内田 和弘 株式会社セゾン情報システムズ社長
中国はマーケットでありお客様である

個人的なネットワークでもインターネット上でも、効率が良く信頼できるデータ輸送はシステムの安定的運用の基礎となっている。事実、企業内部のシステム間はもちろん、外部業務提携先とのシステム間では現在85%のデータのやりとりがファイルデータによって行われている。インターネットでは早くから国境がなくなっている。では、その安全性にも国境が必要なのだろうか。株式会社セゾン情報システムズは、ファイル転送・データ連携のためのソフトウェアHULFTの導入実績で12年連続日本国内№1の実績を誇り、中国のIT業界でも非常に知られている。日本企業の中国からの撤退が言われているなか、セゾン情報システムズはなぜ中国のマーケットを堅守し、なぜ中国で成功しているのだろうか。その答えには中国企業に限らず、日本企業も関心があるのではないだろうか。

 
撮影/本誌記者 倪亜敏

12年連続で国内ナンバーワン

—— 御社のソフトウェアHULFTの販売実績は12年連続して日本一で、日本市場のシェア80%を占め、世界43カ国で8600社以上が導入し、全世界での市場シェアは第4位です。御社の強みは何ですか。

内田 当社の強みは「つなぎ」のための製品で、HULFTやData Spiderの二つが最大の強みと言えます。

「つなぎ」というのはHULFTそのものです。現在、日本国内の業界にはこのようなツールを持っている会社はなく、日本の全国銀行協会の加盟行はすべて当社の製品を使っていますし、日本の自動車メーカーが加盟している日本自動車工業会の会員企業もすべて当社のお客様です。日本のTOP500の企業の86%が使用している連携ツールがHULFTです。

HULFTは、Harmonious and Universal Linkから来ており、もともとは23年前に開発されたHost Unix Linkage File Transferです。当時、コンピューターといえば大型機でしたので、ホストコンピューターで集中処理しており、UNIXを含めた分散処理の移行過程のなかで生まれたソフトウェアなのです。これは異なるプラットフォームやOS、コンピューターのメーカー、機械、異なるOSで動くシステムをファイルレベルで同期させるということが発端になりました。当時はメインフレームがホストで、分散機というとUNIXでした。ですから、Host Unix Linkage File Transfer(HULFT)です。

各種のデバイス、接続デバイスがつながりますので、製品ブランドから事業ブランドへと進化、発展させて現在の姿になりました。

今年、IoT製品を世界に向けて公開しました。また、インターネット上でHULFTが使える月額制サービスも始め、多くの大手企業に使っていただいており、サイバー空間のファイルやデータを確実に相手に届くように保証しています。

近年、情報漏えいは社会で大きな関心をもたれる問題になっています。取引のデータが間違った相手に届いたり、振り込みデータが間違ったりすると、企業が倒産するなど、社会的信用が失墜することにもなります。当社のHULFTは統一的、効率的、効果的で便利な企業レベルでのソリューションであり、企業の強力な後ろ盾ですので、日本では金融、保険、電信、政府、メーカーなどで広く使われています。

 

今後は養老介護サービスを開拓

—— 本年10月7日に中国・上海市で開催された第8回上海ソフトウエアイノベーションフォーラムで、御社のグループ企業が開発販売するソフトウェアが優秀製品賞を受賞されました。今後どのように中国市場を開拓しますか。

内田 当社は中国で主に銀行、保険、養老介護という三つの市場にフォーカスしています。3年半取り組んだ結果、中国の大手銀行は参入しにくいものの、地方銀行にはすでに4、5行に実績ができました。中国の保険業は大変成長しており、すでに250から300社ほどの保険会社があって年々新規参入があります。中国では4、5社の保険会社が当社のお客様になっています。また、中国には60歳以上の高齢者が2億人以上おり、介護問題は中国社会の大きな課題となっています。当社の技術を使った介護カードを利用し、介護施設で高齢者の飲食のカロリー計算をしたり、血圧などのバイタルデータやどんなカルチャー活動に参加したかなどを把握したり、また地方銀行のカードと連携させて食品の宅配会社と連動させたり、病院のカルテや薬の処方せんと連動させたりもできます。また段階的ではありますが、そんな基盤に当社の製品が使われています。

 

