上杉 孝志 株式会社アイコーチ代表取締役
世界は「経済学は道徳学」を学ぶべき

大学卒業後、証券業界に身を投じてから40星霜――。株式会社アイコーチの上杉孝志代表取締役は、これまでの経験を活かし、「小さなリスクを引き受け小さな利益を積み重ねる」アイコーチ式トレードの習得を勧めている。折しも2021年NHK大河ドラマ「青天を衝け」、そして2024年発行予定の新紙幣に登場する「日本資本主義の父」渋沢栄一が唱えた「資本主義には道徳が必要」との言葉に、「経済学は道徳学です」と語った。

40年の経験を生かしたアイコーチ式トレード

—— 代表はこれまで40年近く金融証券市場に身を置き、日本と世界の経済事情に精通していると思いますが、御社の事業の特徴と強みについて教えてください。

上杉 当社の主な事業は、証券市場を通じての投資――特に「ローリスク投資法」という株式の売買をお客様にお勧めしています。大きなリスクを引き受けて、大きな利益を得たいと誰しも思いますが、むしろローリスクでリターンも小さい投資法です。でも、日々それを積み重ねていく、いわゆるデイトレード(金融商品の売買を1日で完結させる取引スタイル)によって、初心者の方でも結果的には大きなパフォーマンスを得られるということをご理解いただきたいと思います。

このデイトレードをする方をデイトレーダーと呼びますが、デイトレーダー・スタートアッププログラムという講座を皆様に受講していただいています。お一人お一人が、デイトレーダーとして独立をして、ご自分の資金と判断で所得を得られるように支援するビジネスモデルです。基本的には副業の手段としてデイトレードを覚えたいという方向けの講座です。

当社の強みは「40年の経験」です。私は大学卒業後、1982年に証券会社に就職をしまして、足掛け40年になります。よく笑い話になるのですが、証券マンとして駆け出しの頃、お客様から、「株をやっていることは周りの人には内緒にしてくれ」と言われる時代でした。それが85年のプラザ合意以降、折からの円高と相まって、だんだんと値を上げ続け、89年末には史上最高値を経験しました。

その後は皆さまもご承知の通り、失われた20年、あるいは25年ともいわれますが、長期低迷する日本経済をこの目で見てきました。2011年の東日本大震災の際に、日本はこの先どうなるんだろうと思われましたが、翌12年の暮れに安倍政権になって、13年6月に、アベノミクス(大胆な金融緩和、公共事業を拡大する財政出動、規制緩和などによる成長戦略の「三本の矢」を放つことで成長を目指す経済政策)が提唱されました。

結果的に、それで経済が立ち直ったかどうか分かりませんが、日経平均が今、30年ぶりに3万円を超えてきた中で、これまでの40年を振り返り、実感することは、「相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」ということです。

これまで多くの方々に、40年間の経験を活かした「小さなリスクを引き受け小さな利益を積み重ねる」アイコーチ式トレードを体得していただいています。

人生百年時代に必要なのは具体的な人生設計

—— 人生百年時代を迎え、私たちを取り巻く環境は大きく変わりました。老後に必要なお金に関して、金融庁と担当大臣の見解の相違が取りざたされたこともあり、国民は老後に大きな不安を抱えています。老後の人生設計をどのように考えればよいのでしょうか。

上杉 これから誰もが初めて経験する人生百年時代を迎えます。自らの責任において様々な選択を迫られる機会が多くなり、決断する時に過去の価値観が意味のない事に気付くでしょう。

豊かな人生設計にお金は重要です。しかし預金する事で不安が払拭される事はないでしょう。重要なのは具体的な設計です。ひとつひとつの経費を明確にし、固める部分と遊びの部分をつくると安心できます。自分自身の人生をどう設計していくかは自分自身で決めなければなりません。

中国はすでに無視できない「世界のマーケット」

—— 中国は世界第2位の経済大国に発展しました。近年、日系企業の中国撤退、コロナ禍での「脱中国化」など、日中ビジネスを取り巻く環境もさまざま変化しています。中国ビジネスの重要性をどのように考えていますか。

上杉 これまで中国は「世界の工場」と呼ばれていましたが、今では「世界のマーケット」となりました。中国は今後も世界一の人口を有し、世界最大のマーケットであることに変わりはありません。

