北京フートンの魅力を探る

フートン(胡同)は北京のルーツである。四合院は北京の魂である。北京にフートンが最も多かった時には名の付いたものだけで3700以上あった。紫禁城の周囲を取り囲み、大部分が元、明、清の三つの王朝時代に形成された。フートンの典型的な建築はほとんどすべてが四合院である。ある研究では、30年前、北京の住民の80%はフートンに住んでいた。今フートンに住んでいるのはおよそ20%ほどに過ぎない。

現在、フートンにはいったいどんな人が暮らしているのか?筆者は実際に北京東四の「十三条フートン」を訪ねてみた。フートンの中に入り込んで見渡してみると、道幅は車1台がやっと通れるほどで、古いエンジュの木の生気が満ち溢れている。

フートンの塀で囲まれた住宅の中では、どこかの家のテーブルに置かれた小型ラジオがなにやら音楽を奏でていた。

われわれのサンプル調査で分かったのは、フートンの住民はほぼ3種類に分けられる。ひとつは先祖代々ここに住んでいる人たちで、現在までに70~80年以上は経とうか。二つ目は一部の老人たちが若い頃、職場から分配された住宅に退職後もずっと住み続けているケースだ。残る一つは比較的収入が少ない、外地から北京に働きに来た人たちである。

ある家を訪ねたとき、入口を入ったばかりのところで、地面に敷かれたデコボコのレンガでつまずきそうになった。多くの家の入口の前は今でも未舗装の泥道のままだ。ひとつの四合院に4、5軒の家庭が暮らし、2平方メートルくらいの共用の調理場があるのも見られた。

2008年、北京市は10億元を投入して旧城内の40以上のフートン、1400以上の住宅の改造を行った。ただし、主にフートン外部の環境を整備したもので、内部の設備などにはあまり改造は加えられていない。

東四「十三条フートン」で、私は一人の大工仕事をしていたおじさんに出会い、彼と話し込んだ。彼と奥さん、それに2人の子供が現在住んでいる部屋は職場から借りているもので、2間あり、1カ月の家賃は40元だそうだ。30年近く暮らしているという。フートンを出てビル(アパートやマンション)に引っ越したくはないかと聞いてみると、「引っ越したくない」と言う。理由は、職場から借りている部屋で、1カ月の家賃がたかだか数十元で、十分便利だし、ここは交通も便利だからとのこと。もっと重要なのは、ここに住み慣れており、フートンでの暮らしの息吹が好きだからだとのことだ。

もし役所がフートンを取り壊して立ち退きを迫られたら、引っ越したいか?と突っ込んでみると、答えは案の定、「越したくはないが、もしどうしても越さねばならないとしても、ここを買い戻したいね」と言う。

北京のフートンでの暮らしは便利で、商店、食料品店、野菜売り場、燃料店、飲食店、屋台など、およそ人々の暮らしにかかわるものはほとんどすべて揃っている。人々はこれらの店に出入りして買い物をし、知り合いと顔をあわせ、世間話をすることで十分満足なのだ。

フートンの中の野菜売り場以外にも、三輪車を推して街を流して歩く店もある。朝早くやって来て、緑鮮やかな色々な野菜を人々に選んでもらう。買うのは大多数がおばさん、おばあさんの類で、彼女たちは車を囲んであれやこれやと尋ねる。長い付き合いで売り手とも馴染みだから、冗談を言って笑わせる。痛快なことこの上ない。

最も目を引くのはフートンの中の煙草屋だ。特に夏は、毎日のように老人や若者が集まってきて、ビールを買ってうまそうに飲みながらおしゃべりをしている。街の話題、世間話、面白い話、何でも聞くことが出来る。

「留住フートン」の画家、况晗が言う。「フートンの魅力は絶大だよ。そこはまるで世の変転をつぶさに経験した老人のように、中国の歴史を刻み込んでいる。時代の変遷を経て、そこはもう天地に溶け込んで一体になっていて、奥の深い文化のよりどころ、自然なものになっているんだ」「フートンはある意味で古い北京の代名詞だね。フートンで暮らさなければ、本当の北京は分からないよ」

「北京は王都として800年の歴史があるが、生きている古代都市だ」考古学者の徐苹芳は言う。「今フートンで暮らしている人たちはもちろん元代の人じゃない。明でも清でもないね。生活習慣が変わってきたから、エアコンもつければ、水洗トイレも使う…。保護するのは難しい、難しい」

現在、元の時代の建物を探そうとしてもそれは無理だ。だが、フートンは北京に残った。フートンの構造は基本的に変わっていない。文化の伝承とはこういうものだ。古代の都市を保護しようと思ったら、最も大切なのはその構造を残し、その肌触りを残すことだ。

北京市の陳剛副市長はかつて、フートンの四合院改造工事に関する座談会で四合院の整備補修工事の目的は人々の生活条件を改善するとともに、古都の姿を残すことだと言ったことがある。筆者は役所がフートンを改造するのなら当然その内部と外側両方に配慮し、フートンで暮らす人々の生活をさらに快適なものにしなければならないと思う。それでこそ古い北京のフートン文化の保存と後世への伝承にさらに益することになるだろう。

「北京の古い家に住む」のが欧米人の中でひとつの流行になっている。あるベルギー人の女性はフートンの中の古い家を借りて住み、毎朝自転車で通勤している。彼女はこう言っている。「ここの一つ一つがまるで映画や小説の中に描かれている古い北京のように感動的で趣があるの」