トヨタの反撃に見る日本の産業の伝統

国際市場の変動と新型コロナによる影響のもと、自動車産業の巨頭であるトヨタの2022年3月期連結決算は営業利益が2兆9956億円となり、日本企業として過去最高を記録した。

EV(電気自動車)市場の急速な発展や、AI(人工知能)技術の進展に伴って、ここ数年、トヨタの成長が危ぶまれていた。

ネット上では、「一台あたりの利益でテスラの三分の一にも及ばない」、「ウクライナ侵攻で最後の工場を閉鎖」、「中国の新型コロナ感染拡大で操業を一時停止」など、ネガティブなニュースが飛び交かっていた。

しかし、急速な円安によって、海外での利益を増やした。また、原油価格の高騰によって、日本の省エネ自動車が人気を呼んだことも利益増の要因と言える。

現在、自動車製造に欠かせない重要な部品である半導体の不足が世界的な問題となっているが、トヨタは2011年の東日本大震災後、日本国内のサプライヤーと強固なサプライチェーンを構築し、部品不足に備えてきた。

こうしたことがトヨタによる反撃に結びついたと言えるが、その背景には、日本の産業のもつ「バランス」の伝統が関係していると見て取れる。

ここで言うバランスとは、産業システムにおける、エネルギー政策、企業戦略から産業の安全確保まで、利益追求とリスク回避の両面に配慮した体系と言うことができる。

日本政府はG7諸国と歩調を合わせ、ロシアからのエネルギー輸入を停止しようとしているが、そうした中、トヨタはロシア工場の稼働停止を発表した。トヨタにとってロシアは成熟した市場ではあるが、市場シェアは5.5%と決して大きくはない。

さらに、産業の発展においては環境保護に配慮することが必要である。日本の経済産業省の予測によると、2030年の日本の再生エネルギー比率は40%に近づき、化石燃料の比率も約40%、原子力発電の比率は20%超となっている。

トヨタは本年2月、2030年を目指し、カーボンニュートラルの達成に向けて電気自動車の販売に注力する方針を打ち出した。その他、水素燃料電池の開発や取引先にCO2排出量の減少を求めるなど、多くの分野で着実にバランスの取れた新たな自動車産業の版図をつくろうとしている。

本年5月、トヨタグループの近健太副社長は、オンライン記者会見において、意外にも、今期の成長トレンドを維持することは難しく、2022会計年度の営業利益は2割減となる見込みだと述べた。

これは、原材料価格の高騰、人件費の増加など、さまざまな減益要因による予測のようだが、いずれにせよ、現在の状況下でトヨタが過去最高益の「反撃」を見せたことは、「バランス」を重視する日本の産業が持つ伝統の優位性を示すものと言える。