稻福 誠 株式会社ナンセイ代表取締役
鉄・非鉄スクラップを再資源化華人企業に扉を開く

物寂しい七月であった。夏祭りが自粛された日本では経済活動も活力を欠いているようだ。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、各業界は多かれ少なかれ苦境に直面している。相次ぐ試練に見舞われる中、循環型経済を推し進める日本企業が躍進し、社会全体に新たな希望を注いでいる。コロナ禍に対する悲壮感と復興への期待感を胸に、梅雨明けの某日午後、東京・江戸川区の株式会社ナンセイ本社を訪ねた。


撮影/張桐

事業で成功を収め、

古里に恩返し

ナンセイという名前には見覚えがあった。2019年11月、「『古里に恩返し』東京のナンセイ、首里城再建へ5000万円」という記事が『沖縄タイムス』に掲載された。「東京のナンセイ」とは、今年創業30周年を迎えた株式会社ナンセイである。

2019年10月、かつての琉球王国の政治、文化、経済・貿易、交流の中心で、日本の11番目の世界文化遺産である首里城が突然の火災に見舞われた。正殿は焼失し、多くの文物や文化遺産が甚大な損害を被り、修復が急がれた。

400人を超える従業員を擁するナンセイは、90人が沖縄県出身者である。取締役会にも4名の沖縄県出身者がいる。東京で設立されたナンセイは沖縄を第二の故郷と位置付け、自らの役割を果たすべく首里城の再建に尽力することを従業員共通の願いとした。

ナンセイの役員、従業員は寄付という形で首里城の再建を支援した。ナンセイをはじめとする企業及び社会団体の支援を得て、日本政府主導の下、再建工事は2022年に着工し、2026年末に完了の予定である。

記者は、ナンセイの稻福誠社長から、今回の寄付は「中国の力」に後押しされたものであると思いがけない説明を受けた。

「寄付を決めたのは、中国出張中でした。集団主義的で周囲に同調することをよしとする日本社会では、社会貢献であっても売名行為と批判を浴びがちです。そのため、私は早くから寄付を考えていたのですが、なかなか決断することができませんでした。ところが、中国に足を踏み入れて、その恐れを知らない力強さと大胆な行動力に触れて、『細かいことを気にする必要はない』という思いに至り、決断することができたのです。事後、那覇市長がナンセイの東京本社にお見えになった時、私はまだ中国にいました」。

 

日中が手を携えて世界へ

ナンセイは、大型商業施設の内装解体工事業、産業廃棄物リサイクル処理場建設等を主な事業とし、創業以来、循環型経済の発展と環境に配慮した省資源社会の構築に力を注いできた。

ナンセイの取締役会には中国籍の劉国利執行役員がいる。劉氏は華僑の故郷として有名な福建の出身であり、「天下の先たるを恐れず」の精神の実践者である。取材中、稻福社長は幾度となく彼を称賛した。「意思決定の瞬間には、必ずと言っていいほど劉さんの一言があり、ナンセイを着実に前進させてくれました」。


劉国利執行役員

福建華僑の強みを活かし、劉国利はナンセイの海上輸出ルートを開き、国際業務を開拓し海外投資協力を展開した。リサイクル処理された建築資材は市場に戻され、多くの発展途上国や先進国で使用されている。

事業の版図は東南アジア、南アジア、ヨーロッパ、アメリカに及ぶ。同業他社が海外市場への運搬業務をサードパーティーに頼ったとしても、一回につき最高で5千トンしか運搬できないところを、ナンセイは資源の強みを活かして、一度に2万トンの運搬が可能である。

良好な協力関係は中日両国の経済・貿易交流だけでなく、人的交流も促進した。株式会社ナンセイは劉国利の後押しを得て、およそ100人の福建人を雇用している。さらに、毎年中国から少なくとも15人の技能実習生を受け入れ、過去17年間で受け入れた技能実習生は300人を超える。

毎年、ナンセイの担当者が自ら中国に赴いて面接を行い、直接採用することで採用コストを削減している。そうすることによって技能実習生の仲介料が不要となり、会社の人件費を全て技能実習生に支払うことができる。ナンセイで働く技能実習生の月給は35万円である。これは日本の大学新卒初任給のほぼ2倍である。

彼らは潤沢な報酬を蓄え、故郷に戻って土地を購入(土地使用権を取得)し、新居を建て、創業する。そして、故郷にナンセイと稻福社長の名を伝え広めるのである。

人を大切にし、希望を託す

記者は稻福社長が提唱する「列島感」という概念に瞠目した。稻福社長はその背景となる人情味あふれる物語を滔々と語ってくれた。

「福建も沖縄も海洋資源が豊かで、多くの島々を有しています。共に海とともに栄え、似通った地域特性によって相互理解、相互尊重を深めてきました」。

稻福社長はこの「列島感」の概念を熱心に実践し、中国から来た技能実習生に理解を寄せ尊重した。

中国人にとって、春節は離れて暮らす家族が集まる重要な祝祭日である。日本では旧暦の正月ではなく元旦を祝って長期休暇を取る。稻福社長は日本の社会習慣を技能実習生に強いるどころか、年末年始の長期休暇を終えたばかりの彼らに有給休暇を与え、彼らが心置きなく帰国して家族と共に春節を過ごせるよう配慮した。

