及川 美紀 株式会社ポーラ代表取締役社長
美意識の高い中国化粧品市場に最上の商品を提供

近年、中国の化粧品市場は拡大を続けており、日本ブランドを含む海外製品で占められていた市場に中国国産ブランドが急成長し、新しい波が起きている。そうした中、日中両国にエステサロンを展開するポーラは中国人の肌の状況、中国の環境と習慣に合わせたソリューションの開発で、中国国内での評価と信頼を高めている。

最上の商品をお客様に寄り添い提供

—— ここ数年、ポーラのブランドは中国消費者の間で知られており、「ブライトニングケア」や「エイジングケア」シリーズは大変な人気です。御社の事業の特徴について教えてください。

及川 1929年、創業者鈴木忍が手の荒れた妻のために、最上級のハンドクリームをつくったことが創業のきっかけです。「人から人へ、最良のものをお届けすること。それはお客さまのお肌や生活の様子を伺い、実際に見て、正しい使い方をお伝えしながらお手渡しすること」を原点に、量り売り、訪問販売がスタートしました。

「美しさを販売し商品を奉仕せよ」という創業者のことばを今でも大切にし、商品に妥協せず、最上のものを作り上げること、そしてその最上の商品を「お客さまが美しくなるソリューション」とともにビューティーディレクター等がお客さまに寄り添いお届けしています。そのため、エステ、カウンセリングなどのサービスに強みを持っているのもポーラの特徴です。

近年は、お客さまの利便性を求める声や生活パターンの変化に応じて、EC販売等にも力を入れています。

各販売方法にはそれぞれ利点がありますが、共通して言えることは、お客さまの肌、生活、お気持ちに寄り添い、お手入れを通じた解決ができることで「効果実感」をより高めることができること、様々な解決策を提案することでお客さまからの信頼を得られることです。

—— 御社は2029年に創業100周年を迎える「100年企業」です。これまでの間、世界のあらゆる環境が激変しました。老舗企業として存続してきた経営の秘訣は何ですか。

及川 お客さま、ビジネスパートナーとの関係性につきます。先ほど申し上げた販売方法をとっているため、お客さまからは、商品、ビューティーディレクター等へ高い信頼を頂戴しており、継続率が高いのが特徴です。新規顧客を数多く獲得するというよりは、継続率の高さで安定した顧客基盤を構築しています。

また、ビジネスパートナー同士のネットワークも強固で、日本全国津々浦々でベストプラクティスを共有しながら、人材育成のナレッジが構築されています。ビジネスパートナーは女性が多数を占めますが、社会の変化に応じて、個宅訪問、職域訪問、エステサロン、化粧品専門店など、柔軟にビジネス形態を変化してきたのも特徴です。

現在はエステサロン、化粧品専門店、百貨店、セミセルフ店、ECなど、多様な形態のショップで展開できているのも特徴です。ビジネスの形態は柔軟に変えますが、先述の「お客さまに寄り添う」という哲学は軸をぶらさず、大切にしています。

「総合的な美肌づくり」に貢献するブランド

—— 中国の消費者は御社の製品を非常に高く評価しています。御社はブランドの国際競争力を高めるためにどのような取り組みをされていますか。特に、欧米市場と比べ、中国市場にはどのような特徴がありますか。

及川 中国のお客さまに評価を頂いていることはうれしい限りです。近年ますます美意識が高まる中国の消費者の皆さまは商品を見る目も厳しく、効果効能、安全性、企業ポリシーなど、様々な視点でブランドを判断します。

メーク主体の欧米市場とは違い、中国のお客さまの「真の美肌」への意識は世界でもとりわけ高く、表面的ではない根本的な効果をお求めです。

国際的な競争力の源泉は研究開発力にあると考えており、当社グループの研究開発の最大の特長は、女性の二大肌悩みである「シワ・シミ」の領域にリソースを集中させていることです。

特に、エイジングケア・ブライトニング領域の基礎研究や新素材開発では、世界にない当社グループのみのオリジナル成分や特許、素材を複数保有しています。

例えば、1980年代にヒアルロン酸を世界で初めて化粧品に配合して市場に送り出しました。2017年には、業界初となる「シワを改善する」医薬部外品を発売しています。そういった当社の研究開発力の高さ、エビデンスの確かさ、安全性、信頼性を強く打ち出し、日々最先端の研究による最上の商品をお届けすることに加えて、中国でも展開しているエステサロン等の「美容サービス」をさらに強くアピールし、「総合的な美肌づくり」に貢献するブランドであることを知っていただきたいと考えています。

