~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その5~
「中小企業にとっての研究開発力と社会変化」?
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

前回、「中小企業が活躍する社会」をどうすればよいか?というテーマで、あらゆる企業や組織にとってDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)が必須であり、特に中小企業にとって、生き残りを賭けた施策として取り上げた。その背景には、日本の2つの社会課題である首都圏一極集中と大企業への一極集中の解消が急務であり、特に中小企業の問題は、日本独自の社会風土、企業文化に深く根差しているため、抜本的な変革が必要とされていることがある。

「中小企業が活躍する社会」を創るには、「中小企業が自立すること」が求められる。日本の中小企業の多くは、大企業の下請け企業だ。しかし、製造業を例にとると、戦後復興で高度成長を実現した日本の製造業、経済発展と共に、人件費の上昇から国際競争力を失い、多くの工場が海外移転したことで中小企業には仕事が回らなくなってきた。

表1.日本の研究開発費ランキング(2020年、出典:日刊工業新聞社)

それでは、「需要を喚起する」には、何が必要なのか? 最も重要な要素は、「技術力」である。では、「技術力」は、どうやって獲得し、磨き、確固とした企業競争力へと止揚させることができるのか? その明快な答えとなるのが「研究開発力」である。大企業と中小企業の大きな差が、「研究開発力」にある。表1は、日刊工業新聞社のアンケート調査による日本の研究開発費ランキングである。トヨタ自動車は、19年連続の首位とのこと。また、世界ランキングを表2に示すが、第1位はアマゾンで、トヨタは11位である。大企業か中小企業かは、「需要を喚起する力」という視点からは、本質的ではなく、「研究開発力」のある企業は、「技術力」があり、「技術力」のある企業に顧客が集まってくる。では、「研究開発力」をつけるには、どうすれば良いか?という点であるが、技術革新が速まるにつれて、異変が起こっている。それは、一言でいえば、「中央研究所時代の終焉」と「オープンイノベーション」時代の到来である。独占企業は、自社の競争力強化のために大規模な研究所を持つ時代があった。典型例は、米国AT&Tのベル研究所である。電話の時代に電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルは、ベル電話会社を設立し、電話など通信事業の独占的地位を築いたAT&T社(アメリカ電話電信会社)を設立し、巨大企業に発展させた。その研究所であるベル研究所は、私も3年間滞在したことがあるが、ノーベル賞科学者11名を輩出するなど、世界の通信技術をリードした時代があった。

表2.企業の研究開発費境ランキング(2017年、出典PWCコンサルティング)

しかし、電話の時代からインターネットの時代となり、独占企業が中央研究所を持つ時代は、終焉し、オープンイノベーションの時代が始まったのである。このオープンイノベーションの時代は、正に中小企業が、「研究開発力」を獲得する絶好の時代なのである。次回にその点について述べることとする。

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長(4月から)、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。