日本のノーベル賞科学技術について(その14)~南部陽一郎博士~<第3回/終>
~自発的対称性の破れで2008年ノーベル物理学賞受賞者が米国籍の理由~~Nanbuが今何に興味があるかを米国人物理学者が追い続ける理由~
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

私は、2015年5月からシカゴ大学の外部委員を6年任期で務めています。そんな縁もあり、シカゴ大学で研究された南部博士の凄さをお伝えしたいと思います。「理論基盤を創る人」 「モデルを創る人」とに分類すると、南部博士は、明らかに「理論基盤を創る人」で、例えば、著書『素粒子の宴』の中で、以下のように容赦ない批判と米国籍になった理由が述べられています。

アインシュタインと論争し、「アインシュタインは、“空を見ると月がある”あれにはっきりした位置と運動量が同時に存在しないなんてとうてい考えられないじゃないかという論調で、量子力学の不確定性原理に対する反発です。非常に、何というか、人間的な感覚に訴えるような議論だった。何もインプレスされなかった。・・・ハイゼンベルグの立てた理論はあまりにもおそまつ。新しいことは何も予言できなかったし、今までに知られている現象を全て1つの方程式で説明できると主張したが、結局全部失敗した。・・・米国では、毎年新しいものを出していかないと、評判も落ちるし援助も受けられなくなってしまう。発表しなければ絶滅する―publish or perish」。・・・日本は、研究環境が非常に不利、教授対弟子という旧来の体制、雑用が多い、能率の悪い時間の使い方を強いられている。中堅クラスにいる人が研究費の獲得とか政治的なことで奔走していて活発に研究しているという印象がない。

南部理論によって現代素粒子論の以下の標準モデルが完成しました。

①素粒子を lepton(軽粒子)、 meson(中間粒子)、baryon(重粒子)、quark (クォーク)の4種に分類。基本粒子はleptonとquarkの2種で、他は複合粒子。

② leptonは、当初electron (e-)とneutrino (νe ) だけで、その後、νeと電荷が同じで質量の大きいνμ、e-と電荷が同じで質量が大きいμが発見され、第2世代に分類。同様に第3世代ντと τに分類。

③ quarkは、閉じ込めにより、実験的には 単離確認はされないが、理論的に存在が確信されている粒子。

④ baryonは3つのquarkの複合体。

mesonは1個のquarkと1個のanti-quark からなる複合粒子で、pion(π+)は、 u-quarkとd-quark からなる複合体。

この完成されたモデルは、以下の2つの南部理論から導かれたものでした。

① 対称性の破れがあるとその数だけ質量のないNambu-Goldstone bosonが発生。

② このNambu-Goldstone bosonはYang-Mi1s場の質量ゼロのgauge bosonに食われてそれに質量を与える。

この物質に質量を与える、Higgs機構こそが、これが超伝導機構をアナロジーとして南部博士が素粒子論に持ち込んだものです。南部陽一郎博士は、常に米国人物理学者から「今、Nanbuは、何に興味があるのだろうか?」という質問と視線の中にいた人で、Nanbuを追いかけた米国人物理学者から実に多くのノーベル賞が生まれたのでした。

藤原 洋

Profile>

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学副学長教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。