日本画生 藤島博文
「日中文化同盟論」を考える ―その6(終章)

いつの日も私の画室には中国の古典音楽が流れています。ゆったりと宇宙の彼方から響き来るような妙音は、遠き日、遣唐使や空海もかの長安の都で聴いたことでありましょう。このような気高い音楽を奏で聴く中国の方には一人として悪い人はいないと思う程です。

この東洋音楽の究極として尊いばかりの雅楽の世界があります。

雅楽は、遠くペルシャ・インド等の古代音楽が中国で唐楽として集大成され、朝鮮半島経由では高麗(こま)(がく)として飛鳥時代に我が国へ伝来しました。日本には古来より神慮(しんりょ)を慰めるために舞い謡われていた大和歌、神楽歌、散楽等がありましたが、雅楽は宮中と社寺において人々の心を清浄界へと導きつつ、我が国独自の発展を遂げたのです。それから千四百年を経た現在、私は宮中雅楽の楽師であられる東儀家御当主の東儀博昭師にモデルをお願いし、今秋の日展出品作『(らん)(りょう)(おう)』を描いております。陵王は、中国古代の全知全能ともいえる天下無双の超人的な武将であり、人心荒廃とコロナ禍の今こそと画題に考えました。

さて、東京では史上初の無観客オリンピックが佳境を迎えておりますが、私のコラムもいよいよ最終章となりました。お読み下さいましたご貴台様をはじめ、毎号根気強く校正に応じて下さいました人副編集長の原田様に心より感謝を申し上げます。

今、世界は環境問題をはじめ人身荒廃等数々の難題に直面していますが、健全なIT化やAIの活用、水素社会等は、明るい未来を思わせます。これら人類の叡智を更に深化させる為にも日中をはじめ、世界各国が「文化同盟」の理念のもと、政治力・経済力・文化力を三位一体とし、民族の潜在能力を引き出しつつ地球家族の理想に進みたいものであります。政治力のみが優先すればイデオロギーを生み、経済力のみが優先すれば貧富の差を生みます。そこに精神性豊かな文化力を加え、人心を穏やかに成熟させることが何より大切であり、獣性を密ませる人間の教育が学問であるように国家の教育は文化力にこそあると考えます。

この拙論は時代錯誤の空論とお叱りをいただくかもしれませんが、「日中文化同盟」を結ぶ事によって、中国にあっては一帯一路文化大道を進め、日本にあっては世界最古の縄文文化・花鳥風月美の発信を図り、日中は世界中から親しまれる国家民族へと成熟することでありましょう。当然、そこには後世に名を残す名指導者の出現も待たれるのです。

来年は、日中国交正常化五十周年を迎えます。私は画道に生きる者としてこれを機とし、中国殷代で逞しく生まれ、日本国で美しく育まれた『鳳凰図』を描き、感謝を込めて中国人民14億お一人お一人のお心にお届け申し上げることができればと考えております。

日中は共に漢字文化圏として共通の文化に生きており、更に深く学び合いつつ世界の平和に寄与すれば、いつの日かきっと、欧米諸国も世界の人々もその成果を喜んで下さる日が来るものと強く信じております。

私は思うのです、真の愛国者とは自国を愛するように隣国の人も愛し、遠国(おんごく)の人々をも愛す人間であると。

それではまたいつの日かお会いできますことを。ありがとうございました。多謝。

 

 

『蘭陵王』大下図(235×185)制作風景

 

Profile

1941年、徳島県美馬市生まれ。09年、天皇陛下御即位二十年奉祝画「平成鳳凰天来之図」を謹筆。著書に『美感革命』到知出版社、『日本人の美伝子』PHP研究所、他多数。現在、日展会員、日中発展協会理事。つくば市在住。