~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その6~
「オープンイノベーション時代の中小企業にとっての研究開発」
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

前回に続いて、「中小企業が活躍する社会」をどうすればよいか?というテーマについて、今回は、「中小企業の自立」と「中小企業の研究開発力」という視点で述べる。中小企業が、大企業からの発注に依存している最大の理由は、「技術力の欠如」にある。大企業が、中小企業に求めるのは、「労働力」と「技術力」であるが、これまで、安い人件費を基本とした「労働力」であることが多かった。しかしながら、日本における人件費の上昇と円高により、失われた平成の30年間に日本の大企業は、「労働力」を海外に求め始めた。令和に時代を迎え、大企業からの発注が激減した中小企業は、生き残りを賭けた事業方針の転換に迫られている。

中小企業の未来を創るのは、「技術力」であり、技術力の源泉は、「研究開発力」である。この点については、前回、「中央研究所時代の終焉」と「オープンイノベーション」時代の到来という話をしたが、通信事業を独占していたAT&T(米国電話電信会社)のベル研究所に代表される大企業が技術力を独占していた時代の終焉を意味している。オープンイノベーションとは、企業が単独でイノベーションを起こす(クローズドイノベーション)のではなく、企業が他の企業と連携したり、企業と公的研究機関や大学と連携することで起こるイノベーションをさす。現代は、技術革新の速度が速まったことと、技術の多様化と専門化が進んだことから、如何なる企業も単独でイノベーションを起こすことが事実上不可能な時代である。正にオープンイノベーション時代の真っ只中にある。

オープンイノベーションの提唱者は、カリフォルニア大学バークレー校のヘンリー・チェスブロウ教授で、2020年11月11日に深圳市で開催されたグレイターベイエリア科学技術イノベーションカンファレンス2020に私と共に基調講演者としてオンライン登壇した。

グレイターベイエリア科学技術イノベーションカンファレンス2020での藤原洋の講演

 

グレイターベイエリア科学技術イノベーションカンファレンス2020でのヘンリー・チェスブロウ教授の講演

 

チェスブロウ教授の指摘するように企業がイノベーションを起こすには、他の組織との連携が鍵となる。米国は、大学発のオープンイノベーションで有力企業が生まれている。ハーバード大学とマイクロソフト、スタンフォード大学とグーグルなど多くの例がある。ドイツには、フラウンホーファー研究所が、オープンイノベーションの中心的役割を担っている。フラウンホーファーはドイツ各地に75の研究所を構え、およそ29,000名のスタッフが活動し、年間研究費総額は約28億ユーロである。特徴的なのは、この予算のうち24億ユーロ超が委託研究によるもので、研究費総額の70%以上が民間企業からの委託契約、さらに公共財源による研究プロジェクトから発生しており、約30%はドイツ連邦政府および州政府により、経営維持費としての資金提供が行われている。また、民間企業からの資金提供の半分は、中小企業からで、ドイツでは多くの中小企業は、フラウンホーファー研究所とオープンイノベーションを実行している。

日本には、フラウンホーファー研究所に相当する研究機関は存在しないが、大学連合を組織することでこれが可能となる。私は、自らが理事長を務める一般財団法人インターネット協会内にオープンイノベーションコンソーシアム(OIC)を設立し全国大学連合を形成している。ここで、中小企業を含む企業と大学連合とのオープンイノベーションを推進したいと考えている。

藤原洋

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。