~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その15~
「ヘルスケアDXとその具体化について」
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

図1.ヘルスケア分野の全体像

 

今回は日本型DXのうち行政DXの5回目として、厚生労働省管轄下の「ヘルスケアDX」について述べる。ヘルスケア領域の場合、デジタル技術の活用という点、ビジネスの流れに加え、ヘルスケア領域における特性を踏まえた検討をする必要があるという点で、他の業界と大きく異なっている。

ヘルスケア領域における特性

「ヘルスケア」とは、健康、未病(病気になる手前)、そして病気という広い領域が含まれる。

「提供主体」として病院や薬局、ドラッグストア、介護施設、訪問介護施設、医薬卸、製薬企業、医療機器メーカー、フィットネスジム、保険者などであり、「提供者」として、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、登録販売士、ケアマネジャー、ヘルパー、MS、MR、医薬卸、スポーツトレーナー、患者など、多くのステークホルダーが関わる。

病気になれば、がんや生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)、その他難病等の疾患によって、関係ステークホルダーやそこでの実施サービス(治療なども含む)が大きく異なるため、複雑性はさらに増す。

日本においては、国民皆保険制度やフリーアクセス制度など日本独自の医療制度がベースとなっており、情報流、商流は、共にも複雑であるが重要である。

ヘルスケア領域は、医師法や薬剤師法、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)、療養担当規則(保険医療機関及び保険医療担当規則)といった健康保険法により定められた規則など、多岐に渡り、製薬企業等には製薬協ガイドラインなどが存在し、サービス設計は複雑である。

最後に医療で扱われる情報は機微情報であるため、その情報をクラウド環境に保存しようとすると厚生労働省・経済産業省・総務省からの医療情報ガイドラインにより、契約などの運用面、インフラ面、アプリケーション面についての対応事項が記載されるが、図1にヘルスケア分野の全体像を示す。

ヘルスケアDXの特徴

ヘルスケア関連の法的制約、商流や情報流、さらに予防/病気、病気であれば疾病によって患者視点でみたときのUX(User Experience =Patient Experience)デザインといった、ヘルスケア・デザインがさらに加わる形がヘルスケアDXのスキームとなる。

通常のDXでは、「ビジネス」×「デジタル」という構図だが、ヘルスケア領域のDXにおいては「ヘルスケア・デザイン」が加わり、保険医療制度という要素が複雑性の増大要因となる。

ヘルスケア領域のDXの可能性としては以下のことが考えられる。

①少子高齢化のさらなる進行による人手不足の解消

②高齢化に伴う疾病構造の変化への対応

③保険者の予防ニーズへの対応

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。