布川 郁司 株式会社ぴえろファウンダー
日中友好にはいつでも力を尽くしたい

過ぎ去った少年の日々に別れを告げ、少年の心は永遠に結ばれる。15年間連載された『NARUTO-ナルト』が11月10日最終回となり、数多くの中国のファンが涙を流した。11月12日、日本のアニメの聖地といわれる株式会社ぴえろに、同社の創立者で日本アニメ界のリーダーであるアニメ『NARUTO』の父、布川郁司氏を訪ねた。

 

中国の海賊版にはこちらにも責任

―― 海外のアニメが中国に進出する際、常に版権問題にぶつかり、一部では海賊版も横行しています。この問題について、どのようにとらえていますか。

布川 こうした問題が出てくるのには、私たちにも責任があります。中国は経済大国ですが、私たちは中国でこれほど多くの日本のアニメファンが出てくることを予想していなかったのです。

海賊版というのは、中国のファンが私たちの作品を肯定し、宣伝してくれていると見ることもできます。もちろん私たちの損失は大きくなりますから、良い面と悪い面があります。中国のアニメ界も私たちに対し、このように経済が発展している中国に正式に契約した正規版がないために、海賊版を作らざるを得ないのだと抗議してきています。これもまったく道理のない話ではありませんので、私たちはその反省から本年、ぴえろChinaを設立しました。今後、中国のアニメ会社と正式に契約を締結し、正規版を輸出する予定です。

日本はアニメ大国で、どんどん新しい作品を世に出していますが、日本の子どもの人口は減ってきており、これは私たちの市場が縮小しているということを意味します。ですから、ますます海外に向けて作品を輸出し、多くの市場を開拓する必要があるのです。今後は中国市場に向けて良い作品を出していきたいと思います。

 

日本でしか週刊連載はできない

―― 今、アニメという言葉は世界の共通語となりました。日本のソフトパワーとしてのアニメは世界各国に輸出され、日本の知名度を上げました。日本のアニメが文化現象として海外に伝わることについてどうお考えですか。

布川 日本には独特のマンガ文化があります。毎週月曜日発行の『週刊少年ジャンプ』、毎週水曜日発行の『週刊少年マガジン』、『週刊少年サンデー』など、これらの発行部数は全部で600万部前後となり、積み上げると富士山を追い抜くほどの高さになります。世界各国でマンガは発行されていますが、わずか1週間でこれほど多くのマンガが新しく発行される国は日本しかありません。文化という角度から見れば、これは日本独特のマンガ文化です。マンガ文化の支えがあるからこそ、日本のアニメ界も繁栄し、世界各国に影響を与え、多くのファンを持つようになりました。

外国の方はいつも、日本の不思議な光景として、毎週月曜日にスーツを着た大人と、制服姿の中高生が並んで『週刊少年ジャンプ』を読んでいることを挙げます。

『週刊少年ジャンプ』は読者投票で掲載を決めるというシステムによって多くのマンガ雑誌の中で勝ち抜いてきたのですが、アニメ界の競争はさらに激烈で、良し悪しは視聴率によって決まります。視聴率が高ければスポンサーもつきますし、収益も上がります。

また、日本のアニメは、『ドラえもん』や『アンパンマン』など子ども向けのもの、『サザエさん』のように家庭向けのもの、さらに近年はオタク向けのものなどそれぞれのジャンルに分かれており、誰でも自分の好きなアニメを探すことができます。

さらに、ネットの普及によって情報が瞬時に世界中に広がりますので、まだ輸出されていない日本のアニメも外国に多くのファンがいます。みなネットで知るのです。私たちは、今後いかにネットを活用して作品の影響を拡散し、収益を生み出すかという問題に直面しています。

 

浮世絵が日本マンガの原点

―― 日本のアニメは戦後発展してきたものですが、日本のマンガは昔からありました。マンガの歴史をご紹介いただけませんか。

布川 日本のマンガの原点は江戸時代の浮世絵です。しかし、明治時代にはまだ重視されず、陶器などを包む包装紙として使われていました。それが外国人によって海外に持ち出されたことにより、ゴッホらの創作に影響を与えたのです。

日本のマンガの発展には、手塚治虫氏について触れなければなりません。当時のマンガ家が作品をアニメにしようとして、アニメ制作会社が作られたのです。マンガとアニメはずっと連動しており、マンガがアニメの発展を生み出し、アニメがマンガの影響を推し進めました。これも日本独特の現象です。

