島田 和幸 株式会社ファンケル代表取締役 社長執行役員CEO
無添加化粧品とサプリメントのパイオニア

新型コロナウイルスの感染拡大でマスク不足が問題になるなか、化粧品・健康食品の総合メーカーであるファンケルも不織布マスクの限定販売を開始した。

1980年、池森賢二氏が個人創業したファンケルは、防腐剤や殺菌剤、香料などを一切使わない無添加化粧品の製造販売からスタートしたことで知られる。今回の不織布マスクの販売も同社の創業理念の延長線上にあるようだ。

今年は創業40周年、化粧品、サプリメントから肌着まで、同社の製品は日本国内だけでなく中国女性にも大変な人気になっている。


撮影/本誌記者 洪倩

創業理念は「不」の解消

—— 御社は、無添加化粧品の創始者と言われています。1980年当時、無添加化粧品の領域はまだ空白地帯でした。創業者の池森賢二氏が、この斬新な領域を開拓されたきっかけについて教えていただけますか。

島田 1980年代、日本では化粧品による肌トラブルが社会問題になっていました。化粧品の中に入っている防腐剤などが、肌トラブルの原因になるのです。そこで、添加物を一切含まない美容成分だけでつくった化粧品を世に送り出したのがファンケルの始まりです。

当時化粧品業界では、防腐剤や殺菌剤、界面活性剤を入れない化粧品などあり得ませんでした。美容成分は防腐剤を入れないと傷んでしまいます。そこで、創業者の池森は、傷まないうちに使い切れるようにものすごく小さい5ミリリットルの注射用のアンプル瓶に化粧液を詰めて発売しました。これはまさにイノベーションです。

次のイノベーションは1994年から開始するサプリメントの発売です。当時健康食品は高額で、なかなか続けられないという「不」がありました。そこで、アメリカで一般的に使われていた「サプリメント」という名称を日本で初めて用いて、品質の高い製品をお求めやすい価格で発売しようと始めました。

当社は、創業理念である『世の中の「不」を解消する』ことを常に考え、展開しています。

—— 近年、日本及び中国市場において、無添加化粧品が続々に発売され、市場競争も高まっています。そうした中で、御社の市場優位性を教えてください。

島田 研究開発力です。毎年研究開発費には売り上げの3%強を投じ、研究員は200人います。この規模でこれだけ研究開発に力を入れる企業は数少ないと思います。自然派とか無添加と言われている化粧品は世の中にたくさんありますが、当社には独自の基準を設け、安心、安全だけではなく、無添加こそが美容成分の効果を最大限発揮するまで技術を進化させてきました。

無添加へのこだわりとしては、完全密封容器を開発し、医薬品が製造できるレベルの環境で製造し、食品のように製造年月日まで入れています。

製品を日々進化させることができるのは、創業以来40年研究開発にこだわってきたからだと自負しています。

上海ツアーで顧客の声を聞く

——  御社の製品は中国の消費者に愛用され、特に「マイルドクレンジングオイル」とサプリメントは大変人気があります。中国と日本の消費者を比べて、購買層や購買傾向に違いはありますか。

島田 日本での化粧品の一番多いお客様層は40代です。当社の化粧品の主力は基礎化粧品ですが、20代は、基礎化粧品よりメイクに関心が高いことや、色々なブランドを試してみたいという気持ちが強いのかもしれません。

中国のお客様層は30歳前後が中心です。中国の方に人気のサプリメントに「年代別サプリメント」という製品があります。20代の男性、女性、30代の男性、女性というように、年代と性別ごとに必要な栄養素をワンパックにしたサプリメントです。60代までご用意していますが、最も売れているのが20代と30代の女性です。

私は、中国のお客様の実情を知りたいと思い、一昨年、10年ぶりに上海に行ってみました。上海では、商業施設を見るだけでなく、30歳前後の女性8人にグループインタビューをさせていただきました。

彼女たちからは、「高価でも良いものが欲しいし、安心・安全には絶対こだわる」とか、「自分のものと子供のものには幾らお金をかけてもいい」、「大阪、東京などは上海からわずか3時間なので海外旅行だなんて思っていない」といった意見がありました。中国の方は物を見る目がしっかりしていて、自分の意見をしっかり持っています。そしてすごく考え方がポジティブだと感じました。

中国の実情を知ってもらうために、2018年から役員含め延べ200人以上の従業員に中国に行ってもらいました。当時は「インバウンドがしぼむかもしれない」とか、「そのうち日本の製品は中国の人に飽きられて売れなくなるのではないか」、「もう明日にも売れなくなる」といった声がささやかれていました。でも中国に行ってみるとみんなそんな心配は不要だと確信を持って帰ってきました。


