小山 剛生 株式会社フェローシップ代表取締役社長
大手人材サービス会社にはない強みを生かして

グローバル人材の重要性が高まるなか、多様な人材ビジネスを展開している株式会社フェローシップ(本社・東京都千代田区)は、中国からの留学生を支援する専門チームをもつ。人と企業のマッチングを旨とする人材サービス企業は、中国人と日本企業をいかに結びつけようとしているのか。同社を率いる小山剛生社長に他社にはない取り組みなどについて語ってもらった。


撮影/ 本誌記者 洪倩

フェローシップ・チャイナ

—— 人材サービス会社といっても、実際にどのような仕事をしているのか知らない中国人も多いようです。そこで、まず人材サービス業界の業務内容について簡単に説明していただけますか。

小山 人材サービスには、人材派遣や紹介業など人を介して求職者にサービスを行う業務の一方で、人を介さないサービス業務もあります。たとえば求人の広告や教育研修、人材コンサルティングなどがそうです。

人材紹介はその人材紹介会社のクライアントに実際に就職してもらうというビジネスになりますし、人材派遣の場合は派遣会社が派遣社員として雇用して、派遣先へお仕事に出向いていただくことになります。ただ、そもそも中国人の方が自分にはどんな仕事が向いているのか、将来何をやればいいのかなど、自分でなかなか答えを見つけ出せないことがあるわけです。それに対して、私どもでは専門のキャリアアドバイザーが相談に乗って適切なアドバイスをさせていただいております。

—— 現在、人材サービス産業は年間約800万件の求人を取り扱い、約475万人に対してマッチングや就業管理を行っているとの調査結果があります。これだけ大きなビジネスになりますと競争も厳しいと思いますが、そうしたなかで御社の強みは何でしょうか。

小山 1つは、社内で「フェローシップ・チャイナ」と呼んでいますが、ここ数年、中国の方に対するサービスを行う専門チームを大きくしようという構想をもっています。それを大きくアピールして、より優秀な中国の方々と接点を持ち、同時に中国の方とたくさんお会いすることで、共通の悩みや、彼らの良さが分かるようになります。それらを踏まえて日本の企業や外資系企業に積極的に提案していくところが強みです。

当社の社名であるフェローシップ(fellowship)は、日本語でいうと「仲間」。つまり、仲間意識をもって個々のキャリアの支援をしていこうというのが当社の理念であり、これがもうひとつの強みでもあります。

これを実践しているものに「キャリアコーチングサービス」があります。人材サービスというのは人と企業のマッチングが仕事とはいえ、実際に働き始めると、思っていたのと違ったり、悩んだりといった問題が発生します。そういうとき、通常なら悩みを聞いてくれる先輩社員がいたりするものですが、派遣スタッフの場合、そういうアドバイザーになかなか恵まれません。そこで、「キャリアコーチ」という独自の専門チームをもうけて、就業が決まったあとも、必ず派遣社員1人にキャリアコーチ1人がついて、実際の就業前の教育や就業後のフォロー、自立支援まで行っています。このシステムは、大手派遣会社ではおそらくコスト的に難しいのではないでしょうか。我々だからこそできている、との自負があります。

マンツーマンの面接指導

—— 派遣社員にとっては心強いですね。

小山 3つ目は、事業のコンセプトを従来のマッチングサービスから、人のメーキングへと転換しようとしている点です。需要を受けて人を探すというのは世の中の変化が速くなるにつれて、だんだん厳しくなります。たとえばAIの技術者を探そうとしても、ごくわずかしかおらず、奪い合いになります。そこで、我々が考えているのは、需要に合わせて人を育成して、世の中に供給していくというやり方です。

キャリアコーチングもいわばそのための取り組みで、ほかにはたとえば中国人留学生を対象にした就職塾も行っています。ここでは1人ひとりに対して、過去や現在の生活について細部に渡ってヒアリングし、その方の特徴や企業にアピールできるトピックスなどを浮き上がらせます。そして最終的に就職先選びの基準をきちんとつくり、その軸に沿って就職先をピックアップする。さらに面接ではどう志望動機をアピールしていくかということまでマンツーマンでやっていくわけです。

