~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その7~
「地方の中小企業を活性化するドイツのフラウンホーファーモデル」
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO  一般財団法人インターネット協会理事長

日本のデジタル社会へ向けての社会課題の1つが中小企業の活性化である。そのためには、中小企業が研究開発力を持つ必要がある。そして自らが、図1に示すイノベーションのエコシステムにおける一定の役割を担う必要がある。中小企業が、イノベーション・エコシステムに組み込まれているのが、ドイツのフラウンホーファーモデルである。今回は、本モデルの紹介と日本型モデルの取組について述べる。

欧州において好調なドイツ経済を支える図2に示すドイツ型イノベーション・エコシステムにおいては、応用研究を行う公的研究機関であるフラウンホーファー研究所が、基礎研究を行うマックスプランク研究所と共に重要な役割を担い、産学の「橋渡し」機能を果たしている(独国内に75の研究所、職員約2万9千人を有する)。ドイツ経済の屋台骨をなす中堅中小企業に対して、きめ細かな研究開発サービスを提供することにより、”Hidden Champion”(世界的なニッチトップ企業)としての技術基盤となっている。

フラウンホーファー研究所の人員、予算規模は、産業界のニーズの増大に対応する形で、近年拡大を続けている。その成功要因として①的確かつ明確なミッションの設定、②ミッション実現に向けたシステム全体の最適化があるとされている。

図1.イノベーションのエコシステム

年間研究費総額は約28億ユーロ(約3240億円)で、約24億ユーロ超が委託研究によるもので、研究費総額の70%以上が民間企業からの委託契約、さらに公共財源による研究プロジェクトから発生しており、約30%はドイツ連邦政府および州政府により、経営維持費としての資金提供が行われている。また、民間企業からの資金提供の半分は、中小企業からで、フラウンホーファー研究所に委託研究をすることで研究開発を実行している。

ここで、最も重要なミッション実現に向けたシステム全体の最適化については、第1に企業との連携確立のために①ニーズ把握に基づく研究、②企業からのコミットメント獲得、という2つに重点を置いている。第2に大学や基礎研究機関との連携確立のために、①所長、部門長は大学教授を兼務していること、②博士課程学生を積極的に受け入れていること、という2つに注力している。第3に評価基準としては、企業からの受託研究額を重視している。第4に知財戦略としては、研究機関が知財を所有し企業にライセンスすることを原則としている。

私は、日本独自のモデルを実現するために、自らが理事長を務める一般財団法人インターネット協会内にオープンイノベーションコンソーシアム(OIC)を設立し全国大学連合を委託研究先として位置づけ、中小企業のオープンイノベーションを推進している。

図2. ドイツのイノベーション・システムの全体像(出典:経済産業省)

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。