今回は日本型DXのうち行政DXの4回目として、農林水産省が主導する「農業DX」について述べる。
●農業DXの意義と目的
農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS:FarmingasaService)への変革を実現する。
●農業DXにより実現を目指す姿
農業や食関連産業に携わる方々がそれぞれの立場で思い描く「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術で様々な矛盾を克服して価値を届けられる農業」を実現する。例えば、小人数でも超効率的な大規模生産を実現、多様な消費者ニーズに機動的に対応した食料を生産・供給、高齢者・新規就農者でも高品質・安定生産を実現、条件不利地でも適地適作で高付加価値農産物を生産・販売する。
●農業DX実現の時間軸
2030年を展望しながら、各種プロジェクトを可能な限り速やかに実行。デジタル技術の進歩や農業構造の変化等に応じて、内容・スケジュールを機動的に見直す。
●農業・食関連産業分野におけるデジタル技術活用の現状(図1参照)図1.農業・食関連産業分野におけるデジタル技術活用の現状
●コロナ禍の下で明らかとなった農業・食関連産業分野における課題としては以下の5項目があげられている。
(1)我が国全体:デジタル化の遅れ
(2)経済:従来の「つながり」の分断
(3)社会:不確実性への脆さ
(4)行政:行政運営の非効率性
(5)インフラ:デジタル時代の社会インフラの確保
●農業DXの基本的方向としては以下の6項目があげられている。
(1)政府方針に基づく農業DXの推進(デジタル3原則やデジタル社会を形成するための10の基本原則)
※ デジタル3原則:デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップ
※ デジタル社会を形成するための10の基本原則:①オープン・透明、②公平・倫理、③安全・安心、④継続・安定・強靱、⑤社会課題の解決、⑥迅速・柔軟、⑦包摂・多様性、⑧浸透、⑨新たな価値の創造、⑩飛躍・国際貢献
(2)デジタル技術の活用を前提した発想
(3)新たなつながりの形成によるイノベーションの促進
(4)消費者・利用者目線の徹底
(5)コロナ禍による社会の変容への対応
(6)持続可能な農業の実現によるSDGsの達成への貢献
●農業DXの実現に向けたプロジェクト(取組課題)について以下の3つがあげられている。
(1)農業・食関連産業の「現場」系プロジェクト
(2)農林水産省の「行政実務」系プロジェクト
(3)現場と農林水産省をつなぐ「基盤」の整備に向けたプロジェクト
●農業DXプロジェクトを進めるに当たってのポイント
(1)デジタル技術の効果のわかりやすい伝達
(2)アジャイル対応、KGI・KPIの設定
(3)農業・食関連産業以外の分野との積極的連携
(4)データマネジメントの本格実施
プロフィール
1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。
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