中国企業に役立つと決心すれば中国市場は助けてくれる

—— 日本市場で成功した仕組みを中国に持ちこむのですか。

内田 そうではありません。それでは成功しないでしょう。中国市場には中国市場のニーズがありますし、当社の製品を中国に持ちこんだ時にはすでにさらに早くて安い類似の製品がありました。3年半前のことですが、中国の金融管理機関から、オープンソースを使っているソフトは危険なので使わないようにと通達が出たとのことで、中国のマーケットも自身の開発から信用のあるパッケージ製品への移行期を迎えていました。日本の大手銀行がみな使っている当社の製品は品質でも評価が高く、中国の金融機関からも支持と信頼を得ました。

当時、中国国産の大手ソフト会社の製品と当社の製品は類似していると考えられていて、当社はよくコンペで負けていました。しかし、のちに調査の結果、中国国産の製品とは大幅に機能が異なることがわかりました。当社のHULFTは転送の前後処理を自動化することができ、転送前に発送の証明をしたり、転送後には発送した証明をしたりと、単なる転送ソフトではないんです。

実はこの部分こそが製品の付加価値です。送る相手が変わっても、人間の手を加えずにパラメータを変えれば送れると、価値訴求を明確にしています。

—— どのようにローカライズするかというのが課題でしょうか。

内田 その通りです。ローカライズするだけではなく、中国のお客様から啓発を受けることも多いです。お客様のニーズから標準機能を追加したり組み込んだりすることもあります。

私が中国に行った当時は対日感情もあまりよくありませんでした。IT企業としての当社の出発点は中国で金もうけをすることではありません。コンピューターはすでに国や地域を越えており、物流も国や地域をまたがっています。サイバー空間も当然国境を越えますから、世界的な問題なのです。

現在、中国もインターネットを通して日本やアメリカなど各国間での取引をしています。当社のHULFTがサイバー空間の安心、安全を担保することは中国と中国企業に役に立つと信じています。

中国市場での展開には必ず障壁があります。トヨタ、ソニー、パナソニックなどは中国で雇用問題、技術問題があって中国政府から招聘されて進出したのですが、当社は政府のバックのない企業です。

しかし、われわれは中国で役に立てると信じていますから、中国のお客様からの自社製品に対する意見を歓迎しています。上海に製品の企画・開発センターがありますので、中国のお客様の要望にすべて対応できるようにしています。そうすることで、中国市場も我々を助けてくれると信じています。

 

コスト削減が目的の日本企業は無責任

—— 最近は中国市場から撤退する日本企業も増えています。日中のビジネス往来の重要性についてはどのようにお考えでしょうか。

内田 中国市場から撤退するのは製造業が多いですが、コスト削減のために中国に工場を建てるという考え方には賛成できません。

昔、コスト削減のためにイギリスがアメリカに工場を作ったり、アメリカが日本に工場を作ったり、日本が中国、ベトナムや東南アジアに工場を作ったように、安い製品を作ることには限界があります。

日本企業は中国を低コストの工場ととらえるべきではありません。中国を市場として、お客様として見るべきでしょう。

現在まだ中国で頑張っている日本企業はみな中国を市場として、お客様として見ているからです。

しかしコスト削減を目的にしていた日本企業はみな東南アジアに移転しました。これは無責任ではないかと思います。

 

 

中国は変われば変わるほど良くなる

—— 中国や中国人に対する印象はいかがですか。

内田 2007年に北京での会議に参加したのですが、帰国する日は渋滞で、空港についても大気汚染で視界不良のために飛行機が飛ばず、ごった返しているのに、説明できる人もいない。これで本当にオリンピックができるのかと心配しました。2013年5月から1カ月に1回中国に行くようになり、今まで34回行きましたが、その間中国が変化していることを感じ始めました。ある時、ホテルで浴槽が壊れてフロントに電話すると、すぐにスタッフが来てくれました。しかし、自分一人では直せないので、もう一人部屋に入れてもいいかどうか、私の気持ちを配慮して何度も私に確認してくれました。こうした心遣いはお客様中心で素晴らしいと思いました。

現在、私は中国に行くたびに新しい発見をします。路上のゴミが少なくなってきれいになったとか。私が言うので仕事の友人たちはみな信用して、中国に対する見方を変えてくれたことをうれしく思います。

 

取材後記

内田社長は若いころから水泳をやっていて、見た目はスポーツマンそのものだ。昨年は現地の社員らと一緒に上海マラソンに出場したという。「現地のお客様や社員とのコミュニケーションを図るにはもってこいです」とさわやかに語る笑顔がとても印象的だった。