猪瀬 直樹 東京都知事に聞く
中国のオリンピック日本開催支持を期待

1964年、世界的スポーツの祭典オリンピックは、日本がアジア地域初の開催国となった。あれから半世紀。今再び、日本は国際オリンピック委員会に、2020年のオリンピック東京招致を申請している。2008年には隣国中国で北京オリンピックが開催された。中国の発展・変化は必ず日本社会にも影響を及ぼし、日本の都市建設の歩みも中国にとって不可欠の鑑となる。2013年8月1日、東京都庁の知事特別応接室を訪ね、猪瀬直樹東京都知事にインタビューを行った。

 

東京は北京オリンピックの精神を継承

―― 2008年中国で開催された北京オリンピックは、国際社会で一定の評価を得ました。北京オリンピックをどう評価しておられますか。また、東京は2020年のオリンピック招致を申請されていますが、その目的について。

猪瀬 北京オリンピックが開催された2008年は、まさに中国が高度経済成長のまっただ中でした。また、中国は北京オリンピックを通して、世界に存在感を示すことに成功しました。同時に国際社会がともに発展することをアピールし、スポーツを通して友誼を深めた大成功の祭典であったと思います。また、「一つの世界、一つの夢」というスローガンも素晴らしかったですね。その後の2012年ロンドンオリンピックのスローガンは「インスパイア・ア・ジェネレーション(世代を超えて)」でした。

現在、東京は2020年のオリンピック招致を申請中ですが、スローガンを「未来(あした)をつかもう」としました。東京が「一つの世界、一つの夢」の精神の上に、「世代を超えて」の精神を継承し、未来(あした)をつかめることを願っています。

中国は社会の発展、特に都市建設において日本や欧米諸国を鑑とすることができます。日本はすでに、第一段階である都市建設を終え、少子高齢化問題を如何に解決するかという次の段階に入りました。中国も将来同じ問題に直面するでしょう。日本の経験が役に立てれば素晴らしいことだと思います。

 

環境汚染問題は一都市だけでは解決できない

―― 現在、中国は深刻な大気汚染問題に直面しています。この分野で、東京都は中国に対してどのような技術を供与できますか。

猪瀬 2009年9月14日、東京都は北京市と大気汚染対策のための技術協定に合意締結しました。さらに、同年12月15日、北京市主催の「大気汚染抑制対策シンポジウム」にも出席しました。2013年1月28日、東京都知事になってから直ちに、北京市長に大気汚染問題への技術支援の意向があることを伝えました。

当時、日本の多くのテレビ局が北京市の大気汚染の深刻さを報道していました。私たちは書面、電話で連携をとり、協定に基づき、専門家チームの派遣、東京でのワークショップへの招待等、北京市に対して環境保護への技術支援を行ってきました。

例えば、東京都は10年ほど前からディーゼル車排出ガス規制を行っています。この措置を講じれば、自動車産業と石油産業に経済的損失をもたらすことは必定で、反対の声も多くありました。しかし、最終的に東京都がとった対策は成功したのです。

また、一都市の大気汚染問題をその都市だけで解決することは不可能です。排出ガス規制を東京都だけで実施しても根本的解決にはなりません。隣接する千葉県、埼玉県、神奈川県とも連携し、ともにディーゼル車排出ガス規制を実施しました。こうして、日本の自動車産業は技術革新を迫られ、排ガス量を規制内かそれ以下にすることができたのです。

北京市の大気汚染は市内のディーゼル車の排ガスだけによるものではなく、外から入ってくる車も関係していると思います。ですから、北京市は周辺の省・市とも連携して同様の排出ガス規制を行うことを提案したいと思います。

 

食品の安全は法律に基づいて

―― 東京はオリンピック招致活動の過程で、世界に向けて「安全な東京」をアピールしています。それには食品の安全も含まれます。東京の食品の安全性は世界でもトップレベルとの評価があります。

猪瀬 日本のスーパーなどで食料品を買うと、原産地や生産者の名前などの情報が明記されていることに気付くと思います。これはすでに業界では常識となっています。これも世界に向けて「安全な東京」をアピールできる証明となっています。