これに異議を唱える日本人従業員に対して、稻福社長は忍耐強く訴えた。「これは一つの学びです。他国の風俗習慣や文化を学び尊重することです。道理ではなく人情なのです!」と。

「情によって人の心を動かし、礼をもってこれを遇する」。毎年、ナンセイでは中国からの技能実習生が離日する際に送別会を開く。稻福社長は一人ひとりと握手をし言葉を交わす。そして彼らに賞状と餞別を贈り感謝の気持ちを伝えている。彼らは高収入を得た上に、栄誉を胸に帰国するのである。

経験を共有し、

共に未来を切り拓く

2020年が明けてより、世界は多事多難である。中日両国は相互に補い合いながら協力し、密接に連携して新型コロナウイルス感染拡大の第一波の封じ込めに成功した。

しかしグローバルな視点から見れば、コロナ禍は国際間の貿易・経済、文化交流を阻害し、中日間の物流や人的交流にも影響を与え、収束の見通しは立っていない。

それでも、未来について語る時、稻福社長の言葉は自信に満ちている。「ナンセイの組織構造及び技術的優位性が、逆境に遭うほどに成長するという特長を決定づけています。リーマンショックの時も東日本大震災の時も、拡大のチャンスを掴み、挫折と試練を経験する度にブラッシュアップし、大きく成長してきました」。

現在、ナンセイは日本全国に15の工場をもち、2019年度の総売上高は247億円であった。3年後に300億円に到達し、10年以内に500億円を突破することを目標に掲げている。

稻福社長は、これまでに中国を50回以上訪問しており、一年に4回行ったこともあると誇らしげに話した。

初めて中国を訪れた時の情景は今でもはっきりと覚えているという。それは1997年のことで、当時の上海から、堅実かつ生気溌剌たるパワーを感じたという。

2018年、ナンセイは、社員研修を特別に中国・大連で行った。社員に本当の中国と力強く発展する東洋の巨人の活気と潜在力を感じてもらいたいとの首脳陣の願いからであった。

沖縄出身の稻福社長も酒豪であり、いつも心ゆくまでお酒を楽しむ。「中国に出張に行くと、予定通りに帰国できないことはしょっちゅうです。一日、二日帰国が遅れます。原因は飛行機に乗る前日に飲み過ぎることです」と屈託がない。

中国の街を歩くと、勢いよく進む都市建設と並行して、昼夜を分かたず建物の取り壊しや改修の工事が行われている。稻福社長は、建築廃棄物処理、天然資源保護、環境汚染などの問題が深刻化していることを懸念する。

中国住建部の統計によると、中国では毎年、建築面積がおよそ20億㎡ずつ増加しており、一年間に排出される建築廃棄物は都市ごみの総量の3~4割を占め、少なく見積もったとしても、中国で一年間に排出される建築廃棄物は15万トン以上になるという。

建築廃棄物は都市ごみの中でも最も害が少なく、合理的に利用すれば二次汚染は発生しない。前瞻産業研究院が発表した『中国建築廃棄物業の展望及び投資分析報告』の推計によると、2020年度に中国で排出される建築廃棄物は50億トンが見込まれ、それらをエコ建材に変成すれば1兆元(約15兆円)の価値を生むという。

「他山の石、以って玉を攻くべし」。日本には諸外国が学ぶべき、資源回収やリサイクル分野の豊富な経験がある。30年の経験をもつナンセイの先進的生産理念、科学的運営スタイル、持続可能な開発戦略は、必ず発展途上にある中国の建築廃棄物回収・リサイクル業にとって貴重な参考となり助けとなるに違いない。

稻福社長は「ナンセイは今パートナーを募集中です。もっと多くのパートナーと手を携え、ともに資源を再生利用できる環境保護社会構築のために貢献したい」と抱負を語ってくれた。

取材後記

生活の中で、環境汚染によって様々な病気に苦しむ人々は、持続可能な発展の道を模索し、建築廃棄物を適切に処理しなければやっかいなことになるということを、より切実に感じているであろう。

ナンセイのような企業が、最前線で数十年を一日の如くに、資源回収効率を高め、資源循環プロセスを改善し、地球の生態系バランスを保護し、後世に幸福をもたらすことを自らの責務としていることは幸いである。

取材を終えると、雨は止み、空は晴れ渡り、大気は緑の清々しい香りがした。雨は大地を潤し、いくつもの流れとなって海に注ぐ。人類の惑星は無限に循環し生命の光を放ち続ける。より多くの華人企業がナンセイの陣列に加わることを願っている。