林 昌伸 プリンシパル株式会社フレイムハーツ代表取締役社長CEO
Made in JAPANからChecked by JAPANへ

あらゆる機器がネットワークでつながる「モノのインターネット」(IoT、Internet of Things)の時代が間もなく到来する。世の中は便利になる一方だが、コンピュータープログラムの開発者を悩ませているのがプログラムの欠陥「バグ(bug)」。人間が携わる以上、バグの全くないプログラムを作成するのは不可能とされる。時には巨大なシステム全体を止めてしまう厄介な代物だ。「ハーツユナイテッドグループ」はバグの検出から始まり、きめ細かい日本人の特性を生かし、中国でもゲームソフトの高品質化などに貢献している。グループのスローガンは、ずばり「Made in JAPAN(メイド・イン・ジャパン)からChecked by JAPAN(チェックド・バイ・ジャパン)へ」だ。

 
撮影/ 本誌記者 林道国

日本人の気質を生かして

—— 「ハーツユナイテッドグループ」はどういう企業ですか。

 デバッグという事業を中心に事業展開しており、一般的にはバグ(bug)を取るのがデバッグ(debug)という意味です。我々は、そのバグを「発見する」ことに特化したサービスを提供するところから始まった会社です。デバッグという事業を核としながら、エンターテインメント業界、特にゲーム業界でバグを見つけて、報告をすることによって、エンターテインメント業界から出てくるプロダクトの高品質化に貢献しています。

日本人の気質はすごく細かく正確ですよね。細かいところに気が付くとか、緻密である日本人の気質を生かして、品質に関わるチェックの部分を地域や産業にこだわらず展開していく企業グループがハーツユナイテッドグループです。

このバグというのは技術が進歩しても絶対なくならないと思います。進化して新しいものが出れば出るほど、モノがつながればつながるほど、バグの可能性というか、バグは増えていくので、絶対なくならないサービスですし、よりその重要性が増していくと考えています。

昨今では色んな国で多様な製品が作られ世界中に広がるなか、「モノづくり日本」を支援することはもちろんのこと、世界でも日本発のチェック機能を主眼に置いたサービスを提供することで世界中の製品開発に貢献しようというのが当グループのスローガン、「Made in JAPAN(メイド・イン・ジャパン)からChecked by JAPAN(チェックド・バイ・ジャパン)へ」です。

 

ポテンシャルを感じる市場

—— 中国市場をどのように見ていますか。

 特にゲームではある統計で2015年に中国の市場が米国を抜いて2.5兆円に達すると言われており、市場成長率も一番伸びてきていて、しかも世界最大規模のマーケットがあるというところが非常に魅力的です。我々の持っているノウハウが生かせる余地が多分にあると思っています。

中国はオンラインゲームやモバイルゲームの様な配信サービスから流行してきました。一方、米国や日本はパッケージゲームソフトのようなプロダクトからゲームが流行し、その当時は、いったんゲームを出してしまうと修正できなかったんです。ということは、修正できないイコールそのバグをちゃんと取り除き、高品質なものを出さないといけないということが必要で、ユーザーもバグがない高品質なゲームを求める傾向が年々強くなってきています。

中国はモバイルゲームも含めて、ゲームが1日100本以上出る市場です。そうしますと、競争がやはり激しいので、品質にこだわらないと差別化を図ることができません。初めてユーザーにお目見えするときに、高品質のものを出さないといけないという開発者の課題があるので、そこに対してデバッグの需要が非常にあると思っていました。また、中国で一昨年、家庭用ゲーム機の製造・販売が解禁されたことも大きな転機になると思っています。これからは、オンラインやモバイルゲームだけでなく、米国や日本のようにパッケージゲームソフトも作られていくという市場環境に対してハーツユナイテッドグループが今まで培ってきたノウハウがすぐに生きると思っています。中国の市場というものに関してポテンシャルを感じているということです。

 

高品質な製品開発に貢献したい

—— いつから中国市場に進出したのですか。今後の中国展開についてはどのようにお考えですか。

 もう4年ぐらい前からリサーチをしておりまして、リサーチの結果、デバッグの需要があるというような市場性が分かり、昨年7月、上海に子会社を設立しました。

現在、日本の大手企業と組んで「China Hero Project」という中国企業が高品質なパッケージゲームソフトを開発しグローバルで活躍することを支援するプロジェクトに参画しています。まずは、そのプロジェクトを通してきっちりと高品質なゲームを中国企業と共同でつくっていくというのが一つ目のミッションです。また、そのプロジェクトの他にも、パッケージゲームソフトだけでなく、オンラインゲームやモバイルゲームでも、中国でゲーム開発を行っているところに対して、デバッグサービスを提供し、中国のゲーム品質の向上に貢献していきたいというのが、二つ目のミッションだと思っています。