撮影/本誌記者 洪倩

中国に積極的に

情報を発信

—— 中国にどうやって情報発信しているのですか。

島田 中国視察から帰ってくると、中国市場に対する見方が変わりました。かつては、中国から来られるお客様に対しては受け身で、なぜ製品が売れるのかよく分かっていませんでした。中国を視察して、もっと当社のことを知ってもらえる、使って喜んでいただいているお客様がいらっしゃるということを知ると、その期待に応えたいという雰囲気に社内全体が変わりました。

そこで、中国のお客様向けにどういう広告宣伝、プロモーションができるか、情報発信ができるかを考えるようになり、海外マーケティンググループという専門の部署をつくりました。

日本在住の中国の方や、SNSで日本から発信する情報を見ていただける中国の方に積極的に情報発信しています。

ある時、中国からKOL(キーオピニオンリーダー)の方をご招待して、研究所や工場を見学していただきました。すると、ファンケルはすごいことをやっているじゃないか、何でこのスゴさを伝えないのかという意見をたくさんいただきました。そこで、製品だけではなく、当社の製造や研究のこだわりに関する情報も発信しはじめました。これは昨年の春ぐらいから、ずっと続けています。

今まで広告宣伝は、主に日本国内向けに行っており、中国のことはあまり意識していませんでしたが、今は中国のユーザー向けに情報発信用の予算を確保して、いろんなことを年間計画に盛り込んで行っています。

健康寿命を延ばしたい

—— 近年、中国政府は健康増進に力を入れ、国民の健康レベルの向上に取り組んでいます。中日両国の高齢化が加速的に進む中、両国の健康食品及びサプリメント市場に対して、どのように取り組んでいますか。

島田 当社は、健康食品事業を通じて健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。今、日本の医療費は約43兆円です。今後も増えていく見込みで、国家の重要課題となっています。平均寿命は年々伸びていますが、健康寿命の差が10年近くあり、その10年の間には医療費が使われます。そこで、病気になる前の「未病」という考え方がとても重要です。生活習慣病には、高血圧だったり高血糖だったり、いろいろありますが、病気と診断される前の数値が少し高目の方のためのサプリメント開発に今、注力しています。

中国も今後、高齢化社会になるでしょう。「健康中国2030」という健康分野における国家計画も掲げています。当社が2017年にサプリメントの販売代理店契約を結んだ国薬国際(中国国際医薬衛生公司)は、中国最大の医薬品企業グループの子会社です。今後、中国の健康寿命延伸に向け一緒に取り組んでいきます。

2018年に上海で開催された第1回中国国際輸入博覧会に国薬国際と共同でサプリメントを紹介するブースを出展しました。その時にCCTV(中国中央テレビ)と新華社の取材を受けたのですが、最も人気の高いブースと言われ恐縮しました。昨年出展した際も大変盛況で、健康への関心の高さを強く感じました。今秋開催予定の第3回博覧会にも出展する予定です。

中国は最も大事な市場

—— 新型コロナウイルスの影響で訪日観光客が激減し、多くの化粧品メーカーに大きなダメージを与えています。御社では、どのような対策をとっていますか。

島田 4月のはじめから始まり、ゴールデンウィークあたりにはほぼすべての直営店舗が休業となりました。全体の3割強ある直営店舗の売り上げが、ほぼ1カ月間、ゼロになるという恐ろしい状況です。

ただ、当社の強みでもありますが、売上の4割は通信販売です。クレンジングやスキンケアは毎日使わないといけないもので生活に必要なものです。休業して買えないとご不便されている直営店舗のお客様に対して通信販売のご利用をご案内しました。結果、通信販売の売り上げは、昨年同時期と比べて5割程伸びました。

中国への越境ECでのサプリメント販売も強化しました。新型コロナウイルスの影響も収まり、現地の店舗も徐々に良くなっていくでしょうが、これからは、eコマースをどれだけ伸ばしていくかだと思います。

—— 今後、日本も中国も社会経済活動が再開される中で、やはり中国市場は、日本の化粧品企業にとって大きなポテンシャルがあると思います。今後のビジネス展開及び中国ビジネスの重要性について、どのようにお考えですか。

島田 中国国内での化粧品販売は店舗が中心で、約190店の店舗がありますが、今後eコマースでの販売に着手する必要があると考えています。

サプリメントは現在、ビタミン、ミネラルを保健食品として現地で販売できるよう許認可申請しています。認可後は、eコマース、越境ECに加えて、ドラッグストアや市中免税店など、販路を広げていきます。

コロナが終息して、LCC(格安航空会社)の運航が再開され、たくさん中国の方がお見えになっていただけるということに期待しています。

日本市場はこれから高齢化が進みますし、人口が減少トレンドであることは間違いありません。そういう市場にもしっかり適合していかないといけませんが、日本の約12倍の人口がいらっしゃる中国を最も大事な市場だと捉え、スピード感をもって全社をあげて取り組んでいきたいと思います。