石田 建昭 東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 代表取締役会長
中国のマーケットと企業の魅力を伝えていく

 

東海東京証券を傘下に持つ東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、証券ビジネスを中核とする日本屈指のイノベーティブな総合金融グループとしての地位を確立している。コロナ禍の現在、歴史的な転換期を迎えているといわれる日本の金融業界の現状と課題について、同社の石田建昭代表取締役会長にお話を伺った。(聞き手は本誌編集長 蒋豊)

 

日本の経済力をどう復活させるか

―― デジタル経済は、中国経済の新たな成長エンジンとなり、わずか20年で世界トップレベルのデジタル社会を築き上げました。日本でもデジタル庁が創設され、本格的なデジタル化の取り組みが始まろうとしています。

石田 かつて日本は、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代がありました。その頃から見ますと、日本の世界における経済力、産業競争力はどんどん地盤沈下しています。これをどう復活させるかが大きな課題です。

一部では、日本はいろんな意味で後進国になったと言われています。例えば、デジタル化ですね。あとエネルギーもそうです。2050年までの脱炭素社会実現という目標を達成させるために、日本は様々な取り組みを実施していますが、ヨーロッパよりはるかに遅れています。

それから、SDGsの目標でもあるジェンダーの平等実現においても日本の取り組みは非常に遅い。環境問題にしてもしかりです。

ですから、こうした日本の現状を、当時に比べて大きな下落傾向にある日本の国力をどう盛り上げるか。その一つとしてデジタルをどう取り上げていくのか。これが今、非常に重要な日本の産業課題だと思います。

日本の産業は、昔はものづくりで世界のチャンピオンでした。でも今は、そう言われなくなりました。それは、一つにはホームランバッターがいなくなったからです。

私自身、国際関係の仕事が多いのですが、昔なら世界の空港に降り立つと、必ず日本企業の看板が非常に大きく宣伝されていました。パナソニックやサンヨー、その他にもいろいろありましたが、今はほとんど見ることはありません。産業面で、トヨタ以外に、日本が誇るホームランバッターがいなくなった。そういう意味で、日本の産業力は確実に落ちているのだと実感しています。

それはなぜか。やはり日本のデジタル化が世界のスピードに追いついていかなかったということです。これにはいろんな要因がありますが、何とかしないとダメだというのが、日本の産業界の非常に大きな関心事になっています。

 

コロナ禍が証券界にもたらした大きな影響

―― コロナ禍で、国民の生活様式が大きく変わりました。コロナ禍が証券界にもたらした一番大きな影響は何ですか。

石田 これは証券界だけではなく、日本の社会全体が気づいたことですが、いかにデジタライゼーション(デジタル化)が大事かということです。

証券界では、大きく分けるとオンライン証券と、店舗を構える対面型(フェイス・トゥ・フェイス)での証券会社があるわけですが、当社のような対面型証券会社のお客様は、ほとんどがシニア――高齢者の方々です。日本の高齢者は預金をたくさん持っていますから、自然とそうなるわけです。対面型証券会社に若い方はあまり来ません。若い方の一つひとつの取引金額は小さいのです。

ところが、オンラインを使った証券会社は、お客様から預かった有価証券や金銭などの資産が増えています。これは若い方の口座がものすごく増えているからです。

今はまだ、対面型証券会社が一定程度の業績をしっかり上げていますが、10年、20年後を見据えたときに、これは大変なことになるなという危機意識がわれわれにはあります。ですから今、将来の証券界のデジタライゼーションをどうするか、ということに対してみんなの関心が高まってきています。

 

 ―― コロナ禍で働き方に変化はありましたか。

石田 もう一つは働き方改革ですね。当社もそうですが、相当デジタルのインフラを整えて、自宅でテレワークする形態になっています。そうすると、どんどん働き方が変わってきています。社員自身が自宅で業務が行えるようになってくると、出社する必要がなく、従来の働くスペースも要らなくなるわけです。