ゲームに関しては、日本でもこれまでに、パッケージゲームソフト、モバイルゲーム、オンラインゲームのほか、最近ではVR関連のゲームなどを対象に、確実に実績と信頼を確立してきました。そのデバッグノウハウを生かした我々独自のサービスを、さらに中国の大手のパブリッシャーやデベロッパーに対しても提供していきたいと思っています。

また、数年前からは、ハーツユナイテッドグループの子会社である「フレイムハーツ」という会社を通じて、ゲーム開発・アート制作サービスも提供しています。ゲーム開発・アート制作に関しても、中国企業に対して積極的にアプローチしていきたいと考えています。

 

世界最大のゲーム市場

—— 「フレイムハーツ」として、ゲーム制作に関わる中国マーケット展開について教えてください。

 中国のゲーム市場というのは、もはや世界最大です。ゲームをつくることにおいても非常に優れています。ただし、やはりできないこともあります。例えば、携帯電話でいうと、2Gの規格方式から4Gにいきなり移行しました。ほかの国だと10年間かけて移行していったものが、中国では約2年間で移行しました。また、ブラウン管テレビから液晶テレビにではなく、スマートテレビになりました。中国はプロダクトのライフサイクルも速く、急速な経済成長を背景に、そうしたことが起こっているのです。

ゲームにおいても同じことで、日本の場合、絵を描くときには2Dで絵を描いた上で、それを3Dのモデリングで立体視させていきます。でも中国ではいきなり3D技術が先行し市場形成されました。中国市場では、3Dは安くて且つ高品質のものが提供されていますが、昨今2D、いわゆる平面図で描いたようなゲームがすごくはやっているんですね。ただし、そこに対してノウハウを持たず、いきなり3Dに行ってしまったので、ここをつくれる人がほとんどいないんです。

また、3Dでいきなり作り始めると、何か形がおかしかったりします。通常、2Dでまず、キャラクターの世界観、あとシナリオというのをつくってから3D化していくのですが、中国では全て平行作業なので、全体をあわせたときにチグハグになることがよくあります。

フレイムハーツは2D、3Dも含め一気通貫してつくれるので、ストーリーの世界観をつくるところから、キャラクターのセットアップというゲームの基幹部分を提供できるというのが一番の強みですね。

 

「押し付け」は機能せず

—— 中国ビジネスを進めていく上での課題は何ですか。

 日本と中国ではモノのつくり方が違います。日本では、これは日本人の気質にもあらわれていると思うのですが、1個1個積み上げていくんです。ストーリーをつくって、その上でキャラクターの設定をします。中国の場合は、先ほどもお話したように、分業制がすごく発達していて、キャラクターはこう、世界観はこうという中で、バラバラにつくるんですね。どっちの文化が正しいかという問題ではなく、ここを連携して、いかに協力しあえるかが大事なポイントですね。

デバッグ事業においても同じです。ビルディングブロック――積み木と同じで、どこかに穴があると、上に積み重ねても、そこだけ地盤沈下を起こしてつぶれてしまいます。それがきちんとできるように、お互いのやり方が違う中で、日本のものを押し付けるのではなく、新しいやり方を両者でつくっていくのです。

この部分をきちんと分かり合って進めないと、パートナーシップが成り立たないということが往々にして起こってしまいます。人と人とのビジネスを重視する中国では、やっぱりそこが重要だと思います。

 

中国はビジネスマインドが浸透している

—— 中国人の印象はいかがですか。中国事業において中国へのCSR(社会貢献)をどのように考えていますか。

 私は他人を色眼鏡で見ないと心がけているので、中国人だからこうだ、という考えはありませんが、国民性に対する印象は、本質的にビジネスマインドを持っていると感じることが多々ありますね。あまり建前の話をしませんから、ビジネス上の関係性が構築しやすく、求められること、求めるべきことが分かりやすいです。

CSRについては、中国も含め全世界で、我々が持っているノウハウを生かして、高品質な製品を届けることで業界の発展に貢献し、雇用の創出にも貢献できればなと思っています。

 

取材後記

取材を終え、恒例の揮毫をお願いすると「諸行無常」と一気に書かれた。理由を聞くと「何一つ変わらないものはありません。生きるもの、死ぬもの、経済を含めて、我々が行っていることすべてが変化しています。アライアンスを組み、協業していく中で、我々の強みでもって自らが変化を起こしていくことが、諸行無常に通じるのではないかと思っています」と話した。