~「日本のデジタル社会へ向けての課題と展望」その4~
「中小企業が活躍する社会」を創るにはどうすればよいか?
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO 一般財団法人インターネット協会理事長

前回、「首都圏一極集中」と並ぶもう1つの一極集中問題である「大企業への一極集中」を取り上げた。日本社会は、企業を見る場合、「中身」ではなく「外身」で見る社会である。換言すれば、企業の価値を「規模」で測る社会である。例えば、「大企業」と「中小企業」という言葉が、人間の価値判断にまで及んでいる。「あの子のお父さんは、どこにお勤めですか?」という会話が、お母さんたち同士の日常会話にある社会である。そして、大企業に勤めていると「〇」、中小企業だと「×」という具合だ。しかし、この風潮は明らかに間違っている。何故なら、どんな大企業も始めたころは、小さかったはずだ。私の親しくお付き合いさせて頂いている、企業の例を挙げると、トヨタ自動車、ソニー、京セラ、パナソニック、三井住友銀行、野村證券などは、その生まれは、国営企業ではなく、創業者がゼロから立ち上げた当時は中小企業である。

日本社会における「現在の大企業」と「現在の中小企業」とを区別する風潮は、企業の「中身」ではなく、「外身」(資本金とか従業員数とか上場企業とか)で見ている誤った風潮である。企業価値とは、企業の「中身」で判断すべきである。これが、出来ていないのである。

では、企業を「中身」で判断する社会にするには、何をすればよいのだろうか?それは、「中小企業」自身の「DX化」に尽きる。

DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略語で、スウェーデンのウメオ大学(現米インディアナ大学)エリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされている。また、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションは、スイス・ローザンヌにあるビジネススクールIMDのマイケル・ウェイド(スイスのIMD)教授らによって、2010年代に提唱された概念で、「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と定義されている。さらに、2018年に経済産業省は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義し、企業のDX認定制度を始めている。

日本では、大企業が、このDX認定の取得へ動き始めているが、むしろ政府によるDX認定はともかく、中小企業こそ、DX(デジタル変革)へ舵を切ることで一気に企業価値が上昇する。このような背景の下、「中小企業DX推進研究会」が発足した。同研究会は、中小企業がDXを実現し、今後の発展を遂げることを目指して、全国の会計事務所を中心としたメンバーで始動した。というのは、会計事務所は、そのクライアントに中小企業を数多く抱えているからだ。これまでの税務・財務という面から経営の支援から、経営とデジタルを一体とした支援の実現を目指している。このような地道な活動が中小企業のDX化へとつながっていくだろう。

次回は、「中小企業にとっての研究開発戦略と社会」について述べる。

プロフィール

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学学長(4月から)、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授。