中国の調査機関が2月に発表した報告書によると、資産額が1億円を超える「富裕世帯」が初めて500万世帯を突破しました。国民の生活水準の向上に伴い年収1000 万円を超える「中流層」は2億人を超えていると言われています。

上海や北京など大都市を除く地方都市では人件費や物価、オフィス代などは日本より安価だと聞いています。

また、各地の経済をけん引する経済技術開発区では行政側より十分な事業支援補助金の給付が受けられるなどの優遇措置があり、さらなる経済の発展が見込まれています。

一方で、世界第2位の経済大国となった中国の経済成長はいつまで続くのかといった不安や外国製品の輸入に関する規制の厳しさ、知的財産権保護の問題など、未だ懸念材料があることも否定できません。

しかし、今後のグローバル経済はもはや中国抜きには考えられず、日本にとっても中国ビジネスはとても重要だと思っています。

世界経済はピンチでもあり大きなチャンスの10年間

—— 日本経済は高度成長期、バブル崩壊からの「失われた20年(または25年)」を経て、長期低迷を抜け出せないでいます。一方、米中貿易摩擦が世界経済に大きな影響を与えています。そして、終息が見えないコロナ禍において、世界経済はどの方向に向かうとお考えですか。

上杉 今後の世界経済の動向を予測することは大変難しいと思います。その理由はどこの国が世界のトップに立つのか流動的だからです。私個人は最終的には中国がトップに立つと思っています。ただ、アメリカがやすやすと覇権を譲るとも思えません。これからアメリカの中国に対する経済攻撃が強化される可能性が高いと思われます。日本はアメリカの経済攻撃を受けた経験があります。そういった意味で「日本華人理財学習塾」を運営しております。長期経済低迷を強いられた日本の苦い経験を反面教師として中国の方々のお役に立てればとの思いです。

1815年、ワーテルローの戦いでナポレオンが負けたときからイギリスの覇権が確立し、1918年の第一次世界大戦後にその座はイギリスからアメリカに移ったと考えられています。 計算するとイギリスが覇権を掌握した期間は103年です。アメリカの掌握期間も今年でちょうど103年です。昨年来、「米中貿易摩擦、ついに『覇権争い』へ進展か」などとメディアの報道が過熱していますが、まさに次の103年に向かっている感があります。

EUはアメリカ離れを、イギリスは再度太平洋での海洋国家を志向しているように思われます。また、国家ではなくGAFAMに代表される大企業が覇権を掌握する可能性を論じる学者もいます。

いずれにしましても、世界に大きな構造変化が起ころうとしていることは間違いありません。そういう時代だからこそ世界に目を見開いて考え、行動していかなければならないと思います。今後の10年間は、世界経済にとって、ピンチでもあり大きなチャンスでもあるのです。

渋沢栄一に学ぶ「資本主義には道徳が必要」

—— 2021年NHK大河ドラマ「青天を衝け」、そして2024年発行予定の新紙幣に登場する渋沢栄一が脚光を浴びています。中国では「日本資本主義の父」「日本近代実業界の父」と評価されていますが、代表はどのように評価していますか。

上杉 いよいよ大河ドラマの主人公になる。そして新しいお札の顔になるということで、渋沢栄一とはどういう人物なんだろうという機運がものすごく高まると思います。

いわゆる資本主義とは、どこまでもコストを少なくして、どれたけの利益を上げていくかということに尽きます。これまでは合理化イコール資本主義という意識が非常に高かった。

渋沢栄一の著書に『論語と算盤』がありますが、そこには「資本主義には道徳が必要である」と述べられています。

渋沢栄一に遅れること40年、今も世界中で尊敬を集めるイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズも、「経済学は本質的に道徳学であり、自然科学ではない」と論じています。40年という時間の差がありますが、長久の歴史から見れば、ほぼ「時を同じくして」同じようなことを考えていたわけです。

これからの時代、資本主義に道徳が必要だというようなことが、世界中に知らしめられて行くでしょう。今の日本の経済界に道徳が必要なのかどうかを思い知らせること自体、私は非常に大きな意義があると思っています。

また、世界的に、経済に「道徳」という考え方を少し入れていかないと、世の中が大変なことになると考えます。このことが世界中で拡大する格差社会の処方箋になると考えるからです。

かつて渋沢栄一が唱えた、「資本主義に必要なのは道徳」という「道徳」の概念は、もともと中国の孔子から学んだものでしょう。そういう意味では、われわれ日本人は中国から多くを学んできたのです。