安藝 貴範 グッドスマイルカンパニー代表取締役社長
中国で一緒にホビーワールドを盛り上げたい

日本のフィギュアは中国でも人気がある。しかも、その多くは中国の工場でつくられている。愛称「グッスマ」で知られる株式会社グッドスマイルカンパニーはその代表的メーカーだ。日本のいわゆるオタク文化が市民権を得るまでの紆余曲折と企業としての苦楽、そしてこの世界に賭ける情熱を同社の安藝社長に取材した。


撮影/本誌記者 郭子川

人の力をより効率的に発揮させる

—— 御社では、フィギュアの企画・制作、製造販売を中心に、アニメやゲームの制作、さらにはモータースポーツを初めとしたレーシング事業と、多方面に事業を展開されています。業界の中で御社の強みは何ですか。

安藝 設立は2001年ですが、僕達は、最初にタレント事務所からスタートしているように、人の力をより効率的に発揮させることが好きです。ホビーの世界の才能がある人たち、そして情熱のある人たちとの触れ合いが強くなり、このまま置いておくのはもったいない、世の中に受け入れられるようにアレンジしていく、マーケットをつくっていこうという使命を感じました。

僕たちが本格的にフィギュア事業に取り組み始めたころ、フィギュアをどうやって知ってもらおうか考えて、当時はまだそうでもなかったのですが、インターネットや店頭を使って、ユーザーと僕たちがしっかり信頼関係を持って、ともにマーケットを育てていくことを考えました。また、美しい彫刻をいかに量産するか、その「量産」というところでお客さんに信用を持ってもらうための努力を、仲間の会社と積み上げていきました。それによってだんだんと情熱的で能力のある人たちが価値を持っていくマーケットをつくっていったのが、多分僕らの強みなのかなと思っています。

—— 2014年12月に、鳥取県の倉吉市に製造工場を新設して、それまでの中国のみでの生産から、日本での生産へと方向転換したねらいは何ですか。

安藝 まず、誤解がないようにお伝えしますが、日本に生産拠点を完全に移したわけではないのです。僕たちの資本が入った中国の工場はたくさんあって、そこで連綿とフィギュアをつくり続けています。

ただ、中国では製造の現場に人を集めやすく、人の手数(てかず)に頼ってしまって、製造を効率化するイノベーションが起きづらいところがあります。日本では人件費も高くていろいろ制約も多いのですが、距離的に近いですし、製造現場と開発チームが濃いコミュニケーションが取れるので、製造的なイノベーションを起こそうというのが目的です。鳥取の工場は規模的には100人ぐらいで、決して大きくないです。中国の工場は1000人を下らないし、多い時は2~3000人になります。

フィギュアは日本でつくった彫刻を中国に持ち込んで、金型に起こして、射出成形して、プラモデルのパーツみたいなものを成形します。それを量産して、1個ずつ、バリを取って、きれいに塗って、組み立て、梱包して、出荷する。1個1個、すごく細かい作業を分業しながら1人ずつの手でやりますから、ラインに1000人規模の工員が必要になります。同じ商品を少なくとも数千個、多いと数万個、数十万個とつくっていきます。これは、中国で人がたくさんいる工場を運営しやすいというのがとても重要です。だからこそ、より複雑化しているんです。

大きく伸びる中国市場

—— 中国のコンテンツ市場は今、急速に発展しています。特に日本のアニメやゲームのライセンスを中国に導入するのが近年のビジネスモデルになっていますが、御社は今後、日中間のコンテンツビジネスについては、どのように取り組んでいかれますか。

安藝 僕たちは、日本の作品のフィギュアをつくって世界中に販売しています。これが1つのモデルです。もう1つは、アメリカや中国など、現地で生まれた作品のフィギュアをつくって、現地及び日本で販売していて、その両方をやっています。

僕たちが販売しているフィギュアはほとんど中国で生産された商品ですが、マーケットの3、4割は海外です。出荷額の、シェアの配分でいうと中国とアメリカが伸びています。中国は2、3年で急に伸び始めて、これからも大きく伸びるだろうと思います。日本のコンテンツのマーチャンダイジングも伸びるでしょうし、日本のコンテンツを使ったオンラインゲームもまだまだ伸びるでしょう。中国製コンテンツも、中国内でも売れるし、日本国内にも少しずつ入ってくると思います。

