大山 健太郎 アイリスオーヤマ会長
メーカーベンダーは中国市場でも有利に展開する

生活家電からペット用品まで多彩な商品カテゴリを扱うアイリスオーヤマは、メーカー機能と問屋機能を併せ持つメーカーベンダー方式を日本国内で唯一実現したユニークな企業である。そのユーザーダイレクトを基にした新商品の開発は、年間1000点以上にも及ぶ。1996年には中国に進出し、その後も新設した拠点工場は現地化が進み、今では中国国内に向けたメーカーベンダーを展開している。今年、会長となられた大山健太郎氏にさらなる抱負をお伺いした。


撮影/本誌記者 原田繁

強みとしてのメーカーベンダー

—— 御社は今年で還暦ですが(笑)、創業60周年を迎えられる御社の強みは何ですか。

大山 普通、日本の場合、メーカーは代理店・問屋経由で商売をしますが、われわれはメーカーベンダーということで、メーカーでありながらベンダー(問屋)の機能を持っています。ですから、問屋を通さずにチェーンストアへ――ホームセンター、コンビニ、スーパー、家電の量販店など、全てわれわれはダイレクトに小売とお取引をしています。これは日本でも当社しかない仕組みで、強みだと思います。

それができたのは、やはり品揃えが多いからです。出身業種であるプラスチックだけとなるとそれはできなかったのですが、当社は「業態」視点による品揃えということで、生活のシーンに合わせた形で2万点を超える商品を品揃えしているので、それができるのです。問屋に負けないだけの商品を持っているメーカーといえます。

メーカーベンダーのメリットは、1つは、流通マージンがなくなります。もう1つは、新しい商品をつくったときですが、普通は問屋が扱う、扱わないという問屋の壁があります。しかし、当社の場合は、つくれば100%小売に紹介ができます。要するに、市場調査が直接できるというか、小売のPOSデータはないけれども発注データがあります。小売は売れたものしか発注しないので、まさに全国の販売データが1週間遅れで当社にあると、このように考えています。

—— それが御社の「革新」、イノベーションということですね。

大山 そうです。われわれのイノベーションは4つあります。1つは、メーカーベンダーであることのイノベーション。もう1つは、業態メーカーとしてのイノベーション。製造業というのは業種業ですから、金属なら金属、プラスチックならプラスチック、木材なら木材だけです。われわれはこれを業態化し、さまざまな素材と技術を組み合わせた商品開発を行っています。3つ目がロジスティックイノベーションです。これは日本では北海道から九州まで、自動倉庫がグループで46万パレットあります。それで2万アイテムを超える商品をメーカーで管理しています。普通、メーカーは何百ぐらいしか管理ができません。それをわれわれは自動倉庫を持って、そして全国各地に物流センターと工場がありますから、エンドユーザーまでのラストワンマイルのコストが非常に安いのです。それを生かした4つ目のイノベーションは、eコマース、ネットイノベーション。これは日本のネットでは、メーカーという形では当社が最大です。

中国は世界の消費地へ

—— 今年、中国は改革解放40周年で、日中平和条約締結40周年ですが、今の中国の発展を、どう見ておられますか。

大山 1996年に中国へ進出したときからですが、毎年2桁の賃上げを、この22年間やり切ってきました。後進国である中国は、中進国を越えて、一気に先進国になってしまいました。一番は何といっても、働く人民の給与を20倍近くに上げることができたことです。これは素晴らしいことです。それが消費を支える。ですから中国は、初めは「世界の工場」と言われましたが、当社にとってみれば、今の中国は「世界の消費地」です。

初めは当社も労働力、人件費が安いこと、これに魅力を感じて大連に出ました。ただ、進出した企業の中でも、当初からロボットをたくさん使いました。今は中国だけでも800台のロボットを入れて、ほとんどロボットで物をつくっています。日系企業で中国に進出した会社というのは、労働集約ばかりで、ロボットは使いませんでした。しかし、当社は初めから中国の人件費が上がることを予測して、早くからロボット化したのです。もちろんロボットというのは導入するだけではダメで、それを使い切るためのノウハウが必要です。これは今、中国の従業員すべてがノウハウを持って、ロボットでものづくりをしています。ですから賃金が上がっても当社は競争力が保てるのです。

