中川 十郎 名古屋市立大学22世紀研究所・特任教授
「世界平和の基盤としての経済」(2)
~コロナ後の世界経済と平和の構築~

3.世界平和と経済発展

経済は政治、文化、平和の下部機構である。政治、社会、文化、平和構築の基盤は経済である。したがって平和希求のためにはまず下部基盤の経済を強化することが肝要であるというのが筆者の信念である。

イタリア・ルネサンスはフローレンスの金融財閥メデイチ家の財力が基盤にあった。ローマ帝国は領土内の経済基盤を固め、パクス・ロマーナ(ローマの治下の平和)をもたらした。産業革命で世界の7つの海を制覇した英国はパクス・ブリタニカの下、世界を制覇した。二つの大戦に勝利した米国は戦後世界のGDPの50%近くを抑え、20世紀後半、パックス・アメリカーナの下、世界の軍事、経済、政治を抑えた。しかし21世紀に入ると世界経済発展の軸がアジアに移動しつつある。アジアと中国のパックス・アシアーナ、パクス・チノアの世紀が到来しつつある。アジアの世紀、特にポストコロナ禍の世界は、これまでの大量生産、大量消費、大量環境破壊、利益追求一点張りの古い資本主義から利害関係者すべてが恩恵を受け特にアジアから格差の少ない社会、平和な世界の構築に尽力すべきと思われる。世界の平和構築には政治、文化、平和のための基盤の下部機構である世界経済を発展、強化し世界を豊かにすることが必須だというのが筆者の信念だ。

地政学的には21世紀に発展するアジアから平和を構築する努力が肝要である。

アジアでは発展しつつあるASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国からなるAEC(アセアン経済共同体)、さらに2020年11月に締結された画期的なRCEP(東アジア包括的経済連携=ASEAN10カ国に豪州、ニュージーランド、日本、韓国、中国を加えた15カ国が参加=インドは脱退)。人口22.6億人(世界の30%)、GDP26兆ドル(世界の30%)。

英国も参加を申請したTPP(環太平洋経済連携=11カ国、人口5.1億人(世界の6.7%)GDP11.3兆ドル(世界の13%)などで経済基盤を強化し、世界の経済発展とさらに世界の平和構築に努力することが望まれる。

一方、中国、ロシアが主導し、21世紀に発展するユ-ラシアの広域経済圏SCO(上海協力機構=中国、ロシア、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ウスべキスタン、インド、パキスタンの8カ国が加盟、他にモンゴル、イランなどがオブザーバー)、ロシア、カザフスタンが主導するEEU(ユーラシア経済連合=ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、キルギス、アルメ二ア)に加え、中国が注力する21世紀に発展が見込まれる世界の陸地面積の40%を占めるユーラシア大陸を中心とする広域経済圏構想「一帯一路」などが今後のアジア、ユーラシア、アフリカなどで、ポストコロナで大きな影響力を発揮するものと思われる。

日本もグローバルな視野からこれらアジア、ユ-ラシアの広域経済圏構想に世界平和の観点からも参加を真剣に検討すべきと思われる。

中川 十郎

鹿児島ラサール高校卒業、東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒。ニチメン(現双日)入社。米国ニチメンニューヨーク本店開発担当VPなど海外駐在20年を経て愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部、大学院教授。対外経済貿易大学大学院客員教授、大連外国語大学客員教授、国際アジア共同体学会学術顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。『国際経営戦略』同文館、共著『知識情報戦略』税務経理協会、他多数。