和佐見 勝 株式会社丸和運輸機関代表取締役社長
中国の物流への貢献は24年来の宿願

21世紀は物流を制した者が市場を制すると言われる。中国国務院の汪洋副総理もかつて「物流業は人民の経済と社会の発展を支える重要かつ戦略的産業である」と語った。日本には50年代後期にアメリカから流通経済の新概念として導入され、70年代には物流先進国の仲間入りを果たした。それが、日本の戦後の急速な復興をもたらした大きな要因でもある。日本の多形態の物流企業及び設備の近代化と工程の合理化といった経験は、中国も大いに範とするところがある。丸和運輸機関は今年7月、中国の煙台振華集団と合弁会社設立することについての基本合意書を締結し、また、煙台市人民政府とは戦略的提携に関する協議書を締結し、中国での低温食品物流事業に乗り出した。そこで、株式会社丸和運輸機関の和佐見勝社長を訪ね、お話をうかがった。


撮影/本誌記者 原田繁

企業価値の最大化を追求

—— 日本の先進的な物流技術は常に世界各国の模範となっています。丸和運輸機関の「AZ-COM(アズコム)」は小売業に特化された3PLサービスで、欠品率は10万分の1に抑えられています。また、御社は2015年に東証一部に上場されました。3PL業界をリードする強みとは何でしょうか。

和佐見 当社の強みは、SM(スーパーマーケット)の「低温食品物流」と「ネットスーパー」の当日お届けサービスです。低温食品物流では、全国の優良なSM(スーパーマーケット)の開拓を積極的に進めており、「物流利益」と「商流利益」を生み出す、「AZ-COM7PL」という商品を提供しています。ネットスーパーでは、大手スーパーのイトーヨーカドー様を始め、多くのGMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)よりお取引を頂いております。このサービスでは、若手の「セールスサービスマン」が「感動と満足」をお届けすると同時に、リピーターと顧客単価を上げるべく、セールス活動に取り組み、高い評価を頂いております。

さらに“人財”育成では「丸和ロジスティクス大学(社内大学校)」を19年前に開講し、独自の“人財”教育システムを確立し、企業価値の最大化のためのロジスティクスのスペシャリストを育成しています。

現在、人手不足・トラック不足と言われています。このような問題を解決するために当社は、日本最大規模の物流ネットワークプラットフォームの構築を目指し、「AZ-COM丸和•支援ネットワーク」を創立しました。一年が経過し、会員企業数は順調に推移し、8月現在で会員数506社となり、当初の計画を大きく超えました。2020年までには会員数3000社を計画しています。今後は、パートナー企業のメリットづくりに更に力をいれ、パートナー企業の皆様と協力し、人手不足、車両不足の問題を解決し、引き続き物流の品質を向上させ、安全、安心の輸配送サービスを提供して参ります。

中国でのビジネスはウィンウィンで

—— 2016年7月、御社は中国山東省の煙台振華集団及び煙台市人民政府と提携契約を結び、中国の小売業界にコールドチェーンサービスを提供すると発表しました。なぜ株式上場後に中国市場に参入しようと思われたのですか。中国に進出している日本の大手物流企業は何社かありますが、現地に適応できていないようで皆赤字のようですが、この点はどうお考えですか。

和佐見 中国市場に進出し中国の企業と提携したのは二つの理由からです。まず、中国経済の成長と食生活の多様化により、食の安全に対する関心が高まっていること。そして、少子高齢化による日本の市場規模の縮小です。この趨勢に従い、低温食品物流分野の経験と技術を活かし、中国の食の安全に貢献したいと思ったのです。

二つ目の理由として、私個人が中国に抱く感情です。24年前、中国の生活協同組合から物流の指導をお願いされ北京に行きました。当時、8割の人が人民服を着ていました。皆自転車で、車も少なく、街灯も無く夜は真っ暗でした。物流センターとは程遠く、現場では何でもベタ積みの状況でした。物流管理の近代化は厳しいと感じました。

