市井 三衛 映像産業振興機構(VIPO)専務理事・事務局長
コンテンツ産業は、個人から組織へ、国内から海外へ

VIPO(Visual Industry Promotion Organization:特定非営利活動法人映像産業振興機構)は、経団連の提言、コンテンツ各業界の支援のもとに2004年に発足した。VIPOが行い、目指しているものが何かを専務理事の市井三衛事務局長に取材した。

 
撮影/本誌記者 原田繁

事業の柱は人材育成と市場開拓

—— 近年、経済成長が著しいアジア市場で日本のコンテンツビジネスの展開が活況を呈しています。そうしたなかで、VIPO(ヴィーポ)はどのような活動を行っていますか。

市井 VIPOは2004年に経団連のエンターテインメント・コンテンツ産業部会の発案によって生まれた組織です。その背景として小泉政権時代に、これからは製品をつくって売るだけではなく、知的財産立国をめざして知財コンテンツを日本の産業のひとつの柱として育てていこうという流れがありました。もともとコンテンツ業界は、映画、テレビ、ゲーム、アニメとジャンルごとに縦割りになっていて、全体を横断するような組織はなかったわけです。そこで、そういう組織をつくるべきだというのが経団連の提案で、これに国も業界も賛同してできたのがVIPOです。

事業の領域は「人材育成」と「市場開拓」の2つですが、ミッションはコンテンツ業界に関わるすべての方たちに、学びやつながりの場や機会を提供してビジネスの輪が広がるようサポートしていくことです。現在、会員は102社(2018年2月末日時点)で、賛助会員もおられます。賛助会員はコンテンツが国際競争力に資することから、われわれもサポートしましょうと賛同してくださる主にコンテンツ業界以外の企業の方々です。

 

—— 具体的な事業内容を聞かせて下さい。

市井 たとえば「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc: New Directions in Japanese Cinema)」は、2017年度で12年目になりますが、35mmフィルムによる30分の短編映画作品の制作を通じて人材を育成するという文化庁からの委託事業です。選ばれた若手映画作家(年5人)には、脚本・編集など、俳優も含めてプロのスタッフのサポートのもと、実際に作品を制作してもらいます。作品は、業界関係者に向けた上映会などで評価されるのですが、このプロジェクトを足がかりに商業監督としてデビューする人たちが数多く生まれています。昨年は、出身者が日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞し、かなり注目されています。

「VIPOアカデミー」は、縦割り化したコンテンツ業界に横串を通すことを主眼に、この業界に特化したプログラムをつくって始めた事業です。現在6コースあり、スタートして3年で受講生は360人になりました。

 

—— もうひとつの柱である「市場開拓」については、どのような取り組みをされていますか。

市井 日本ではさまざまなコンテンツ・イベントが行われていますが、それを広くアピールしたいという国の意向もあり、われわれとしては、個々のイベントの来場促進や調査、情報発信、あるいは連携を効果的に実施するために「CoFesta(コ・フェスタ)」というプロジェクトを経産省からの委託事業として、10年前から続けています。

市場開拓で注目されている取り組みとしては、「JACCⓇ」(ジャック=Japan Content Catalog)があります。これは映画、テレビ番組、アニメ、キャラクター、音楽、ゲーム、脚本などのコンテンツに関する情報をデータベース化して一括検索システムでつなげたものです。これによって、各作品の基本情報をはじめ、窓口情報などがすぐにわかるようになっており、現在、日本語で約6万9000、英語で約1万5000ほどのコンテンツをカバーしています。先日、中国で紹介したところ、「ぜひ中国語でもやってほしい」と非常に大きな反響がありました。

※「JACC®」は株式会社ITSCの登録商標です。

 

中国市場の魅力と課題

—— 2017年12月に「日中コンテンツIPフォーラム及びビジネスマッチング」を北京で開催するなど、積極的に日中間のビジネス支援を手がけておられますが、今の中国のコンテンツ市場をどのようにご覧になっていますか。

