マルクス・ガブリエル(著)髙田亜樹(訳)
『つながり過ぎた世界の先に―コロナ後、資本主義はどう変わるのか』

史上初めて中国が世界中の人間行動を統合=コロナ禍で完全に「同期」した!

「新実在論」「新実存主義」「新しい啓蒙」と次々に現代思想の新しい潮流を生み出している、ドイツの気鋭哲学者マルクス・ガブリエル氏が、新しい時代のビジョンを提起する一冊。世界中を覆った新型コロナウイルスの蔓延により「人類史上おそらく初めて、世界中で人間の行動の完全な同期がみられた」と新たな論考を披露。「コロナ禍で人々が一斉に倫理的な行動をとったことは、資本主義の行方にどのような影響を与えるのか」と問い掛ける。

冒頭、コロナ禍により「世界が意識的に行動を統一させた」と強調。「私が最も眼を見張ったのは、世界中の人間の行動を最初に統合し、ロックダウンの方法やペースなどを設定したのが中国だったこと。中国が人類史上初めて、すべての人の行動を変えることに成功した」と続けた。「中国がリーダーとして世界の基調を定めた。これは新しく、この同期化は興味深い」と独自の見解を披歴する。「(中国は)リーダーとして世界の基調を定めた」というのは従来のステレオタイプ的な論考にはない哲学者ならではの斬新な切り口である。

さらにこの同期化はウイルスが我々に強いたものではないとし、「すべての人間は当然ながら同じ種のホモサピエンス。ホモサピエンスはウイルスに直面したとき、特定の反応をする」と続ける。その上で「行動の同期化には社会経済的、政治的、心理的な説明、そして最終的には哲学的な説明が必要だと思っている」という。

「2019年以前の秩序は終焉した」との表現も刺激的だ。「あらゆることが起こった今、社会全体について考え直している。人間の行動は植民地化されただけでなく、コロナ化された」と指摘。過去20年間に、SARS、MERS、エボラ出血熱など新種のウイリスが続々と出現した事例を紹介した上で、「この期間に出てきた多くのウイルスに気が付いた今、もう以前の『普通』の状態に戻ることは決してない」と断じる。

さらに「米国人は自分達が反差別主義者だと信じているが、実際には差別主義であり、中国人は漢民族という差別主義的な概念の上に成り立っていて、明らかな差別主義者である。この二国が接触するとき、激しく対立する」と喝破。「中国についても敵視せず、人類のコミュニティの一員として接することが必要である」と記述する。

また「危機は倫理的進歩をもたらす」と持論を展開。「ウイルスは、倫理的行動こそが問題の解決であることを教えてくれた」とし、「コロナ後は環境危機と経済危機がやってくる。その解決策は、経済的価値体系を、倫理的価値体系と一致させることだ」と強調する。「21世紀は倫理資本主義の時代である。世界で最初に持続可能で、かつ倫理的な資本主義体制を作った国が、21世紀で最も豊かなスーパーパワーになる」と記し、「倫理資本主義」時代の到来を予言している。(PHP新書、定価1,056円)

<評者プロフィール>

1971年時事通信社入社。ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。Record China社長・主筆を経て現在同社相談役・主筆、人民日報海外版日本月刊顧問。日中経済文化促進会会長。東京都日中友好協会特任顧問。著著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。