高原 豪久 ユニ・チャーム株式会社代表取締役社長執行役員
人の気持ちを豊かにすることが最大の社会貢献

ユニ・チャーム株式会社は1961年に生理用品メーカーとして設立し、今では生理用品分野で培った不織布・吸収体の加工・成形技術を活かしたベビーケア用品、ヘルスケア用品、フェミニンケア用品、クリーン&フレッシュ用品、ペットケア用品の事業分野を拡大し、赤ちゃんからお年寄りまでの生活をサポートしている。日本国内の市場シェアはペットケア用品も含め、各分野でナンバーワンを誇り、中国をはじめ、アジアを中心に海外市場への進出もめざましい。中国でも同社の生理用品「SOFY 中国語表記:蘇菲(スーフェイ)」や紙おむつの「Mamypoko 中国語表記:妈咪宝貝(マミーバオべイ)」などは有名だ。2017年3月、日用品業界のリーディングカンパニーとして注目されるユニ・チャーム本社を訪れ、代表取締役社長執行役員で、日本衛生材料工業連合会会長として中日衛生用品企業交流会を中国造紙協会と共同開催する高原豪久氏にお話を伺った。

 
撮影/本誌記者 原田繁

中国市場の特徴を活かす

—— 社長に就任されてからの16年で、売り上げで3.5倍、営業利益で4倍に伸ばし、時価総額は11倍を超える企業に成長させました。これまで85以上の国と地域に進出し、売り上げの6割が海外とのことですが、御社の強みは何ですか。

高原 海外での展開が早いということです。海外の成長する、あるいは市場が大きくなるカテゴリーに対して経営資源を集中したということです。具体的には、中国では日本の赤ちゃんの20倍ぐらい生まれるわけですから、中国をはじめアジアは、大きなマーケットです。特に乳幼児の人口が多い市場に対して積極的に投資をしてきたというのが、当社の強みではないかと思います。

—— 中国政府は最近、今後の健康大国を目指して、国民の衛生や生活の水準を向上することを呼び掛けています。中国への進出状況について、教えてください。

高原 まず、中国市場の特徴としては、出生人口の数が今1700万人で、世界で最も多いマーケットです。まず、上海、北京、広州といった沿海の、先に成長して進化したエリアですが、ここは収入の高い層も多く、生活水準は日本や欧米と同じぐらいで、規模も大きいです。

次に、もっと人口が大きいのは農村部です。農村は子どもの数も都市部よりも多いのですが、やはり総体的に収入が低いようです。そこで、収入が低い消費者に対しても、紙おむつをしっかり買って使っていただけるような、そういう商品の開発を別に行う必要があります。

よって、都市部で売っている紙おむつと、農村で売っているものは当社では同じですけれども、価格を抑えつつ品質とのバランスをとって、農村の人たちでも買えるような、商品設計をして市場を開拓しています。

—— 中国では現在、Eコマースの市場もどんどん拡大しています。こうした著しい中国の変化に対して、今後の展開をどう考えていますか。

高原 中国の紙おむつが、Eコマースで購入される比率というのは、恐らく2016年の年末時点で50%近くになっていると思います。中国ほど大きい国で、50%の紙おむつがオンラインで買われるというのは、非常に珍しい事例です。なぜそういうことが実現できたかというと、モバイル――携帯電話の使用率が非常に高いからなのです。

それと、もう1つ背景にあるのは、交通インフラが急速に整ったことです。自宅までデリバリーしてくれるという構造が急速に高まっています。あとは、これは昔からですけども、共働き世帯が多いということです。昼間はほとんど家にいないので、自分の都合のいい時間にデリバリーしてもらえます。こういう幾つかの条件がそろって、中国は世界の中でも最も早くEコマースが普及したのだと思います。

日本以上に中国の母親が評価

—— 紙おむつを使い始めたことによって、人々の生活はどのように変わったのでしょうか。

高原 実は、日本でこうした紙おむつをほとんどの人が使い始めたのは1990年代なんですね。当社は1981年に日本で初めて純国産の紙おむつをつくりました。もともと紙おむつも生理用品も、体から出る排泄物を吸収するという必要最低限の機能を備えて販売しました。それまでは、布でつくった「おしめ」ですね。このおしめを縫うのが若い母親の仕事でもありました。

