翁 道逵 ベリーベスト法律事務所パートナー(中国弁護士)
日本の仮想通貨に関する法制度ガイド その3

 

「仮想通貨」と「前払式支払手段」

日本において、デジタル通貨には、BITCOINに代表される「仮想通貨」とSUICAのような電子マネーに代表される「前払式支払手段」が含まれる。両者はいずれもデジタル通貨であり、あたかも通貨のように利用できることが共通する。但し、「仮想通貨」は不特定の者に対して使用できるが、「前払式支払手段」は、発行者や加盟店舗などの特定の者のみに使用できる。

「資金決済に関する法律」(資金決済法) 第2条第5項からみると、「1号仮想通貨」は、⑴「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ」ること、⑵「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」こと、⑶財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているもののみ)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの、⑷「本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産」に該当しないこと、という要件が要求される。「2号仮想通貨」は「1号仮想通貨」と相互に交換できる「財産的価値があって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」に限定される。すなわち、「仮想通貨」は不特定の者を対象に、使用、交換などができ、通貨建資産から除かれることに特徴がある。

他方、「前払式支払手段」が同じく資金決済法の第3条第1項に定義され、対価を得て発行される証票などであって、発行者等の特定の者のみが使用できることに特徴がある。また、「前払式支払手段」について、通貨建資産から除かれる規定はない。

 

「仮想通貨」の用途

一般的に、「仮想通貨」はその定義のとおり、資金決済、資金移動、資金調達などに利用することができる。

「仮想通貨」を資金決済の手段として利用する場合、当事者間の合意により仮想通貨を支払えば対価の支払債務が解消される。すなわち、仮想通貨を保有する利用者が決済を行う際に仮想通貨により代金の支払いという意思表示をし、相手方がこれを受容したときに弁済の効力が生じる。但し、例えば事業者が利用者と相手方との間に立って、利用者から仮想通貨を受領し、相手方に法定通貨で振り込む場合、事業者には仮想通貨交換業に該当する可能性がある。次回の「仮想通貨交換業」において紹介したい。

「仮想通貨」を資金移動の手段として利用する場合、現状として外為法上の支払手段として指定されておらず、その価値も変動が激しくてかならず一定の金額に換金されるとは言えないため、「資金」(通常は預金や外貨)には該当せず、為替取引に直ちに当たらないと考えられるが、金銭を仮想通貨に交換して海外で換金し、それにより仮想通貨での資金移動を行った場合、為替取引に当たる可能性もある。

「仮想通貨」を資金調達の手段として利用する場合、イニシャルコインオファリング(通称ICO)として注目されている。現状として新規に発行する段階で流通性に欠けるとしても、「仮想通貨」として取り扱うことに該当しないと直ちに判断せず、発行者、申請者等からの説明や外部情報等を十分考慮し、総合的に判断するものとされている。また、「仮想通貨」に該当しない場合も、出資法などのほかの法規制が適用される可能性がある。

今後、ICOに関する法規制の健全化に注目しつつ、ICOに関しても詳細に紹介したい。

[次回へ続く]