ポーラの独自価値である「Science.Art.Love」を中国のお客さまにも感じていただけるよう、最先端のサイエンス、ブランドが大切にしている文化芸術のお客さまとの共有、お客さまの美容に寄り添うLOVEをさらに進めてまいります。

深い関係を築くコアなお客様を増やす

—— 2020年11月11日の「独身の日」セール前後1カ月間で、SNS(ウェイボー)でつぶやかれたブランド名を分析したところ、上位30位にランクインした日本ブランドはわずか2社でした。専門家は「中国消費者の日本ブランド信仰が崩壊している」と分析しました。このような現象をどのように見ていますか。今後どのような対策を取られますか。

及川 昨年のW11 では「国潮」と総称される中国国産ブランドの成長が一つの特徴であったと思います。価格だけではなく、品質やデザイン性も優れているブランドも多く、今後は市場の中で更に存在感を高めていくと思います。そういった中で中国の消費者はどんどん新しい知見を得て、比べる目を高めています。

日本のブランドは比較的堅実なマーケティングを実施し、顧客との強い関係性を築くことに注力するところが多いです。特に当社はその傾向が最も強いブランドではないでしょうか。

つまり、日本ブランド信仰が薄れてきた、というわけではなく、「よりよい商品が増えた」とか「マーケティング戦略の違い」などがあるのではと考えています。

今後も当社は中国のお客さまに対して、丁寧なブランドの哲学の説明と体験価値の創出、信頼感を持っていただいて、深い関係を築くコアなお客さまを増やすことで強固なブランド基盤を作っていきたいと考えております。

ただし、選んでいただくためにも一定以上の認知が必要ですので、中国を中心としたアジア全体でのブランド露出を図るべく、中国市場を見据えたマーケティング戦略は認知、体験、評価の3点でブランド露出の質と量を増やします。

—— 現地の社員教育はどのように行っていますか。

及川 中国国内の店舗数は、百貨店カウンター・エステサロン型店舗合わせて52店舗(2021年1月現在)です。日本にポーラUniversity(以下ユニバーシティー)という、ポーラの美容教育をすべて管轄する機関があります。そこでは上海や瀋陽の現地スタッフとコミュニケーションを取りながら、技術確認も同時に行っています。実際、言葉の問題等々もあり、中国現地で教育をしているのは研修を受けた中国のスタッフですが、技術については中国のスタッフ、日本のスタッフともすべて同じレベルになるように、ユニバーシティーで管理しています。

ジャパンビューティーの存在感を高めたい

—— 1月6日の「日本経済新聞」によると、中国の化粧品ブランドが日本に上陸しました。近い将来、中国のスキンケアブランドも日本に進出すると言われています。これからの中日両国の美容・化粧業界の将来展望についてお聞かせください。

及川 中国、日本という枠組みを超えてアジア全体のスキンケアブランドのマーケティングが必要になると考えています。特に中国のお客さまは世界を股にかけてご購入されますし、知識も豊富です。

今後は今以上に、商品以外の「美容ソリューション」を求める方が増えてくると思います。その点で日中両国にエステサロンを展開するポーラは、強みがあると考えています。

特に日本においても中国出身のエステティシャンやサロンオーナーが増えているのも特徴で、40年以上続くエステのノウハウは他ブランドにはまねのできない強みです。今年、ポーラは3ヶ年のコミュニケーションワードを「WE CARE MORE」と定め、よりお客さまのケアを深める提案を強化していきます。

今後はアジア全体で体験できる価値を増やし、戦略の中心を中国におき、中国の方の肌の状況、中国の環境と習慣に合わせたソリューションの開発で、中国国内での評価と信頼を高めていきます。日本で培った、カウンセリング、エステ、肌分析等の手法を中国でも活かし、総合的な美肌ソリューションをアジア全体に深めていきます。

美容のもつ普遍的な期待をさらに高め、アジア全体でのジャパンビューティーの存在感、ポーラブランドの存在感を高めていきたいと考えています。