〈連載〉 北京紀行(その5)
~北京大学での特別講義『第4の産業革命』を終えて~
藤原洋 株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO

このたび北京大学で『第4の産業革命』~デジタル情報革命から環境エネルギー革命へ~と題して特別講義(中国語の通訳付きでの)を行いました。

今回は、人民日報海外版日本月刊の蒋豊編集長と北京大学歴史学系副主任の王新生教授が中心となって開催されたもので、人文学院と経済学院という社会科学系学部の学生対象の講義となりました。

私の講義の主旨は、「社会発展の原動力は、科学技術である。人類は、科学技術上の発見・発明によってこれまで3回の産業革命、動力革命(イギリス)・重化学工業革命(ドイツ)・デジタル情報革命(アメリカ)を経験してきた。そして第4の産業革命が起ころうとしている。今後、日本・中国・韓国などのアジア地域が中心となり、世界経済危機と地球環境危機を回避する役割を担うこととなる。」ということです。

北京大学の学生は、とても優秀でかつ熱心で鋭い質問が多く出ました。大半は、講義内容に関するものでしたが、1つ大学生らしくユニークで自由な質問「日本と中国が協力してアジアが主体となって第4の産業革命を担うということは、良く理解できたが、北朝鮮のような国は、どうなると思いますか?」が出ました。(私は、今回の特別講義を引き受ける際に、私の専門分野は、(政治ではなく)科学技術であるという立場を明確にしてきたのですが・・)、以下のように回答しました。

「その点については、見方を少し変えて、最近の科学、特に生命科学の分野の進歩の観点からお話しします。ミクロな遺伝子生物学とマクロな動物生態学の関係が解明されつつあります。遺伝子構造が98%同等のヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの中で能力を比較すると一概にヒトだけが優れているとは言えない面があります。しかし、ヒトが卓越した能力を備えている点は、コミュニケーション能力とコラボレーション能力で、他の霊長類種が、数十程度の個体群で形成されるのに対して、人間は、できるだけ多数の個体群で形成する『平和を求める本能的な性質』を持っているとのことです。このことが、科学的な観点から今日のグローバル社会の形成につながっていると思われます。従って、いつの日かきっと分り合える時が来ると思っています。」と・・・。この回答には、学生も興味深かったらしく、中国版Facebookの人人網(レンレンワン)に投稿され話題になっていたようです。

この講義は、夕方の18:30からでしたが、質疑応答に長く時間がかかり夜遅くに、王教授の閉めの言葉で終わりました。このキャンパスは、方正集団という企業グループの寄附でできたそうですが、22:00まで、学生たちは、熱心に勉強しています。日本では、これまで、慶應、一橋、東大、京大、早稲田、豊橋技科大、長浜バイオ大学等でレギュラー講義や特別講義を何度も行ってきましたが、今回の北京大学での講義は、初めて(そもそも中国でも)でした(米国MITと韓国KAIST等はありましたが)。特に日本の学生と比較して、感じたことは、非常に熱心で、自分の意見を言いつつ、多くの質問をするという点でした。日本の学生もこのような積極姿勢を見習うべきだと機会があるごとに伝えたいと思います。(つづく)

 

 

藤原 

<Profile>

1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒。日本アイ・ビー・エム株式会社、日立エンジニアリング株式会社、株式会社アスキー等を経て、株式会社インターネット総合研究所等を設立し、現職。96年、東京大学より工学博士号を取得。現在、SBI大学院大学副学長教授、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。