富阪聰著『「反中」亡国論―日本が中国抜きでは生きていけない真の理由』
日本に今、必要なのは「思い込み」ではなく「現状分析」

 

米国と中国との対立が世界を覆っている。同盟国・米国と最大の貿易・投資相手国・中国との狭間で、日本は難しい選択を迫られる。多くの米国情報が溢れる日本では、米国が「対中包囲」を仕掛け、中国が防戦に追われる図式が強調されるが、実態を探ると異なる実態が拡がる。

「“チャイナvs.世界"で得するのは誰か?」―が本書の主要なテーマ。日本で30年前から吹聴されてきた「中国崩壊論」の根拠のなさが解明される。日本に今、必要なのは「思い込み」や「感情論」ではなく冷徹な「現状分析」であると本書は説く。豊富な統計や事実に基づいた冷徹な筆致で綴られる。

米中対立が進めば従来の覇権国家と新興の2番手国家が衝突する「トゥキディデスの罠」に陥る懸念も根強いが、今の米中は深い相互依存関係にあるのが米ソとの決定的な違いだ。

本書によると、中国にとっての至上命題は「経済発展」。米中対立の長期化を覚悟し、広域経済圏構想「一帯一路」を前面に押し立て、アジア、中南米、中東、アフリカを中心に支持を固めている。低成長に苦しむ国々にとって、中国の巨額投資や巨大市場は魅力的だ。

中国とEU(欧州連合)の貿易量は21年、コロナ禍の逆風をはね返し、対前年比で5.3%も増加し、EUにとって初めて中国が最大の貿易相手となった。21年にASEAN(東南アジア諸国連合)との貿易額も21年にプラスを維持し、国・地域別で欧州を抜いてトップになった。

第4章で詳述されている「ウイグルと香港の『不都合な真実』」も興味深い。(1)インドも抜け出した「反中クラブ」(2)日本がウイグル族のために立ち上がる意味(3)日本、中国、ロシアも射程に入るミサイル開発に道を開いた韓国(3)アメリカと国連がウイグル人団体をテロ組織に認定した理由―なども類書にない視点だ。確たる証拠もないのに、外国にいる反体制勢力の政治的かつ感情的な主張を鵜吞みにし、自らの目で確かめないメディアが多いと問題提起している。

さらに米国政権が中国叩きの材料として持ち出した「権威主義対民主主義」のイデオロギー対立図式がダブルスタンダード(二重基準)であることや、ウイグルへの「ジェノサイド」認定が米国務省法律顧問室によって否定された事実などが列挙される。「ウイグル族を“駒"として考えていたCIA」、「香港民主化運動の裏で暗躍するNED(全米民主主義基金)の存在」「香港警察を主導したのは中国人ではなくイギリス人」「民主化の遅れた」国々の支持獲得を目指す外交シフト」など、通り一遍の西側報道にはない裏事情も興味深い。中国経済に大きく依存している日本が配慮すべきメッセージとして掲げる(1)中国に向けた中距離ミサイルを米国の意向を受け配備することを避ける(2)台湾、香港問題に踏み込むこと(3)「経済発展」を阻害すること―の3点も有用だろう。

日本の中国関連ビジネス企業は3万社以上。人口減と低潜在成長率にあえぐ日本にとって、中国は最大の貿易投資国であり、中国人訪日客へのコロナ後の期待も大きい。(ビジネス社、1540円)

 

<評者プロフィール>

1971年時事通信社入社。ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。Record China社長・主筆を経て現在同社相談役・主筆、人民日報海外版日本月刊顧問。日中経済文化促進会会長。東京都日中友好協会特任顧問。著著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。