青木 擴憲 株式会社AOKIホールディングス代表取締役会長
「若々しく元気な体でスーツを楽しむ」

質屋。ファッション。この二つの言葉を見つめると、二人の男の人生に思い到る。一人は明治維新前夜に土佐藩から出た革命家・坂本龍馬である。坂本家はもともと質屋、酒造業、呉服商を営む豪商の分家だったようだ。もう一人は戦後、長野で創業し、その後スーツ事業を中心にAOKIグループを築く青木擴憲である。彼の家も以前は質屋であり、質草の背広の外商が彼の事業のスタートだった。坂本龍馬は日本を根底から変えた明治維新に関わり、青木擴憲は日本のビジネスマンが日替わりでスーツを着られる世の中に変えた紳士服の流通革命を起こした。

2015年末、AOKIホールディングスの青木擴憲会長にインタビューする機会を得た。余談になるが、青木会長から名刺を受け取った時、その名前を大変興味深く思った。現在、日本国憲法をめぐって、日本社会には「改憲派」と「護憲派」、さらに憲法に現実に合わせた条文を増やそうという「拡憲派」も現れたからだ。青木会長の憲法に対する立場は分からないが、きっと平和主義者に違いない。以下はインタビューの要約である。

 

—— 中国人の目に映る日本社会の特徴は、男性の多くがスーツを着ていることです。日本は明治維新後に洋服が普及し始めましたが、これは日本にとってどんな意味があるのでしょうか。

青木 そうですね。明治維新は日本の国家の進む方向を変えただけでなく、同時に日本人のライフスタイルも変えたのです。当時、人びとが求めたライフスタイルは「文明開化」であり、西洋人と同じような服装をすることが文明的な生活であると考えられ、西洋と同等に交渉することができるという風潮が生まれました。つまり洋服を着ることが文明的な生活であり、また日本が西洋社会の一員となった現れだと考えられました。日本人にとってのスーツ、いわゆる「背広」は、大正時代になってから一般的に着用されるようになったといわれています。

日本人、特にビジネスマンにとって、スーツは一種の礼服であるだけでなく、制服でもあり、また組織内の同僚と一緒に仕事をするための作業服でもあります。スーツを着ると、皆一緒に仕事をしている感覚が湧き、共感が持て、一体感が増します。

 

 —— 戦後、日本社会のスーツの普及率はさらに高くなりましたが、これについてはいかがですか。

青木 戦後スーツの普及率がさらに上がったことについては、二つの面があると思います。一つは先ほど申し上げた明治維新以降、日本人が洋服を着ることによって西洋社会の一員になったと感じたことです。戦後は戦争に負けたものの、日本はやはり西洋社会の一員であろうとしてスーツを着たのです。

もう一つは、戦後の復興に伴って日本に企業が大量に出現して、欧米と付き合う必要が出てきたからです。日本人が海外に出た時、交渉相手が正式なスーツを着ているので、自分も同じようなスーツを着ようとしたのです。私はそうしたことが戦後、スーツが普及した理由だと思います。

 

—— 会長のお父上は、戦争によりもともと営んでいた米穀店を失い質屋に転じたとお聞きしました。会長はその質屋の商品を取り扱うなかで、紳士服事業をはじめられたわけですが、その背景にどのようなストーリーがあったのでしょうか。

青木 ええ、私の家はもともと米穀店でしたが、戦後は経営がうまくいかなくなり、質屋に転業しました。私自身も質草の商品を外商して売り歩いたわけですが、まだ二十歳そこそこの私に理解できるものは限られていました。それでも自分の着るもの、つまり背広ならある程度理解できました。外商を続けていくうちに、いきおい背広に興味を持つようになり、結果的に紳士服ビジネスにつながっていったのです。

 