日本では数十年前にJAS法(1950年制定の『農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律』)が制定されました。それによると、販売される食料品には必ず、品質保証期限、生産者等の詳細な情報を明記しなければならないとあります。ですから、消費者は安心して買うことができるのです。これらの法律は施行されて数十年になりますが、ここから中国も学べるかもしれません。動き始めたばかりで、すぐにはこのレベルには到達できないでしょうが、現状から見ても、業界や生産者への規範化を急ぐ必要があると思います。

 

東京の交通網の長所と弱点

―― 東京の交通事情の良さは世界でも知られています。オリンピック招致活動でもこの点をアピールされていますが、主なポイントは何でしょうか。

猪瀬 まず、東京には直接都心につながる放射方向の高速道路が何本もあります。都心に用のない車が入ってくることから、都心部で交通渋滞が発生しています。現在進めている中央環状線や外かく環状線など、環状の高速道路を整備することで、自動車交通を迂回分散させ、都心部の交通渋滞を緩和致します。

次に、料金調整です。人は通行料の高い路線より安い路線を選択します。都市部の料金を高く、周辺部を安く設定すれば、車は迂回するようになります。世界の大都市もこうした政策をとられることを提案します。また、交通の改善には、より多く道路を敷設する必要があります。インフラの向上によって交通事情も好転します。

最後に、トラックの管理です。東京には多くのトラックが入ってきます。以前は路上に車を停めて商品を届けていました。多くの場合、交通渋滞はそれによって起こります。初めは小さかった渋滞が次第に拡大し、大渋滞を引き起こします。この方式を変えて、車を駐車場に停め、作業できるようにすれば交通事情を改善できます。

―― 知事は以前、東京の地下鉄に関する本を書かれていますが、現在、東京の地下鉄が抱えている問題は何でしょうか。

猪瀬 東京の地下鉄の主な課題は一元化です。特に乗り換え時の改札口を省くことです。

本にも書きましたが、東京の地下鉄は異なった会社が建設・運営しているため、自分たちの利益を守り利益を最大にするために、通路や改札口を独自に持っているのです。そのため乗客は不便を強いられます。人為的に壁で仕切られているために、余計に歩かされるのです。この壁を取り払えば随分便利になります。今すぐというわけにはいきませんが、今すぐできることもたくさんあります。関係者と引き続き検討を行い、少しずつ改善していきたいと思います。

実際、地下鉄だけでなくバスや路面電車も含めた交通機関も一元化すべきです。優先されるべきは乗客で、サービスを提供する側ではありません。この理念に則って、乗客の満足のためにできる限りのことをすべきです。

東京でオリンピックを開催できたなら、東京の都市交通管理の良い面と、さらに改革を続けている姿を世界に示し、参考にしていただくことができます。

 

中国のオリンピック日本開催支持を期待

―― 東京のオリンピック招致に関して、中国にどんな協力を期待されますか。

猪瀬 2008年のオリンピックはアジアの中国・北京で、2012年はヨーロッパのイギリス・ロンドンで開催され、2016年は南アメリカのブラジル・リオデジャネイロで開催されます。2020年には再びアジアで開催されることを願っています。

世界的に見てもアジアの人口は多く、アジア諸国のためにスポーツイベントに参画する機会を勝ち取り、スポーツイベントの環境作りができればと思っています。

東京がオリンピック招致に成功したら、その後も大きなスポーツイベントが多く行われ、世界に占めるアジアのスポーツ人口も増え、スポーツイベントの普及を促進するでしょう。ですから、中国及びアジア諸国の友人も是非東京へのオリンピック招致を応援していただけたらと思います。

                        

インタビューを終えて、いつもの様に揮毫をお願いした。大理石のテーブルが座席と遠かったため、秘書の方がテーブルを動かすのを手伝った。すると猪瀬知事は秘書に向かって不満げに「こんなことも一人でできないの?

お客様に手伝わせるなんて」と言った。氏の細やかさを垣間見た気がした。知事は“決断、突破、解決”と認め、「問題に直面した時、まず判断を下し、困難を勇敢に突破し、最後に必ず問題を解決する。これが私の政治スタイルです」と笑顔で語られた。