久田 研 順天堂大学医学部附属順天堂医院感染対策室副室長 小児科・思春期科准教授
ウィズコロナ時代のインバウンド 「新型コロナ流行のコントロールは可能」

6月に入り、日本では団体の外国人観光客を迎える用意が整った。しかし、外国人観光客が首を長くして待っていたこのニュースに暗い影がよぎった。第一弾として入国した外国人の団体ツアーで新型コロナウイルスの感染者が一人見つかったのである。

 そのほかにも、原因不明の小児急性肝炎が日本、イギリス、スペイン、オランダなどで続々と見つかっており、新型コロナウイルスの感染拡大と関係しているという報告もある。

 訪日観光経済の回復は日本の新型コロナ対策に緩和をもたらすのか、それともさらなる緊張をもたらすことになるのだろうか。

 そんな疑問を持って、5月25日、順天堂大学医学部附属順天堂医院の感染対策室を訪ねた。お相手は感染対策室副室長であり、小児感染症の専門家である久田研医師である。

 久田医師は、同病院に感染対策室が設置されている理由を次のように語った。

 「病院の入院患者にはさまざまな生活背景があり、免疫機能の状態も違います。患者同士のウイルス感染や医療従事者の感染を最小限に抑え、患者に安心・安全な医療環境を提供する、そのために感染対策室が設置されています。また、患者だけではなく、医療従事者に感染させないことも私たちの重要な仕事の一つです」。

 また、原因不明の小児急性肝炎と新型コロナウイルス感染症の関係について、久田医師は次のように述べる。

 「現時点ではまだ両者の直接的な関係を証明した報告はありませんが、原因不明の小児急性肝炎が多発している国ではオミクロン株の感染も多数確認されています。ですので、何らかの関係がある可能性は排除できないでしょう。また、今回の小児急性肝炎患者の半数近くからアデノウイルスが検出されたという報告もあり、それがこの急性肝炎の原因の一つだとも推測されています」。

 感染対策が不十分だと、新型コロナウイルスが新たな感染症を誘発する可能性はあるのだろうか。久田医師もその点を不安視している。

 「コロナ流行期には感染防止のためにマスクをしたり、ソーシャルディスタンスをとったり、以前にも増して手指の衛生に気をつけたりしたので、ここ2年間インフルエンザの流行はなくなりました。一方で、子供の冬の病気であるRSウイルス感染症は1年目にはほぼ流行しませんでしたが、2年目、つまり昨年の夏に流行したのです。そういったことから、新型コロナと疫病の流行とは何らかの関連があると推測できます」。

 最近、日本では急速にコロナ前の日常が回復しつつあり、外国人観光客の受け入れも再開しているが、これは新型コロナに打ち勝ったということなのだろうか。

 久田医師は次のように分析している。

 「新型コロナウイルスの流行はまだ続くでしょうから、今の日本はアフターコロナではなく、やはりウイルスとの共存――ウイズコロナです。しかし、医療体制の拡充とワクチン接種回数の増加、そして治療法の確立にともない、重症患者はますます減っていくと思います。致死率にしても重症化率にしても、日本の数値は他国より低くなっています。新型コロナとの共存において、医療体制が維持できれば、事態の悪化と重症患者の増加を防ぐことができるのです。新型コロナの収束は難しいにしても、流行をコントロールすることは可能でしょう」。

 その上で久田医師は次のように提案する。

 「最近政府は、屋外の人の少ない場所ではマスクを外すことも考えられると言っています。しかし、感染リスクが高い場所では、やはりマスク着用は有効な対策だと思います。つまり、生活の正常化に向けて、屋外や人の少ない換気の良い室内では適度に措置を緩和するということも考えていく時期ではないでしょうか。この2年間、日本は経済活動と社会活動を制約してきましたが、これからはウイズコロナの時代、私自身は制度をもう一度見直すことで、経済、社会、教育などの各分野で持続可能な成長ができるのではないかと考えています」。

 今後、新型コロナはインフルエンザの一種のようになっていくのだろうか。久田医師は、楽観はできないと警告する。

 「新型コロナウイルスは非常に変異しやすく、毒性が弱まる可能性もありますが、ますます強くなる可能性もないとは言えません。近い将来、オミクロン株の感染力を超える変異株が出現するかもしれません。ですから、今後も医療体制の拡充を継続していく必要があるのです」。

 ウイルスとの戦いは一進一退の持久戦である。新型コロナウイルスはその他の伝染病の流行や発生にまで影響を与えた。夜明け前とはいえ過度の楽観は禁物である。旅行中も感染対策はしっかりとすべきだろう。