市井 とても魅力ある市場であることは間違いないです。まず、われわれ日本のコンテンツを売る市場として有望です。とくに、他国のものを受け入れる土壌が中国にはかなりあるということ。これは素晴らしいことだと思います。

さらに共同制作のパートナーとしても大変魅力がありますし、人材育成の面でも中国は素晴らしいと思います。北京で現地企業を訪問した際に、プレゼテーションをしていただいたのですが、ロジカルでとてもわかりやすく、外資系企業のプレゼテーションを見ているようでした。私は外資系企業が長かったのですが、中国はもうワールドワイドの中にきちんと入っているという印象でした。そういう意味で、われわれも中国に学ぶことがたくさんあるのではないかと感じています。

 

—— 日本では今年2月に「中国ビジネス攻略セミナー」を開催されていますが、中国ビジネスの課題についてはどうお考えですか。

市井 残念ながら現状では日中双方ともに理解不足の点が非常に多くあると思います。ですから「中国ビジネス攻略セミナー」のようなイベントを開くと、多くの方が集まるわけです。それだけ皆さん中国に興味をもっているのです。

昨年3月に中国でビジネス経験のある方たちに、その経験を語っていただくセミナーを開いたのですが、中国でビジネスをすることがいかに難しいかという話になりました。例えば、契約をきちんと守っていただけないとか。中国の方もいましたから、多少は遠慮して本音は1/3くらいだったと思います。それでも、そこまで大変なのかと(笑)。

しかし実際は、中国のビジネス環境は以前より確実によくなってきているはずです。そのあたりを中国の方たちにはもっと説明をしていただきたいですし、われわれもきちんと理解しないといけません。そうしたお互いの理解不足を補うコミュニケーションが必要ではないかと、セミナーを主催していて強く思います。

今や中国のGDPは日本をはるかにしのぎます。そのせいか最近、「われわれに合わせないと仕事ができないですよ」というようなスタンスを感じることがあります。そこは対等なパートナーとして一緒にマーケットを広げていきましょうという姿勢をもっていただけるといいですね。

もうひとつは、やはりオープンで、規制のない市場になってほしいと思います。簡単ではないと思いますが、そこはつねに日本側が不安に感じているところです。日本に対して少しでも有利にしてください、とは言いませんので(笑)、フェアでオープンな市場にしていただきたいと思います。

 

これからは海外を意識したコンテンツを

—— 最後に日本のコンテンツの魅力、将来性についてどうお考えですか。

市井 よくいわれることですが、魅力はまずカタログの豊富さです。アニメ、漫画、映画、ゲーム、音楽と多くのジャンルがあり、しかも、今年はアニメ100年といわれるように、それぞれに歴史をもっています。それらが織りなすカタログの豊富さこそ、日本のコンテンツの魅力だと思います。

ただ、将来性については個人的には必ずしも楽観視していません。これもよく指摘されていますが、残念ながら、若者にとってコンテンツ産業に入る魅力が減ってきています。なぜならば、クリエイターとかアニメーターたちが安い賃金で働いている厳しい現実があるわけです。一部の人はそれなりに潤っていますが、産業全体として若者にとって魅力あるものにすることが重要です。そうしないと、クリエイターがだんだん減少していき、それは将来、この産業に必ず響いてくると思うのです。

また、今まではどちらかというと、日本で売れたコンテンツが何らかの理由で海外でも売れていました。つまり、海外を意識してつくったものではないわけです。しかし、そろそろ海外を意識してつくったもので、きちんとそれがブレークすることが必要だと思います。

日本のマーケットは頭打ちの一方、中国も含めて世界市場はどんどん拡大していますから、海外で売れるものをつくるんだという気持ちをまずもつことです。そのためにはどうしたらいいかを、クリエイター自身も、会社も考える。そういう時代になってきていると思います。

日本では、まだクリエイターの才能に頼ってヒットを生んでいる状況です。これからは、クリエイターの力に加えて、ヒットするコンテンツが作られるような総合的な“仕組みづくり”をしていかないと、将来は明るくないと感じます。従って、日本の将来に関しては課題のほうがずっと多いのが現実ではないでしょうか。