日本のノーベル賞科学技術について(その19)~根岸英一博士~
~「若者よ海外へ出よ!」呼びかける米国で活躍する有機合成化学者~
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

スウェーデン王立科学アカデミーは2010年10月6日ノーベル化学賞を根岸英一・米パデュー大学特別教授、鈴木章・北海道大学名誉教授、リチャード・F・ヘック米デラウェア大学名誉教授3氏に授与すると発表しました。高血圧症の治療薬や液晶材料などに必須の合成法を開発したことへの評価で、授賞理由は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」。医薬品や電子材料など様々な工業物質を効率よく合成する革新的な手法である「クロスカップリング反応」を開発したことです。

根岸氏は、1935年満州の新京生まれで、専門は、有機合成化学、1958年東京大学工学部を卒業後、帝人入社、1963年米ペンシルバニア大学で博士号を取得後,1966年に米パデュー大学のハーバート・ブラウン教授のもとで博士研究員、有機ホウ素化学を専攻。

根岸氏の研究内容は「クロスカップリング(「レゴブロック遊びのように」化合物をつないでいくこと)反応」で、特に「パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応」です。クロスカップリング反応には「触媒」が必須で、例えば、自動車の排ガス用の触媒は、一酸化窒素や一酸化炭素などの有毒ガスを、マフラーの中で、二酸化窒素や二酸化炭素などに無毒化するのです。酸素原子が1つくっつく化学反応が速やかに進むように、マフラーの中で働くのが触媒です。最も高価とされる金、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属を排ガス処理のために使用しているのは、これらの貴金属を極めて高い回転数を持つ触媒として、何年も働かせ続けることができる、すなわち、触媒作用の効用で、最も高価なものを、事実上安価なものとして使えるようにしたことです。

元来、炭素と炭素をつなぐ化学反応が100年の歴史を持つ有機化学ですが、『亀の甲』としておなじみの構造・『ベンゼン環』同士の炭素を自在につなぐことが可能となったのは、実はここ30年での出来事で、これを自由度高く行える手法が、今回の『クロスカップリング反応』として知られている化学反応なのです。このクロスカップリング反応への触媒として有効だったのが、パラジウムという金属ですが、ここには、反応促進のために「マイナス炭素源」が必要で、その開発した化学者ごとに少しずつ違っています。根岸氏は、亜鉛やアルミニウム、鈴木教授はホウ素、ヘック教授は二重結合をメインに活用し、クロスカップリング反応の発展に貢献したのでした。

根岸氏とは、2014年11月21日スウェーデン大使館での日本人ノーベル賞受賞祝賀パーティでお会いし色々とお話をお聞きしました。先人への深い敬意を表されている方で、特に、元素の周期表を提唱したメンデレーエフへの敬意は最大で、「近代化学の元祖と考えられるD. I. メンデレーエフは約百数十年前に元素の周期表を考案しただけでなく、その周期表に何十もの空の枠があることから、まだ未発見のさまざまな元素の存在を予言したと絶賛されていました。

藤原 

<Profile>

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学副学長教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。