~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その8~
「地方創生における課題」
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

日本の社会課題は、「デジタル化」と「一極集中の解消」であるが、今回は、首都圏一極集中の解消の鍵を握る「地方創生」に向けての課題について述べる。

地方創生の原点は、「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成」である。「まち・ひと・しごと創生法」に、その目的として「地方創生とは、第二次安倍政権で掲げられた、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とする」と明記されている。これが、2014年に成立した法律で、「地方創生」のために次の3つの矢が定義されている。①高度データ分析が可能な RESAS(地域経済分析システム、リーサス、地方創生の様々な取り組みを情報面から支援するために、経済産業省と内閣官房〔まち・ひと・しごと創生本部事務局〕が担当)を提供する等「情報支援」の矢。②地方創生カレッジ事業、地域活性化伝道師、地方創生人材支援制度等の人材育成・派遣による「人材支援」の矢。③地方創生関係交付金、企業版ふるさと納税等「財政支援」の矢。

このように、情報・人・カネに関する3つの矢を政策の柱としているのが特徴である。2014年からはじまった地方創生活動でもなかなか成果をあげられなかった理由として、前述の6つの分断の存在があるとされる。①「官民の分断」、②「縦割り組織の分断」、③「現在と未来の分断」、④「地域間の分断」、⑤「世代の分断」、⑥「ジェンダーの分断」である。

①については、住民側からは「それは行政の仕事」と決めつけ、行政側も「それは、民間の仕事」と結論付けてしまうことが多々ある。②については、複数分野にまたがる課題に関して、官民両側で起こる。③については、短期的な成果のみを追求する姿勢がもたらす弊害である。④については、過剰な返礼品によるふるさと納税での過剰な奪い合いである。⑤については、長老による若者の排除等である。⑥については、適任でも女性を指導者にしないこと等である。この分断の解決策こそが、SDGsである*。

そこで、分断シナリオ(図1)では、例えば、海洋レジャー事業者が、漁業関係者が、地元商店・ホテルが、行政が、それぞれが自分の利益や目的の達成、立場を優先する行動をとるシナリオで、互いの利害関係が衝突し、誰かが利益を得たら、 誰かが不利益を被る事態が生じる。

一方、協働シナリオ(図2)では、様々な関係者が対話し、地域全体が目指す姿、それぞれの関係者の生活や事業の目的を共有し、ともに達成することを目指すことで、地域全体が活性化し、関係者それぞれが利益を得ることができる。「分断」が「地方創生」課題であり、「協働」が解決策である。

 

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。

図1.「地方創生」の課題となる「分断シナリオ」*

 

 

図2,「地方創生」の課題解決のための「協働シナリオ」*

 

出典: SDGsと地方創生 | SDGs de 地方創生 (sdgslocal.jp)