菊池 尚 ライフスタイルカンパニー株式会社代表取締役
中国コスメブランド日本進出のパイオニア

1月6日の『日本経済新聞』にライフスタイルカンパニー株式会社がフーカルーア(FOCALLURE)、ガールカルト(GIRLCULT)など中国の新興コスメブランド4社の国内総代理店となり、日本で販売を展開するとした記事が掲載された。新型コロナウイルス感染症の影響で、目元にメイクのポイントを置く女性が増えている。ライフスタイルカンパニー株式会社の菊池社長はこのニーズをすくい上げ、鮮やかな色の中国コスメを日本の消費者に届けている。先日、菊池社長にインタビューし、4歳で来日した新華人がどのように日本市場で中国コスメによる「チャイボーグ」の風を巻き起こしたのかを聞いた。

中国コスメの販路拡大は「体験感」で

—— 今まで日本の化粧品が中国の消費者に人気でしたが、御社では逆に中国コスメを日本に輸入されています。中国コスメのブランドを日本で販売しようと考えたきっかけは何ですか。

菊池 2019年後半から、日本では中国コスメの知名度が上がってきました。中国ブランドはコラボ商品の生産に長けていて、消費者の目を引くのが得意です。また、中国ブランドはネットでのインフルエンサーによる発信を含めた情報発信を重視しており、日本でもSNSを中心に情報が拡散され、消費者に注目されるようになりました。こういったことから、チャンスが来ていると思いました。私が中国で仕事をしていたとき、日本ブランドの中国国内プロモーションに携わったのですが、そのときから中国ブランドの成長は目覚ましいものがありました。特に化粧品の分野では消費者が海外ブランドを支持する傾向にありましたがここ数年、中国ブランドが国潮の流れもあって急成長していることもあり中国コスメに注目したのです。

日本の化粧品市場は成熟していますが、日本ブランドは基礎化粧品主体のところが多く、メイク分野では市場の開拓余地があります。日本にはデパートコスメはじめ欧米のメイク系商品が多数入っており、ここ数年では韓国コスメも日本市場で人気を得ており、メイク系商品も多いのです。中国のメイク商品のブランドも急成長していますから、日本で一定の市場を獲得できるはずだと考えたことも、中国ブランドを売り出すことを決めたきっかけとなりました。

—— 日本と中国の消費者が化粧品を購入する際、何か違いはありますか。

菊池 化粧品は基本的には女性向けのものですから、日中間にそれほど大きな差はありません。選ぶ基準としては、「ブランド」、「効能」、「価格」などです。違いはというと、中国の消費者のほうがより流行っているもの、他の人が持っているものを購入する傾向にあり、日本の消費者のほうが自分の使用体験を重視してまだ知名度の低いブランドでも購入する傾向にあります。

海外への輸出には三つの要素が必要

—— ここ数年、中国の化粧品市場規模はすでに日本を抜いており、ファーシーズ(花西子Florasis)、カーズラン(CARSLAN)、ズーシー(ZEESEA)などのブランドは急速に成長しています。今後、多くのブランドが日本に進出すると思われますが、中国ブラントが日本に進出する際、どういった点に注意が必要ですか。

菊池 「成分」「品質」「価格」が海外輸出の三つのポイントです。まず、「成分」ですが、欧米や日本に輸出するには英語の成分表が必要で、さらに輸出国ではどの成分が禁止されているかを理解する必要があります。製品の成分調整には工場の協力が必要な為、ここで難航するブランドは多いです。

二番目に注意すべきは「品質」です。中国ブランドの中には短期的な収益を重視し品質管理を疎かにしているブランドもありますが、日本でも品質面が一定水準以上でなければ早期に淘汰されるだけでなくバラエティストアへの導入も難しい為、そもそも売上を作ることが困難です。

第三の注意点は「価格」です。韓国コスメも日本で流行っていますが、一部のブランドは勢いに任せているだけで、出店や出荷量を制限せず、市場での価格競争を招き、最終的にはブランドの寿命を縮めています。

インフルエンサーがプロモーションの切り札

—— 日本の多くのブランドは数十年、百年という歴史があり、日本の消費者にも相応の購買習慣があります。中国ブランドの多くはまだ歴史が浅いのですが、日本の消費者に中国ブランドを宣伝する際、どのような手法を取るおつもりですか。

菊池 基礎化粧品は基本的にはなかなか変えられませんが、メイク品は変えやすいので、アイシャドウだけでも十数個持っているという人もいます。消費者の新しいものを求める気持ちが私たちにとって大きなチャンスとなります。