—— 御社の場合、「現地化」がキーワードとしてあると思いますが、詳しくお聞きかせいただけますか。

大山 1番はやはり人材です。当社は今、中国だけで、グループで5200人います。会社だけでも十何カ所ありますが、日本人は今、技術者を入れて約10人だけ、総経理も1人だけです。あとは全部中国人です。現地で、信頼が置ける優秀な人には任せるというのが当社の経営スタイルです。これは中国だけではなく、アメリカでも、韓国でも、ヨーロッパでも同じような形をとっています。

もちろん、これには時間がかかります。1、2年では無理で、4年、5年という時間の中で培われたことです。それとやはり仕組みです。結局、彼らが努力したのも、日本人が上席を占めることなく、自分がトップまで上り詰められるという環境があるからです。彼らにとってみれば資本は日系企業ですが、要するに自分の会社なのです。ですから、当社の幹部社員のほとんどは、22年前の1期生、2期生です。これはとても珍しいことです。

中国の国内市場に向けたものづくりを

——   中国ビジネスの重要性や将来性について、どう見ていますか。

大山 初め、当社が大連に進出したのは、日本向けの生産基地として出たわけです。今はそうではなく、中国は最大のマーケットになるということで、主にネット通販を中心に、どんどんと中国の国内市場に向けたものづくりをしています。

当初、大連は日本に近くてよかったのですが、中国本土のマーケットからすると、あまりにも東北部にあるので、蘇州と広州にも工場をつくりました。蘇州が一番真ん中で、南部は広州という形で、今、この蘇州工場も3倍の規模に拡大しています。

当社が扱うのは生活用品ですから、基本的に日本から輸出をすることはありません。そういう点では、為替のリスクだとか、政治的なリスクは、あまりありません。初めは当社も、直営店を持ったのですが、反日デモなどの事件がありましたときは、一気に直営店の売り上げが減って苦労しました。しかし、お客さんはアイリスの商品が欲しい。ただ、日本の店で買いたくないというのがありましたので、160あった店舗をほとんど閉店して、今はネット販売に変えました。するとお客さんへは、中国でつくっている商品ですから、メーカーが日系であろうが関係なく、ネットであればそのまま届けてくれるわけです。ですから私は、政治的なことで影響は受けるけど、あまり大きな影響はないと、このように思っています。

また今では、訪日する中国人が年々増えて、もう700万を超える方が来ておられます。観光地を見る人も、最後はお土産をたくさん買っていただいています。その中に当社の商品もいっぱいあるわけです。それで中国に帰って、ネットで調べると当社の商品が出てくるので、好循環をしています。

実は来年、中国本土に工場を新設します。日本向けの輸出ではなくて、あくまでも中国国内向けと考えたときに、マーケットが大きいのは上海エリア、その次が北京エリア、深圳エリアの3つに分かれます。上海エリアは蘇州に工場があり、深圳エリアは広州に工場があります。北京エリアが大連からは遠過ぎるので今回、新たに工場をつくります。そうすると、北京、上海、深圳という巨大なマーケットで、直接つくって直接販売することができます。中国は大きいですから、物流コストが高いのですが、より競争力が発揮できるだろうと思っています。

—— 先日、御子息(晃宏氏)が社長に就任されましたが。

大山 私は昭和20年生まれですから、今年で73歳です。

—— 全然見えません(笑)。

大山 息子が40歳になって、会社もちょうど60周年で、バトンタッチをしました。私も会長に退いたからといって、仕事をやらないわけではなく、新しいビジネスに対しては、今までの経験を生かしてアドバイスをしたい。それと、できるだけ社会貢献の方に自分の残った人生をささげていきたい、このように考えております。