竹増 貞信 株式会社ローソン代表取締役社長
みんなと暮らすマチを幸せにする

株式会社ローソンは、日本国内に約1万3000店のコンビニエンスストア「ローソン」のフランチャイズチェーン展開を行うだけでなく、日系コンビニとして最初に中国に進出し、今では東南アジア、ハワイにも店舗網を広げている。最近は中国の電子決済アリペイを日本国内全店舗に導入したことや全自動レジの実験を行うなどで話題となった。消費傾向の変化にともなうコンビニエンスストア業界の変化や再編がいわれるなかで、同社のビジネスモデルの進化には注目すべきものがある。

 
撮影/本誌記者 原田繁

マチの健康ステーション

—— 少子高齢化や共働き世帯の増加などで、日本では現在、消費の多様化が言われ、コンビニ業界も大きな変化に直面していると思います。競争の激しいコンビニ業界にあって、御社の強みは何ですか。

竹増 いろいろありますが、やはり当社が得意とするのは「できたて」の商品です。「カウンターフーズ」と呼んでいますが、例えば「からあげクン」です。今年4月で発売以来31年のロングセラーで、世代を超えて親しまれています。近年、「カウンターフーズ」で特に増えているのはコロッケやメンチカツなどのお惣菜です。家庭で揚げる手間がかからず、コンビニで手軽に買い求められることから、働く女性やシニアのお客様に好評を得ています。

それからもう1つは、「健康」です。2001年に「ナチュラルローソン」1号店をオープンし、2013年にはコーポレートスローガンを「マチの健康ステーション」に変え、さまざまな取り組みを行っています。

例えば「ブランパン」。これは糖質を抑えたパンで、病院の先生方から糖尿病の患者さんに、ローソンのブランパンを食べたらいいよと推薦されているくらいですね。他には「グリーンスムージー」という飲料ですが、これは大ヒットで、1秒に1本ほど売れる人気商品になっています。

アリペイでの電子決済を導入

—— 今年1月、日本全国の店舗で、中国ネット通販の最大手アリババ傘下の電子決済「支付宝(アリペイ)」を導入することを発表されました。その目的は何ですか。また、どのような効果を期待していますか。

竹増 中国から来られる観光客は、2回目、3回目と、日本に来られる方が大変多くなってきています。以前に話題となった「爆買い」ではなく、日本人と同じような日常使いの感覚で当社の店舗に来ていただいています。

ローソンの店舗は現在、日本国内に約1万3000店ありますが、その加盟店オーナーが6500名ほどいます。その加盟店オーナーさんから「中国人観光客の方は飲み物やおにぎり、スイーツなどを買われる際に、みんなアリペイで支払いを済ませたいと言われている」という声を聞きました。北海道から沖縄まで日本全国、どの店舗にも観光客が来られる可能性がありますので、チャレンジしてみようと、アリペイの全店導入に決断しました。

また、中国では、上海や重慶、大連、北京、武漢などにローソンの店舗がありますが、まずは上海の店舗とコラボレーションしてのキャンペーンを検討しています。例えば、日本に来た中国の方がアリペイを使ってお買い物をされたら、中国で使えるクーポンや特典をもらえるような仕組みを考えています。また、上海の店舗でお買い物されたお客様が日本に来られたときに、日本で特典を受けられる、そういう上海と日本の両方でお客様に楽しんでもらえることができればと考えています。

 
撮影/本誌記者 原田繁

都市や街に合った店舗展開

—— 御社は中国に日系コンビニ文化を持ちこんだ先駆者です。1996年からの20年間で得られた中国と日本の違いについての認識、また、中国のコンビニ市場は日本の10倍規模まで増大しているとも言われていますが、中国市場をどのように分析されていますか。

竹増 我々のビジネスは、消費者の生活の中に深く入り込んでいくビジネスです。そうすると、街も暮らしも違いますから日本でやっていることをそのまま中国に持ち込んでもダメです。

上海の街をよく見る、上海の方々がどういうふうに暮らしているのかをよく観察する。朝ご飯は、昼ご飯は、晩ご飯は、どこでどういうものを食べているのか、あるいは、買い物をどこでしているのか、そういう上海の皆さんの暮らしぶりをよく見続けることが大切です。その街や地域の暮らしをわかっている人でないと、コンビニエンスのビジネスはできません。

例えば、今、上海ローソンのトップは張晟という上海の人で、上海ローソンを引っ張ってくれています。やはり現地の暮らしを本当の意味でわかっている人でないと、コンビニというビジネスは難しいと思います。上海では今700店舗程ですが、今後速やかに1000店舗に拡大する予定です。

北京、大連、重慶、武漢にも出店していますが、それぞれ消費者のニーズが違います。したがって、各地の品揃えは一様ではありません。先ほども申し上げましたが、朝食一つとっても、地域ごとに、都市ごとに食べるものが違っていますよね。中国は広大ですから、当然といえば当然ですが、やはり都市ごとに、もっと言えば町ごとに、そこに根付いた店舗をつくっていかないといけません。

今は中国全土に1100店舗くらいありますが、2021年までに3000店舗規模に拡大したいと思っています。3倍ですから、すごくチャレンジングに感じられるかもしれません。しかし、今の日本でだいたい2000人あたりコンビニ1店舗あるのですが、中国の人口を考えたら、まだまだです(笑)。

エンターテインメントで街を幸せにしたい

—— 上海の店舗では、アニメーション映画『君の名は。』のコンテンツプロモーションの展開や、「ウルトラマン」、「名探偵コナン」、「NARUTO疾風伝説」など日本の有名なアニメコンテンツを活用した店舗づくりに実績を持っていますが、この戦略のメリットは何ですか。

竹増 上海ローソンのお客様は若年層が中心です。若い世代には日本アニメのファンが多いですね。人気のアニメコンテンツをお店に取り入れることで、「ローソンって楽しいね」と親近感を持っていただけます。

日本ローソンでも、過去より映画コンテンツとのタイアップをはじめ、様々なキャンペーンをダイナミックに展開しています。店舗には「Loppi」というマルチメディア端末を置いていますが、その端末はチケットの購入を始めに実に様々な機能を備えています。また、当社グループでは映画館も運営しています。2014年に「ユナイテッド・シネマ」という映画館の運営会社を買収しました。

「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」という当社の企業理念のもと、地域に密着した店舗運営だけでなく、エンタテイメント関連のサービスを提供することで、お客様の豊かな生活をサポートしたいと考えています。

 

みんながほっこりして幸せになる店をつくりたい

—— 今後の中国展開をどのようにお考えですか。

竹増 今、ようやく中国でのビジネスが軌道に乗ってきたなという実感を抱いていて、期待に胸を膨らませています。

中国のマーケットでは、上海や北京などの大都市に限らず、地方都市など、どの町でも「ローソンってやっぱりいいね」と、みんながほっこりして幸せになるような店舗を1店1店大切に、現地のオーナーの皆さんと一緒になってつくっていきたいと思っています。

取材後記

取材を終え、恒例の揮毫をお願いすると、「百里の道を行く者は九十九里をもって半ばとす」と書かれた。これは中国「戦国策」の有名な言葉で、最後まで気をゆるめるなという意味だが、小学校の6年間、校長先生からずっと聞かされたそうだ。「ビジネスをやるようになった今でも思い出す言葉として印象に残っています」と語る竹増社長の笑顔には、中国で3000店舗展開を目指す決意があふれていた。