どのようにチャンスを掴むかというと、商品を宣伝するのに、ネットのインフルエンサーが非常に重要な役割を果たしてくれるのです。いくらテレビCMを打っても、すぐに消費者を動かすのは難しいのです。やはり自分がフォローして日常的に見ているインフルエンサーがおすすめすれば、じゃあ買おう、ということになります。

—— 有名なタレントでも効果はありませんか。

菊池 最近中国ではネットでの中継販売が流行っているのですが、有名タレントに高いお金を払っても、インフルエンサーにかなわないことが殆どです。今の消費者はとても現実的で、有名人ということで購入するというわけではありません。そのタレントが有名で、美容に詳しくて、その製品を使っているのであれば、購入するかもしれませんが、たとえば女性アイドルが宣伝しても、そのファンは多くが男性ですから、コスメの購入には繋がりません。宣伝費は費用対効果を考えれば、専門のインフルエンサーの方がいいのです。

日本のEコマースは中国に倣うべき

—— 中国はEコマースが成長しており、内需を促進するにも効果を上げていて、世界的にも注目されています。日本のEコマースはどんな点を中国に学ぶべきですか。

菊池 2018年、日本の化粧品販売のEコマースの比率が5.8%だったのに対し、中国ではすでに35%を超えていました。弊社が現在取り扱っている中国ブランドはEコマースでの売上比率が70%を超えています。

比較すると、中国のEコマースはアフターフォローも整っており、商品の包装にも気を配っています。さらに重要なのは、製品のウェブページを開くと、1つ1つの商品ページに詳しい商品説明があり、内容も生き生きしていて立体的で、見た人が買いたくなるように作ってあることです。Eコマースサイト自体のUIが最適化されているだけでなく各出店しているメーカーの商品ページの作り、購入前・後のチャットを通じたカスタマーサービス、商品を届ける際のワクワクの演出、と学ぶことはたくさんあります。

—— 中国のネットはサービスが行き届いていて、消費者はオンラインショッピングを楽しめます。これに比べ、日本ではまだリアル店舗を重視すべきなのでしょうか。

菊池 そうですね。日本ではEコマースの比率が低い為、まだまだリアル店舗での販売に力を入れる必要があります。現在、弊社で展開するいくつかの製品はすでに日本のロフトやPLAZAで販売しております。ただ、中国のブランドによっては中国国内でネットでの販売モデルに慣れている為、日本でも同じ手法で行きたいと言われることがあります。私たちも自社サイトやAmazon等のモールにも出品しているのですが、売り上げからいうとリアル店舗の方が圧倒的に多いのが実態です。

若者が時代の主人公

—— 中国では改革開放の初期には、日本の経済モデルを手本にしていましたが、後に中国経済は大きな成長を遂げ、すでに世界第二の経済大国となりました。ある意味、日本は中国に倣ったほうがよいと思うのですが、これについてはどう思われますか。

菊池 私は日本で大学3年生のときに中国に留学しました。北京に行ったとき、ちょうど北京オリンピックが開かれており、北京に住んでいた親戚が男子マラソンのチケットを取ってくれて、オリンピックをこの目で見ることができました。2010年に留学を終えて帰国し、それから日本で2年間働きました。その後、上海の会社に入りました。

4歳のとき中国を離れましたが、新華人ですから、毎年中国の親戚を訪ねています。おっしゃるように、私自身が中国の大きな変化を強く感じています。特にこの十数年来、中国の消費は大幅に伸びて、中国のブランドもだんだん日本に入ってくるようになりました。日本の中国に対する好感度も上がっています。

申し上げたいのは、中国の多くの企業のトップが20代、30代で、判断力も行動力もあり、一緒に仕事をしていてとても楽しいということです。私は法人営業を10年以上行ってきた為、多くの日本の会社の方にお会いしましたが、日本企業の役職者の方は50代、60代の方ばかりでした。特に印象に残っているのは、中国にいるときに日本の大手アパレルのEコマースをサポートしていたのですが、このブランドのファッションは若者向けだったのに、担当チームで一番若い方が40代だったことです。結局、その後すぐに中国市場から撤退してしまいました。

これも、中国の成長の原動力が若者であるということを説明していると思います。日本との対比ははっきりしています。今はITの時代であり、若い世代が時代の進歩を牽引していけるのです。私は小さい頃からパソコンに触れていましたし、若い人は新しいものを受け入れる能力が高いと感じています。

取材後記

取材を通して、菊池社長の中国コスメに対するこだわり、中日の今後の提携への信念が感じ取れた。IT化の推進は中国のEコマースの台頭を促し、国産ブラントの成長をリードし、ますます多くのブランドがネットに乗って海外へと進出している。中国ブランドのグローバル化の未来は明るく、新世代の若者たちの実力ははかり知れないと痛感した。