中国で一番美しい古村落
豆満江流域のきらめく風景――朝鮮族古村落

東北地方には延辺という国内唯一の朝鮮族自治州がある。州都は延吉、この延吉とは満州語でヤギや野生のヒツジの生息する地、という意味である。また延吉は盆地にあり、四方を山に囲まれている。清の時代、光緒帝が延吉庁を設置した際、自ら筆を取り「延吉」としたため、「吉林がずっと発展する」、「大喜大吉」という寿ぐ意味合いを含ませた。豆満江(図們江)の河畔、竜井市には下泉坪と呼ばれる集落がある。ここに足を踏み入れると、みな古村落の雰囲気に魅了されるのだ。

 

朝鮮族古村落の間取り

 朝鮮族古村落の最も目立つ特徴はその間取りにある。

 中国東北地方の黒土の上に童話のごとく存在するこの村落には、不思議な美しさがある。そのスタイルは共通しており、文化の様式となっている。この村落は周辺の漢族や満州族の村落とはまったく異なっている。人々はひと目見て近づき、「見て!古村落!朝鮮族の古村落だ!」と驚きの声を上げる。

 下泉坪の独特の風景は自然に作られたものかもしれないし、歴史文化がこの村にある種の見解と構造に賦与したのかもしれない。村に住む80歳の農民、金承竜さんによると、下泉坪の周囲四方は青竜、白虎、朱雀、玄武であり、下泉坪を風水のよい土地にしているという。

 朝鮮族古村落の最も大きな文化的特徴は、わら葺き屋根である。稲わらで葺いた屋根で、上には「房網」がかぶせられている。「房網」は大きな魚捕り網のようなもので、古い大きな船を覆うように、人々の住む家にかぶさっている。これは強風によって葺いたわらが飛ばないようにするためである。歳月の風雪により、屋根の古いわらは灰色になり、黒くなっている。

 それは歳月によって磨かれた色であり、歴史的な歩みを物語っている。

 朝鮮族古村落は一般に部屋と庭の配置が整然としていて、家屋の周囲を広々とした庭が取り囲んでいる。庭の前後は広い空き地が残されていて、往々にして前庭のほうが裏庭よりも広くなっている。庭の塀はいろいろな材料で作られている。

 

特殊な塀の装飾

 下泉坪村やその他の朝鮮族の古村落の村民は、泥土で塀を建てたり、日干しレンガを積んで塀を作るのを好むが、漢族の習慣とは違う点として、塀の上に「壁套」とか「壁帽」と呼ばれるものをかぶせる。

これは朝鮮族古村落の院壁(庭塀)様式と呼ばれているものの、塀装飾と呼ぶべきだろう。この塀の装飾は、塀本体の保護を目的としたもので、塀の寿命を延ばすためである。この塀装飾は、稲わらを編んで作ったもので、塀の片面の装飾であり、長さは塀の幅や高さに合わせて高さを決めたもので、統一性はない。

 塀装飾の「花結」は、村の腕のいい職人によって作られるが、これは特殊な技術である。あるものは「串花」(花の連なり)、また「掏灯」(明かりを取り出す)、「竜振尾」(竜のしっぽ振り)と呼ばれる。またあるものは「双脊」(二つの山)、「双花」(二つの花)と呼ばれる。

庭の塀の幅が広く一つの花では覆いきれないため、大工が稲わらで「双花」を編んで塀の上にかぶせたのである。これは村人の聡明さを表している。東北平原では、豊富な稲わら資源が人々に装飾のインスピレーションをもたらしたのであり、これは他の地方では見られないものだ。草が人々の手によって新しい価値を生み出したのである。古い村に咲くこんな「草の花」……人々が村から離れ難くなるわけである。

数十年から百年を越す東北地方の朝鮮族の古民家の屋根の「草」はすでに「草土」と変わっている。草は土となり、本当の「土塁」となっている。これも歳月による年輪であろう。

 

ひさしの文化

朝鮮古村落には家屋文化がある。その中でも脊頭――ひさしは重要なものだ。

 朝鮮族の屋根のひさしは、往々にして壁から2メートルから2メートル半もつき出している。壁に沿って行き来したり乾物を作ったりするためのものである。

 ひさしは家屋の先端部分であり、風はひさしからわら葺き屋根に吹きつけるので、このあたりは念入りに処理しなければならず、屋根を葺く時によく配慮しなければならない。ひさしの構造により、家屋の寿命も保証されるのであるが、同時にその形の荘厳さと美しさも現れて出てくるのである。

 人類の長い歴史の中で、窓は家の「目」であり、門は「口」であり、村落の各種の生き物が必ず通る道である。朝鮮族の村落は門と窓を格別に重んじるのである。

 

不思議な木の煙突

 木の煙突は朝鮮族の古村落の特色の一つだ。煙突は本来、けむりや火を通すためのものだが、ここの煙突は火に弱い木でできており、珍しい景観となっている。

 煙突は1メートルが一節とされる。「節」とは一段で、これは煙突に固定された「木の帯」で、細長い板をはめ込み、ほぞ穴と釘で固定したものである。

 もう一つの特色としては、この村落の煙突が非常に高いことが挙げられる。煙突はややもすれば家屋の2倍もの高さがある。

 特に歳月を経た古い煙突は、人々にこの煙突の下に立って生活の歴史を体験してみたいと思わせる。ある村人は自分の家の煙突の寿命を延ばすために、煙突に「防寒着」を着せている。「防寒着」とは保温着のことであり、煙突自身が風も空気も漏れないようにすることだ。けむりがよく抜けることでオンドルもよく燃え、まきの節約にもなる。風が漏れる煙突はまきを浪費してしまうのだ。このように下泉坪では煙突のデザインに力を入れており、独特な煙突文化を形成している。煙突の保温着は泥あるいは草である。

 また、朝鮮族村落の煙突にはかなり珍しい特徴がある。この一帯では、なんと大きなかめや古いカンの煙突があることだ。村人に尋ねると、かまどで祖先が焼いたかめなので、古いものや壊れたものも捨て難く、また新しい用途に使うことにしたと言う。これこそが、「山辺の者は山に糧を求め、水辺の者は水を頼りに暮らしを立てる」という東北地方の生活風習だといえよう。

 大地を背景に家々の煙突は青空に向かってぽつんと伸びている。濃厚な生活の味わい、素朴な美しさを感じずにはいられない。これは、煙突、空、家そして村落が作り出す美しさである。