専門家が指南する地方振興戦略
インバウンド観光の振興は不可能ではない

この2年で中国国内およびアウトバウンド観光は急速に成長した。特にアウトバウンド観光は、中国は世界一の市場となり、中国人の海外での消費熱が世界の注目を集めている。ところがそれとは対照的に、インバウンド観光は低迷気味だ。多くの中国人観光客が人民元を懐に海外消費し、諸外国のGDPを押し上げているのに、中国への観光客は減少し、業界は一時インバウンド観光の凋落を懸念した。インバウンド観光振興の突破口はあるのか。今年になってアモイ、成都、湖北などの観光地は試行錯誤の後、情勢に反して成長を見せ、その答えを見出している。


8月1日、シルクロードの重鎮である新疆ウイグル自治区トクス県で「天山文化旅行期間」が開幕

外国人観光客が減少した要因は明らか

インバウンド観光は中国の観光業発展に重要な役割を果たし、中国観光業の基盤を築いた。中国観光研究院の戴斌院長は分析する。「インバウンド観光が開放されたばかりの頃は、神秘的な中国に魅せられて多くの外国人観光客がやって来ました。1979~1999年の20年間は高度成長期で、その後の10年間は安定成長期でした。ところが、2009年から今日までは停滞した状況にあります」。

先ごろ、国家観光局が今年のインバウンド観光の最新データを発表した。2012年、2013年と2年連続でマイナス成長を記録したが、今年1~5月も前年同期比2.8%のマイナスであった。マイナス成長の原因として、主に外部環境要素と業界自体の問題がある。

戴斌院長は指摘する。「外部環境として、人民元高による物価高、大気汚染、食品の安全問題といった自然や人災などの非経済要因があげられます。業界の問題としては、もはや外国人観光客は中国に神秘性を感じなくなり、加えて 利便性や交通網など観光商品の品質に対する要求が高くなりました。ところが、中国の公共サービスシステムはまだ完璧ではなく、また、ショッピングについても税金の還付や免税サービスがなく、観光以外で外国人観光客のショッピングのニーズに応えられていません。インバウンド観光の欠点は明らかです」。

インバウンド観光振興の突破口

国内観光とアウトバウンド観光の急速な成長に、インバウンド観光がついていけなければ、中国は観光大国から観光強国への転換を遂げることはできない。インバウンド観光の振興が観光強国への鍵であり、必要条件である。

では、インバウンド観光振興への突破口はどこにあるのだろうか。戴斌院長は提案する。

第1に、中国の観光イメージを国家イメージの重要な伝達者として探究し、国外へのアピールを強化し、外国人観光客に真実の中国を伝える。伝統的観光資源だけでなく現代のライフスタイルも紹介し、観光目的地を既存の観光スポットから都市生活の場へと拡げれば、外国人観光客には、有名な山や河川、名所旧跡の遊覧以外に、市場、スーパーマーケット、映画館などを訪れ、中国の庶民の日常生活を肌で感じてもらうことができる。

第2に、国として観光振興機関を設立する。米国の政府観光局、日本観光公社、フランスの政府観光局などを参考に、事業主体を政府から市場化された専門機関に移行する。そして国外機関との連携を探り、中国本土に国外の事業体を迎え、国外の旅行代理店との積極的連携をリードする。

第3に、ノービザ、免税(税金の還付) 、乗り入れの自由化などの優遇政策である。将来的には、外国人観光客に向けた新たなビザ政策の制定、ビザ手続きの簡素化が必要である。時機を見てインバウンド観光への免税(税金の還付)の試行化改革を推進し、これを吸引力・成長分野として、インバウンド観光における購買環境と市場秩序を最適化する。新航路の開拓、一部乗り入れの自由化で、中国の人気観光都市と主要顧客市場国とのアクセスを最適化する。

第4に、地域が連合して観光ルートのプロモーションを行う。地域連合の観光ブランドを創出し、長江デルタ地区、珠江デルタ地区、環渤海地区、広東香港マカオ地域、海峡両岸等が模範的役割を担い、外国人観光客に向けて、長江観光ルート、黄河観光ルート、古運河観光、シルクロード、青蔵鉄道沿線の旅、 北京~上海高速鉄道の旅、北京~広州高速鉄道の旅、武陵山地区の旅、トンキン湾の旅、シャングリラの旅など選りすぐりの観光ルートを重点的に打ち出す。

地域の積極的努力で成長に転じる

インバウンド観光が全国的に低迷するなか、アモイのインバウンド観光が成長に転じている。ここ4カ月の宿泊客数は延べ59万9200人で、前年同期比で12.88%増であった。これは、アモイが行った一連のグローバルマーケティング戦略によるものだ。具体的には、中国在住の外国人を招集し、アモイ観光の印象や体験の聞き取り・宣伝による口コミ営業の展開。ミラノ、モスクワ、マイアミ、メルボルンなどの国際観光展覧会への参加。グローバルにアモイ観光体験者を募集するイベントマーケティングの展開などである。

成都へ乗り入れる国際便の増加および72時間トランジットビザの施行により、今年上半期、成都のインバウンド観光も成長に転じている。第1四半期の観光客数は延べ39万8000人で、前年同期比17.5%増であった。また、外貨収入は1497万3700ドル(約15億3000万円)に達し、同18.9%増であった。成都はグローバル戦略を、これまでの都市イメージや観光商品から、都市文化やライフスタイルへと展開したことによって、国際市場における影響力を強めた。

今年第1四半期、湖北省が受け入れた東南アジアからの外国人観光客の伸び率はすでに11%を超えている。「秀麗なる湖北」と銘打った観光商品は、東南アジア市場で好評を博した。これは湖北省がタイムリーにインバウンド観光市場戦略を調整したことによる。2008年の金融危機以来、欧米の遠距離観光市場は打撃を受け、新たなインバウンド観光の起爆剤を見出したが、これが湖北省のインバウンド観光の新戦略となった。楚の文化、特に三国文化は東南アジアで広く知られており、独特の宗教観光や景観ツアーは、東南アジア市場に強いアピール力がある。現在、湖北省からシンガポール、タイ、韓国、日本など東南アジア諸国への直行便もある。

これら3地域のインバウンド観光の急成長は、業界の自信を高めると同時に、効果的な施策さえ講じれば、インバウンド観光の振興は不可能ではないことを教えている。