中国及び北米、東南アジア、それからヨーロッパも現地化は進んでいます。今はアメリカに子会社と支社があり、上海にも子会社があって、それぞれの場所で現地のコンテンツを使ってフィギュアを企画したり、現地のクリエイターたちと交流をして、新たな作品をつくろうと取り組んでいます。

—— 2001年の設立以降の、苦楽についてお伺いできますか。

安藝 苦しかったのは、やはり中国とのやりとりです。僕らがグッスマとして最初に接した異文化は、実は中国です。生産で本当に中国におんぶに抱っこで、無理を聞いてもらいながら仕事を進めてきたので、相手も面白くないときがあるし、僕らも譲れない部分があって、これは分かってよ、と思う時もありました。現場の人の入れ替わりも多いので、毎年同じコミュニケーションを繰り返す。それで非常に悩んだ時期もありました。ただ、今は以前よりはずっとお互いが分かり合えています。

うれしいことは、マーチャンダイジングという事業の特徴的なところですが、あれもこれもつくる、初音ミクもつくるし、セイバー(『Fate/stay night』)もつくるし、飛行機もミニカーもつくる。そうすると1個1個に成功と失敗があるんです。うまくいった、楽しい、失敗した、ちょっと悔しい、じゃ、次はこれだみたいなことがすごく多い。僕ら今、自社商品だけでも年間4〜500種あります。そうすると、4〜500回の失敗と成功があるんです。

それは何がいいかというと、スタートからクロージングまでのサイクルが非常に多く回るので、人がとても育ちやすい。経験が積みやすい。弊社に2、3年もいると、もう中堅以上のノウハウが手に入るので、若手スタッフが頑張って企画した商品がヒットするとうれしいです。それで世界中のお客さんが喜んでいるとなると、喜びが大きいですね。

混ぜてみんなで活躍する

—— 御社は自由奔放な社風を持ち、常に業界のリーディングカンパニーとして、さまざまな新規事業も展開されております。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催は、世界的に大きなビジネスチャンスだと思いますが、今後どのようなグローバル展開を考えていますか。

安藝 オリンピック絡みは僕らもやりたいけれど、利権が複雑に絡み合っているのでなかなか手が出せない。ただ、日本の文化に注目が集まりやすい機会だと思います。

今、海外からは日本のサブカルチャーが注目されています。すごくポジティブに僕たちの世界をとらえてくれている。例えばすごく素敵なアパレルブランドと、日本のオタクアニメがコラボしてかっこいい服を出していたりします。

日本では、オタクがすごくマイナーマイナーなところからマイナーメジャーになって、ちょっとメジャーに食い込んで、サブカルチャーが表のメインカルチャーに躍り出てきてみたいな、そこまでにすごく時間かかっているんです。

ところが今の感じだと、世界中で一気にそれが進む。20年とか時間がかからない。今、僕らが触れているオタクの世界、濃い作品たちが、普通の人たちに普通に受け入れられるような状況になり始めた。ですから、日本の作家たちにもチャンスだし、海外の人たちも、日本の独特なクリエイティビティーを受け取り影響しあいながら、やっぱり彼らも新たな世界をつくっていく。ここまでは日本が活躍するけど、ここから中国だとか、そういうのではなくて、混ぜていく。混ぜてみんなで活躍していくという状況が目前に来ているのがとても楽しみで、僕らの流儀にも合っています。

—— 最後に中国のフィギュアファンにメッセージを。

安藝 フィギュアは買うのも楽しいですが、つくる、彫刻していくのも面白いです。日本では原型師(フィギュア彫刻家)が職業になっています。中国でも僕たちが始めた工房があって、そこからいろいろな人が巣立ち、原型師という職業が注目され始めています。それこそ日本で行われているような大きなフィギュアイベントが、今後中国でも行われていきますから、ぜひつくる方にも興味を持ってもらって、一緒にホビーワールドを盛り上げていける仲間がどんどん増えていくといいなあと思っています。