 

万国共通のアニメは少ない

―― 日本のアニメは海外に出ると、すぐに本土化します。ドラえもんの中国での愛称は「青いおでぶちゃん」で、アメリカではドラえもんの好物がどら焼きからピザに変わりました。こうしたことをどう思われますか。

布川 ええ、日本のアニメは国や地域によって多かれ少なかれ変化します。アメリカや中国だけのことではありません。イスラム国家では、アニメの登場人物は「保守的」な服装に変わります。しかし、実際には多くのアニメファンは日本のアニメの原作をネットや衛星放送などを通じて見ています。

各国の厳しい審査を通過できる日本のアニメはそれほど多くありません。『ドラえもん』、『アンパンマン』、『クレヨンしんちゃん』、『ちびまる子ちゃん』などです。

 

『喜羊羊和灰太狼』が好き

―― 中国のアニメはご覧になったことがありますか。どのアニメがお好きですか。

布川 私は以前、上海テレビフェスティバルのアニメ部門の審査員をお引き受けしたことがあり、多くの中国アニメを拝見しました。最も印象に残ったのは、『喜羊羊和灰太狼』で一票を投じました。アニメの技術処理では、現在中国と日本のレベルはほぼ同じです。日本のアニメ界は競争が激しいので、ストーリーの詰め込み方や登場人物の個性、魅力に工夫をこらすことになり、それが半世紀にわたって蓄積された経験となっています。中国のアニメにはこの点が参考、インスピレーションになるかもしれません。

中国のアニメ製作会社を訪ねたことがありますが、技術的に日本よりレベルが低いということはなく、アニメ専攻の中国の学生のスケッチ力は日本のマンガ家をはるかに上回っているものもありました。もし時代的なセンスが加わればさらに良くなるでしょう。

 

中国アニメはさらに一段階が必要

―― 私たちの世代は児童書で育ちましたが、今中国のアニメ界で活躍している人たちは、ほとんどが日本のアニメを見て育ったので、アニメの人物の目は大きくする必要があるなど、彼らのセンスは日本に近いのではないでしょうか。中国のアニメはまだ模倣の段階で、日本のアニメを超えられないという意見もありますが、いかがですか。

布川 私はかなり前、歴史のある上海美術電影廠を見学したことがあります。当時の作品は水墨画の特色を持ったアニメが多く、私は大変感動しました。しかし、作品がみな芸術性の高いアニメであり、時代と市場に合わなくなっているために現在は下り坂です。

ここ数年、中国の大都市では積極的に“アニメ基地”を建設しており、私も招待されて大連などの“アニメ基地”を訪れましたが、残念ながら成功したケースは少なく、のちに北京に集中させたと聞きました。

中国政府も中国アニメの発展に大きな力を注いでおり、日本の経験から学ぶように奨励しています。しかし、アニメ産業は2、3年で発展できるものではありません。ある程度進展するには長い期間の蓄積が必要であり、すぐに効果が現われるというものではないのです。日本のアニメ産業も山あり谷ありで、さまざまな段階を踏んで現在に至っているのです。

 

密接に関わっている日中のアニメ人

―― 最近の1、2年、日中関係は国交正常化以来最も悪化しています。このことが両国のアニメ交流にマイナスの影響を与えていませんか。

布川 私の見たところ、日本のアニメ制作者はその影響は受けておらず、中国に対して何も悪い感情は持っていません。もしかすると中国が、日本の影響が拡大することを望まなかったため、日本アニメ作品の中国市場でのプロモーションは多少滞ったかもしれませんが。

現在、多くの日本のアニメが中国で下請制作されていますので、日本のアニメは中国のアニメとも言えます。当社には以前山東省から来た中国人スタッフがいましたが、彼は『NARUTO』の制作に関わったため、帰国後は多くのファンのヒーローになりました。私は彼と一緒に中国に行きましたので、多くのファンが彼を空港に出迎えたのをこの目で見て驚きました。

ですから、日中両国のアニメ人は制作の現場で密接に関わっており、私たちの持っている個人的な感情は両国の大局的な関係には影響されません。

 

編集後記

インタビュー後、いつものように揮毫をお願いしたところ、布川氏は「時代を動かす」と書いてくれ、赤塚不二夫の作ったキャラクター、ケムンパスのイラストを添えてくれた。そして帰り際、「日中友好を促進するためにはいつでも力を尽くしますよ」と声をかけてくれた。

写真/本誌記者 原田繁