジア太平洋地域にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

ガルージン 私はあくまで駐日ロシア大使ですから、中ロの関係について意見を述べる立場にはありません。北京のデニソフ駐中国大使でしたら、極めて優秀かつ十分な経験を有した中国の専門家です。私の大先輩でもありますし、彼ならきっと両国の関係をいっそう素晴らしいものにしてくれると信じています。モスクワのイーゴリ・モルグロフ外務次官もやはり優れた中国通でして、主に中ロ関係を担当しています。つまり、ロシアにも中国にも、両国の関係発展のために尽力する優れた外交官と専門家がいるのです。

ご質問に対して、あくまで個人的な意見を述べさせてもらいますと、ロシアと中国は今まさに多方面で協力しつつ包括的な戦略パートナーシップを構築しています。そしてこれはロシアの外交政策の中でも最優先の課題であると言えるでしょう。目下、西側諸国はロシアと中国に対して厳しい圧力をかけており、両国のさらなる発展を抑制しようとしています。ですから、ロシアと中国のパートナーシップは今後より重要に、そしてより密接になるものと信じています。

世界の多極化という面で、両国は実際の行動を通じてその維持と発展に努めてきました。言い換えれば、ロシアと中国が遵守しているのは、国連憲章および国際法を基礎とする真の多極化主義であります。決してアメリカが言うようなルールを基礎とする国際秩序ではありません。これは極めて重要なことだと考えます。

ほかにも政治、安全保障、経済、科学技術、教育、文化など、両国にとって協力できる分野は多々あるでしょう。ですから、我々としましては、今後も中国との協力体制を効果的に深め、互恵的な関係をいっそう緊密化することで、双方がその恩恵を受けられるようになればいいと思っていますし、それが我々の切なる願いでもあります。

国連、BRICs、上海協力機構といった国際舞台においても、ロシアと中国の果たす役割は極めて大きい。新たなグローバルガバナンスは、真の多極化の上に構築されるものだと思います。その意味でも両国の協力には将来性がありますし、お互いに不可欠な存在であると、私は考えています。

取材後記

ガルージン駐日ロシア大使は取材のあと、日本語の漢字で「露中友好」と色紙に揮毫してくれた。その後、私をわざわざ案内し、「これは私の宝物です」と言って一枚の写真を見せてくれた。そこには大使と並んで写る、安倍晋三元総理の元気な姿があった。そして別れ際、ガルージン大使は私に言い聞かせるかのように、「駐日中国大使の孔鉉佑先生にくれぐれもよろしくお伝えください」と言って送り出してくれた。

周知のごとく、現在の日露関係はこれ以上ないレベルで冷え切っている。安倍元総理が襲撃された現在、そして今後も、日露関係を好転させることができる大物政治家は現れるのだろうか。これは目下の大きな懸念である。腰を落ち着けて相手の考えに耳を傾けることは、言うまでもなく大切なことである。そしてそれこそ「民主主義国家」の外交にとって最も欠くべからざる態度ではないだろうか。