私自身この10年間色んな国に行きましたが、人口13億人の中国は非常に魅力ある市場です。直近の3年間は中国の低温食品物流を徹底的に研究してまいりました。煙台市の振華集団様とは、相互の信頼関係を高めるべく、オープンマインド、オープンイノベーション、オープンコストで、高品質・高サービス・低コストの最先端の物流センターと輸配送システムを構築していきたいと思っています。6年前から当社は、中国の新世代の物流人材を育成するために北京交通大学に奨学金制度を設けました。彼らはとても優秀で、論文を読みましたがレベルは非常に高いです。今後は卒業生には中国の当社物流センターで活躍して頂きたく思っております。

今、中国に進出している日本の物流企業がどこも成功していないのは、中国社会への理解が浅いからだと思います。入口のところで停まってしまって、こちらサイドで物事を考えている。ビジネスですから企業対企業なんですが、最終的には人間対人間なんです。

ビジネスの基本は、「共通目的」、「コミュニケーション」、「貢献意欲」です。

私のトップ任期にも「賞味期限」があります。(笑)今後の人生で24年来の願いを実現し、中国の低温食品物流事業に貢献したいと願っています。

山東省の煙台市人民政府からは積極的なアプローチが何度もありました。煙台振華集団の劉董事長父子とも深い友情を築いています。私も劉さんも叩き上げで、共通点が多いのです。ビジネスの大基本は「人間対人間」です。

企業文化を記した「教本」

—— 御社が卓越しているのは、全従業員の手元に「教本」があるからだと聞いています。これは日本の業界でも伝説になっています。この「教本」について教えていただけますか。

和佐見 「桃太郎カード」と呼んでいますが、名刺ほどの大きさで「桃太郎文化」の真髄が書いてあります。「桃太郎文化」とは報恩感謝の文化です。恩を知って、恩を感じて、恩に報いる文化です。

仕事は生涯の財産です。仕事を通じて人は成長します。仕事は生活を改善します。ですから私は仕事で出逢った方々に感謝しています。多くのことを教えていただきました。私は中学を卒業して15歳で働きました。最初の仕事は東京・日本橋の八百屋でした。初心を忘れないために、15歳の時着けていた半纏(はんてん)と前掛けを今も大切に持っています。

当社の企業理念は「同音同響」です。全従業員が同じ目標に向かって努力しお客様に感動と満足を提供するということです。「桃太郎カード」には「同音同響」の基本実践項目を記しました。自己の人間的魅力を磨き高める、“思い”を共有し互いを尊重する、“お客様第一義”の実践で高品質なサービスを提供する、“衆知”を集め全員経営で目標を達成する、活力ある職場は明るい家庭から始まる、の5つです。

我々が提唱する商人道とは、お客様に尽くすということです。真の商いとは人間対人間、心対心という考え方に立つことです。どのようなライバルが出てこようとも、お客様の心をつかむことが肝心です。「桃太郎カード」にも商人道の基本実践項目が書いてあります。礼儀正しくせよ、約束を守れ、好かれる人間になれ、親切を尽くせ、感謝されるサービスを提供せよ、の5つです。

中国の訪日客にもお馴染みのドラッグストアのマツモトキヨシ様は長年のグッドパートナーです。2011年の東日本大震災では、物流が断たれ多くのドラッグストアに商品が入らない中、当社は各地のマツモトキヨシ様のお店に納品100%を基本に途絶えることなく配送しました。他のドラッグストアが通常の営業ができない中、マツモトキヨシ様の売上は170%~180%でした。

多くの物流企業の中から当社を選んでいただい以上、利益貢献は当たり前なんです。マツモトキヨシ様もお客様に満足と喜びを提供し、当社もお客様であるマツモトキヨシ様に満足し喜んでいただくということです。

取材後記

企業文化である「報恩感謝」は、和佐見勝社長の単なる表向きの言葉ではない。社長の事務所には15歳の時に東京・日本橋の八百屋さんでの修業時に野菜や果物を販売する時に着けていた青い前掛けと青と白の縦縞の半纏、当時使っていた木製のそろばんがあった。氏の中国に対する熱い思いに感動し、中国にコールドチェーンのビジネスモデルを確立し、高品質・高サービス・低コストの最先端の物流センターと輸配送システムを構築するという宿願の実現を心から願った。和佐見社長なら必ずやり遂げるに違いない。