それが、もっと吸収スピードが速く、吸収力があって、表面がドライにキープできる、現状の紙おむつのような構造に切り替えるということになりました。その結果、飛躍的にお母様方の育児にかかわる大変な仕事が減り、自由な時間が増え、随分楽になりました。

現在の中国のお母さま方は、自分の宝物のような赤ちゃんを、できるだけ世界で一番いい紙おむつで育てたいという思いが非常に強いです。そこで当社が世界で一番柔らかいおむつを目指してつくったのが、日本初となるオーガニックコットン配合の表面シートを搭載した新商品です。赤ちゃんのお肌に安心な紙おむつで、スーパープレミアムブランド『ナチュラル ムーニー』という名前で発売し、価格は普通のおむつより高いのですが、中国のお母さま方は、日本のお母さま方以上に大変評価して使ってくれています。

—— 著書(『ユニ・チャーム 共振の経営――「経営力×現場力」で世界を目指す』)のなかでイノベーションの精神を追及しておられますね。

高原 当社が考えるイノベーションというのは、消費者が想像するレベルを超えるということで、これで初めてイノベーションというふうに言えると思います。ですから、当社の『ナチュラル ムーニー』というのは、消費者のイメージする柔らかい紙おむつのイメージを越えた「イノベーションの紙おむつ」なんです。

そして、イノベーションは個人だとか一部の人たちだけのイノベーションではなく、組織全体の中で連続したイノベーションを生むために、どうすればいいんだろうかと考えた内容を、ご紹介いただいた本に書いたつもりです。

変わる中国社会にどう貢献するか

—— これまで中国に何回行かれましたか。中国人の印象はいかがですか。

高原 中国には数えきれないくらい行きました。最初に行ったのはもう20年以上前です。中国はとにかく、表面的にも内面的にも非常に変化が速いです。表面的変化はよくわかるのですが、やはり注目すべきは、内面が相当変わってきていることです。特に若い人たちの新しい情報、新しい商品、新しいカテゴリーに対する興味、関心が非常に高いと感じます。

それから、消費の傾向が1つの方向に一気に行きやすいことです。ヒットした商品に対して、これがいいというふうに、例えばSNSで口コミが広がり、評判が立ったら一気に購買が高まり、それから一気に冷めるという感じがあります。

日本の場合も昔そうだったのですが、最近では、自分は自分という消費行動が出てきています。今、ビッグデータの分析だとか、ID‐POSを使って、1人1人の購買行動の違いに着目したりすると、中国はみんなが「いいね」と言ったら一気に購買される傾向が高いというのが消費の特徴です。

いい意味でも、悪い意味でも、これからは中国人1人1人の価値観の多様化がさらに進み、日本へ来て日本製のおむつを「爆買い」されるのではなくて、中国製でも、いい会社がつくっている紙おむつは、品質も絶対にいいわけですから、中国で現地の人が自国民のためにつくっている商品を買ってもらいたいなという気持ちはすごくありますね。

—— 中国社会に対しての社会貢献という点では、どう考えていますか。

高原 もともと当社の事業自体が社会貢献だと思っています。中国でも高齢者ができるだけ長く元気でいてもらうことが、中国社会の中での医療費、社会コスト、そうしたものに関して貢献できると思います。

当社の大人用紙おむつを、適切なタイミングで使っていただくことによって、ずっと外で運動するのが好きな人、ダンスする人、太極拳やったり、自転車に乗ったり、老人たちも、若いときと同じように暮らせるような、そういうサポートを、当社の大人用紙おむつを使うことで維持ができたら、これは最高の社会貢献ではないかと思います。

やはり、人の気持ちを豊かにするということが、最大の社会貢献です。当社のすべての商品は、そういうことに貢献できるものだと自負しております。

【取材後記】

取材から1カ月後の4月中旬、ユニ・チャームは東京世田谷区でギネス世界記録に挑戦した。アメリカ発祥で、最近日本で流行している安定期に入ったプレママを祝うパーティ(通称ベビーシャワー)で、プレゼントとしておなじみの紙おむつを使い、世界最高枚数のおむつケーキをつくるというもの。「当社のブランド名『ムーニー』にちなみ6262枚のおむつケーキを完成させました。今回のイベントは少子化支援の観点から、これから子育てをするプレママへの応援企画なんです」と語る高原社長の笑顔が印象的だった。