中川十郎 名古屋市立大学22世紀研究所・特任教授
日本の衰退(3)

日本の衰退への対応策としてはコロナ後の対策にGreen Revolution(緑の革命)とともにDX(Digital Transformation)、さらに健康・医療対策に真剣に取り組むことだ。前述の日経「デジタル立国ジャパン・フォーラム」では9月に内閣のデジタル庁が発足することもあり、デジタル専門家による長時間の熱のこもった討論があった。

「Internetの父」とも呼ばれる村井純・慶應義塾大学教授など情報専門家の有益な講演があった。今後Global Cyber 空間での安全、安心な日本の構築が重要だと強調された。

内閣情報通信政策監(政府CIO)の三輪昭尚氏は5Gによるデータ活用、社会基盤整備と、社会実装、デジタル社会に備え、教育、医療、Cyber Securityなどを組み込んだDigital Government、Digital Societyの構築による社会問題解決が必要だと強調された。さらにEBPM(Evidence Based Policy Making)の重要性も指摘された。

デロイト・トーマツのCSO(Chief Strategy Officer)の松江英夫氏は日本の失われた30年間に米国、中国との差がついて、GDP per Capita(一人当たりGDP)では日本は23位に衰退。Digital 教育では46位、Data 活用では実に63位に後退していると日本の出遅れに警告を発せられた。

これは要するに日本は内向き「タコつぼ」型、Closed 自前主義社会で変革スピードが遅い。既存ルールの偏重が目立つ。情報関係予算の80%が既存のシステム維持に向けられている。89%の従業員がデジタル教育の機会がないと指摘。これではデジタルの破壊力、創造的破壊に貢献できない。

専門分化をつなげて統合的価値に重きをおき、新たなものを作り出すことが大切。そのためには既存の強すぎる組織、業界を改革し、新たな価値創造、すなはち「在るものを活かし、無きものを創る」ことが大切だとの指摘には同感で感銘を受けた。

データをつなげ、価値を創造し、地域を活性化するためにはデータを読み解き、課題を解決できる人財の育成、教育により人材の高付加価値化で、新しい産業創造と雇用機会の創出が大切だと強調された。全く同感である。

コロナ後は社会のパラダイム(仕組み)が大幅に変革する。かつて日本がIT・情報革命に乗り遅れたのは1990年代のインターネット革命に日本の組織が閉鎖的で、かつ既得権が強すぎ対応できなかったことが原因だ(野口悠紀雄『リープフロッグ』)。

今またデジタル変革の時期に同じ過ちを犯してはならない。日本の官民の硬直した組織と既得権を破壊し、新たなデジタル社会の構築に向けて官民が総力を結集し、21世紀のGreen Revolution, Digital Transformation, Health, Medical Revolutionに対応することこそ、コロナ後の日本再生、日本生き残りのために肝要だ。日本の官民の奮起を期待する次第である。(終り)

 

 

中川 十郎

鹿児島ラサール高校卒業、東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒。ニチメン(現双日)入社。米国ニチメンニューヨーク本店開発担当VPなど海外駐在20年を経て愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部、大学院教授。対外経済貿易大学大学院客員教授、大連外国語大学客員教授、国際アジア共同体学会学術顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。『国際経営戦略』同文館、共著『知識情報戦略』税務経理協会、他多数。