—— 日本のグローバル人材市場の現状についてはどのように見ていますか。

小山 現状はまだまだです。けれども、今後は必然的にグローバル人材を受け入れる流れになっていくのではないでしょうか。ご存じのとおり、日本は現役世代が激減していますが、そうしたなかで女性の社会進出はほぼ飽和状態まで来ています。今後はAIやロボット化がどんどん進んでいくと思うのですが、それでも足りないというのが私の考えです。結局、外国人に門戸を開いていかざるをえないと思います。

やる気優先を日本企業に促す

—— そうしたなかで昨年、在日留学生数は26万人を突破し、うち中国籍の留学生が約10万人いますが、中国人留学生についての課題はどのように見ていますか。

小山 まず日本の企業側の問題があると思います。国籍不問の日本企業は少しずつ増えてきてはいますが、まだまだ日本人を優先して採用しているのが現状です。仮に、企業が中国人の日本語レベルを問題にしているのだとしたら……日本語はあとからでも身につくものですから、それよりもまず能力とやる気を優先すべきだと私は思います。この考えを日本企業に理解してもらいたいと思っています。

一方、中国人留学生側にも情報不足の問題があります。中国では就職するとき、何社もかけ持ちして受けるということはなく、面接も1~2回で済むのが現実のようです。けれども、日本の就職活動は何社も受けるのが普通。彼らはそのあたりの認識があまりできていないわけです。

それに日本では「就職」ではなくて、まだまだ「就社」ですから、その企業に合う人を採用するという考え方が根強いのです。そのため、企業側もたくさん学生に会ってみないと分からないわけです。そうしたこともあって、日本の学生のほうが早く動き始めて、たくさん回っているので、中国の留学生が腰を上げたときには時すでに遅しというのが結構あります。ですから、「日本ではこうやって就職活動をするんですよ」ということを教えないといけません。

—— 中国の留学生の場合、どういうプロセスで日本の企業に入るパターンが多いのですか。

小山 まず、日本人と同様にどこにでも入れる留学生は存在します。そういう学生はそれなりに一流企業に入っていきますが、これはやはり特別な例でしょう。そうでない学生はたとえば「リクナビ」などに登録し、大学の説明会に行って、そこで申し込んで決まったり、決まらなかったりするわけです。

実際、なかなか決まらない学生は結構多くて、結局、日本での就職を諦めて帰国する学生もいます。どうしても日本で働きたいけれど、なかなか希望の企業に就職できない場合、外食産業に入ったりするケースはよくあります。希望として多いのはやはりITのエンジニアですが、そこに入れなかったら外食へ、というパターンです。日本で就職を希望する中国人留学生の就職率はざっと50%ぐらいだと思います。

多様なニーズに応えていく

—— 今後さらに多くの中国人が日本での就職を希望してくる場合、どのように対応されますか。

小山 基本的にはあらゆる業種にアプローチをかけて、できる限りの可能性を提示していきたいと思っています。

中国人のなかには中国で就職を希望する方もいらっしゃいます。そうしたケースでは、たとえば中国の日系会社などは日本に留学経験のある人材を欲しがりますので、そうした求人を現地にいながら探せるようなサポートをしていきたいと考えています。そのために今後、中国に現地法人をつくることも視野に入れています。

その一方で、日本人が中国で働きたいというニーズも出てくるでしょうし、中国の学生が日本で働きたいという場合もあるでしょう。そうしたニーズに対応するため、北京大学や清華大学の日本語学科の先生方など、中国のキーパーソンにアプローチしていきたいと考えています。

また、住居探しなど、日本で働く中国の方々の生活全般を支援するという需要もあります。さらには、婚活のお手伝いやファイナンシャルプランニングの需要もあると思います。異国の地でお金を増やすのは、なかなか難しいですから。

—— 中国人の印象はいかがですか。

小山 ビジネスとして初めて中国に行ったのは、ちょうど北京オリンピックが開催されていたときのことで、「エネルギーがあふれた場所だな」と大変刺激を受けました。「(中国の人は)目の輝きが違う、これは勝てないな」とも。中国の方々と一緒に仕事をするには、自分をもっと成長させていかなければならないと痛感したことも覚えています。中国の方々とビジネスを通じて、中国の方々のお役に立つことができれば――。10年経ったいま改めて強くそう感じています。