~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その10~
「日本をデジタル社会に導く日本型DXとは」
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

本コラムでは、一貫して、日本がデジタル社会へ向うには、「一極集中(首都圏と大企業)の解消」と「デジタル化」が必要であるということを述べてきた。今回から、何回かに分けて日本が取り組み始めた日本型DXについて述べる。日本はアメリカや中国やヨーロッパと比較して、デジタル化が遅れていると言われている。特に指標となるのが行政システムのオンライン化率である。図1にOECD(経済協力開発機構)から公表されている各国のオンライン率を示す。

図1.行政手続きのオンライン利用率(OECD2018年版)

 

これによると、2018年時点で日本の行政手続のオンライン利用率は7.3%に留まっており、調査に参加した30カ国の中で最下位である。この点について内閣府は、当時、日本の行政のデジタル化の課題として、①日本全体でデジタル化を担う人材が不足していること、②人材の勤務先がIT関連産業に偏っており、行政などの公的部門で働く人材が少ないことを指摘していた。

そこへコロナ禍が襲ったために、日本では、生活と個人事業主などの困窮対策が課題となり、行政システムのオンライン化の遅れが社会問題となった。そこで、浮上したのがデジタル庁の創設とデジタル庁によって、これまでバラバラに構築されてきた省庁別の行政システムを統合化・標準化することである。デジタル庁が創る新システムと他の省庁のシステムがどうあるべきかの基本形を図2に示す。図2の基本形を元に、デジタル庁が主導することで、今後2025年に向けて行政システムの刷新が一気に始動することとなった。

図2.日本型DXの基本となる行政システム基盤アーキテクチャ

 

一方、民間企業のDXについては、行政システムの動向を見据えた上での展開になると思われる。一方、民間企業のDXには段階があると思われる。最初民間企業が追求するのは、現業の経営効率の向上と製造業であれサービス業であれ、生産性向上である。次に企業が追求するのは、現業のビジネスモデルの妥当性の検証に基づくビジネスモデル変革である。さらに次の段階として、企業そのものの存在意義を決定づける社会課題の解決能力を自らが規定できるかどうかにかかっている。

ところで、DXの本質は、これまでのアナログ情報のデジタル化は必要条件であって、十分条件ではない。デジタル化された情報がコンピュータに理解できる仕組みを作ることである。

それでは、ここでデジタル庁のミッションとビジョンを整理する。ミッションは、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」である。また、ビジョンは、「Government as a Service」である。それでは、このデジタル庁が進めるビジョンとミッションに則った、図2で示した各省庁が推進しようとしている、共通のAPIで相互接続されるDXについて次回以降に述べることとする。

 

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。