そうしますと、働く側の意識も変わってきます。これだったら別に会社に所属していなくてもいいのではないか、仕事ができるのだからと。

こうした状況は、証券界でいえば、お客様から資産運用などの相談を受けて実践的なアドバイスを行うファイナンシャルアドバイザーのように、自分で仕事を受け、自分で完結できるということを意味しています。そうすると、自分で会社を設立して、個人顧客に資産運用などにかかわるサービスを提供するというように、働き方が変わっていく可能性もあると思っています。

ですから、現在のコロナ禍は、証券界の未来に大きな問題提起をしたということが言えます。

 

 ―― そのほかに、どのような変化が起こっていますか。

石田 コロナ禍とは直接的には関係がないのですが、最近ではやはりスタートアップの課題があります。新興企業をどう育てていくのか、日本はものすごく遅れているわけです。

日本人が臆病なことにも関係しているのですが、若い人も含めてなかなか挑戦しない。しかし、次々と新しいスタートアップ企業をつくり出さないと、世界に追いついていきません。こういう空気が今やっと出てきて、特に東京地区では、若い人のスタートアップを育てよう、あるいはIPO(新規公開株式)をどんどん上場させようという動きが出てきています。

今回のコロナ禍によって、日本の遅れがものすごく際立ち、日本人の中に、日本はすでに後進国になったという意識があります。ですから、スタートアップにしても、これからどんどん制度を変えて、新しい企業が生まれるようにしなければいけないと思います。

 

アジアマーケットの魅力を伝える

―― 御社は、すでに中国や韓国などの大手証券会社や暗号資産取引業者などと提携し、金融ビジネスをグローバルに展開しています。アジア、特に中国ビジネスの課題と将来展望についてお聞かせください。

石田 私は銀行出身なのですが、銀行員時代は20年以上海外勤務でした。最初の勤務地がバンコクでしたので、アジアに親近感を持つと同時に関心が高いです。1970年代にバンコクに赴任した当時は日本がチャンピオンでした。ジャパン・アズ・ナンバーワンです。日本企業がどんどんアジアの各国へ進出していました。

ところが最近は様相が変わり、タイの友人と話をしても、そのうちにタイは日本をすぐに追い越すと言うのです。立場の逆転です。アジアの国々は、これからも成長を続けるだろうと思います。

日本は、先ほど申し上げた諸問題を解決しようという意識はありますが、やはり最大の課題は高齢化であり、人口減少社会ということです。これをカバーするために、アジアのマーケットに出ていかなければならないという意識は前々から持っています。コロナ禍でなかなか行けない現状ですが、アジアのマーケットを改革しようと考えているのです。

中国につきましても、世界2位の経済大国へと成長しました。金融面から見ても中国はとても魅力的です。例えば今、世界的に低金利です。アメリカの国債も低い金利になっています。日本の国債などは0.0いくつです。ところが中国の債券は3%くらいで金利がまだ高いのです。ですから、日本の投資家も、中国の債券に投資しようという動きがあります。

当社は中部地区・名古屋の企業ですが、名古屋はものづくり、トヨタで有名です。トヨタは中国でも非常に業績を上げていますので、中国に対する関心を高めないといけません。中国の企業は非常に成長しています。株価的にも中国企業がアメリカで上場して、その株価も上昇しています。

これからは中国、あるいはアジアの国々に対して、日本の投資家をどう向けていくかが最大のテーマです。そこに証券会社が果たす役割は非常に大きくなると考えています。

これからどんどん情報を集めて、日本の投資家に中国をはじめとしたアジアマーケットの魅力を、アジアの企業の魅力を伝えていく必要を強く感じています。

 

―― 今年は東京でのオリンピックを大成功で終えました。来年2月にはいよいよ北京冬季オリンピックが開幕します。どのように期待されていますか。

石田 オリンピックは残念ながら海外からのお客様が来場できませんでした。世界はやはり、オリンピックを平和の祭典として、人類が統合するシンボルとして、みんなが期待し、盛大に開催されることを心待ちにしていました。

そういう意味では、北京冬季オリンピックも平和の祭典でありますし、世界が力を合わせ成長していく繁栄の祭典でもあります。このことをしっかり意識して、北京冬季オリンピックを成功させてほしいと願っています。