シルクロードの起点都市・西安市と高梁川流域にある倉敷市が試みた新しい交流

今年5月1日に、NPO法人「高梁川流域の持続可能な開発・SDGsをアートで達成する会」(西山剛史理事長)の主催により、岡山県倉敷市真備町ゆかりの学者・政治家吉備真備(695~775年)の遺徳をしのぶ「吉備真備を顕彰する会」が現地で開かれた。

同NPO法人は21年11月に設立されたばかりで、高梁川(たかはしがわ)流域市町村の文化・歴史・自然の姿をアートで県内外及び諸外国に発信する事業を行い、文化・芸術の振興を図ると共に、観光振興・交流人口の拡大による経済再生と地域創生に寄与することを目的としている。

倉敷市には、港湾法上の国際拠点港湾に指定されている水島港(みずしまこう)がある。同港は瀬戸内海に臨む倉敷市南西部の水島地域から玉島地域にかけ、水島灘の高梁川河口周辺に所在している港湾である。

天然の運河と評価される瀬戸内海一帯は、気象条件がよく、台風や高潮の災害も少ない。さらに、原材料の大量輸入ができるので、臨海工業地帯としても好条件に恵まれて、百万人を超える都市圏人口とコンビナートを背景に港湾取扱貨物量が日本全国でも上位にランクされ、東の水島地区は工業港、西の玉島地区は商業港の顔をもっている。国際コンテナターミナルに中国本土、韓国、ベトナム、タイなどを結ぶ21の定期航路が就航している。

一方、「吉備真備を顕彰する会」などのイベントは、西山理事長が率いるこのNPO法人にとっては初めての企画だ。日本が海のシルクロードの起点とされることを考え、西山理事長は、交流のあった西安市にお祝いのメッセージをいただきたいと打診した。その連絡を受けた西安市人民対外友好協会は祝賀のメッセージを出すことを決めたばかりでなく、日本在住の経済評論家、西安市人民政府国際顧問、日本中国一帯一路研究院執行院長である莫邦富に「現地を訪れてメッセージの代読をしてほしい」と依頼した。こうして莫邦富はゴールデンウィーク期間中の出張を敢行して、現地で西安市政府の祝辞を代読した。

西安市政府の祝辞を代読

祝辞には、下記のような内容が書かれていた。

「一千年以上前、貴市出身の吉備真備は遣唐使として遠路はるばる二度にわたって唐の長安に来て学び、そして中国文明を日本に伝え、中国と日本の文化交流に卓越した貢献をしました。吉備真備が中国文化を伝えたことを記念し、中日両国の友好的な交流を促進するために、1986年に西安市と岡山県は共同して吉備真備記念公園を建設しました。園内にたたずむ吉備真備記念碑は中国国内外の観光客の記念撮影スポットとなり、中国と日本の風情が融合した公園の風景はここを訪れる西安市民を和ませる憩いの場であり、また日中友好の証でもあります。ここに足を運ぶと中国と日本の文化交流に重要な役割を果たした吉備真備をしのぶ気持ちを禁じえず、彼の功績に感動し、中国と日本の更なる友好協力と交流の輝かしいビジョンが心に浮かびます」。

イベントが始まる前に、西山理事長は時間を作って、莫邦富を会場であるマービーふれあいセンターの2階で開催されている絵画展に案内した。

イベントの開会式終了後、伊東香織・倉敷市長も莫邦富をまきび公園に案内した。まきび公園は日中の共同建設でできた吉備真備記念公園の日本版と理解していい。後日、莫邦富は時事通信社が発行する時事速報に、まきび公園見学の感想を次のように書いた。

「まきび公園を見学させていただいた。日本の風景に溶け込む中国スタイルのあずまと小池の流れに時空を超えた感動を覚えた。倉敷市と西安市の今後の交流に、伊東市長、西山理事長をはじめとする現地の方々がたいへんな情熱と意欲を見せてくれた。それをしっかりと体感できた私は、吉備真備が歩んだ日中交流の道を多くの方々がいまも歩み続けていることに心を打たれた。私も全力を挙げてお手伝いすると約束した」。

伊東香織・倉敷市長(左)の案内でまきび公園を視察

コロナ禍の影響で国境を超えた交流はなかなかうまく展開できない。しかし、設立してわずか半年しかたっていない無名のNPO法人が中国に送った一通のメッセージ依頼のメールは、西安と倉敷との今回の交流のきっかけを作った。そして交流の道もさらに大きく広げた。日中国交正常化50周年という記念すべき本年に、非常に意義の深い一歩を新しく踏みだせたと評価していいだろう。