—— 紳士服ビジネスをはじめたころ、日本の紳士服業界はどのような状況でしたか。ご自身の日本の紳士服業界に対する最大の貢献はどのようなことだと思われますか。

青木 その頃、日本はオーダーメイドの時代でした。大卒の初任給ではオーダースーツを1着しか購入できなかったのです。サラリーマンは毎日スーツを着なければなりません。私は当時、オーダーのスーツに比べ、同等かそれ以上の生地、縫製が良い既製服の生産・販売ができないかと考え始めました。もし既製スーツの価格をオーダースーツの5分の1まで下げられれば、サラリーマンはそれまでの1着の値段で5着のスーツが買えますので、毎日同じスーツを着て行かなくてもいいのです。1週間、毎日スーツを替えて出勤できます。

当時、イギリス、イタリアなど欧米では、高品質でありながらオーダースーツより価格の安い既製服のスーツが既に登場していました。私はイタリアに行き、その仕組みを学び日本に持ち込みました。さらに日本の繊維の街、愛知県一宮でメーカー様に協力していただきました。そして20代から40代の約20年をかけて、自社内で素材開発・商品企画・製造・流通、販売までの一連の流れを確立し、オーダースーツ1着の値段で5着のスーツを購入できる仕組みを達成しました。一言で言うと「紳士服の流通革命」を起こしたと思っています。

 

—— 中国は1980年代の改革開放から、日本などの国にならいスーツもだんだん普及してきました。最近、中国人観光客の増加に伴い、AOKIで洋服を買う人もますます多くなっています。中国人観光客にとってAOKIの魅力はどこにあると思われますか。

青木 AOKIでは、高品質なモノづくりと、多様なお客様の嗜好に応える商品の創造・開発に努めています。そのひとつは、「繊維の東大」と呼ばれている信州大学繊維学部との産学協同研究に取り組み、「スーツの快適さ」を数値化する技術を導入し、非常に快適なスーツを開発しました。

またビジネスマンは、夏でもスーツを着て必死で仕事をし、駆け回り、時には突然ホテルに宿泊する必要もでてきます。そんなビジネスマンに向けて、ご自宅の洗濯機やホテルのシャワーでも丸洗いができ、シワにならない機能性と上質な風合いを両立したスーツも開発しました。

第三に、パリコレデザイナー等によるブランド商品です。当社の「MAJI」ブランドは、パリコレに30年以上参加している山地正倫氏のデザインです。また、東京オリンピック招致委員会のスーツは、これもまたパリコレデザイナー島田順子氏のAOKIのブランド「JUNKOSHIMADA」です。

店舗では、来店されたお客様のお好みやライフスタイルに応じた着こなし提案も行っています。これらすべてが、中国人観光客の皆さまを引きつけるのだと思います。

 

—— AOKIの本業はスーツですよね。しかし最近、AOKIの店舗では健康食品を販売されています。これがなかなかの人気です。不思議に思うのですが、なぜスーツの店舗で健康食品を販売しようと思ったのですか。会長は新しい挑戦をしようとしているのですか。

青木 日本では満60歳を迎える年を還暦と呼び、一区切りの定年退職の年です。私自身も60歳になった時、体調面で不安を感じていましたが、その時に出会ったのが「フルパワー10」のもとになったサプリメントでした。そのサプリメントを飲み続けることにより、体力も気力も回復し、元気になりました。このことがきっかけとなり、私以外の方にもぜひ元気になっていただきたいという思いから、「フルパワー10」を開発したのです。

この「フルパワー10」は1袋10粒入りで、毎日1袋飲用します。1袋には36種類の栄養素が濃縮されていますので、私自身は、毎朝飲むと一日元気でいられて、疲れを感じにくくなります。

ファッションは健康と並行しなければならないと思います。健康でなければ、ファッションのある生活も楽しめません。人は、健康だからこそ生活の楽しみを本当に味わうことができるのです。流行のスーツ、シャツ、コートを着られれば、仕事もますます頑張れます。これは年齢とは関係ありません。健康でありさえすればみな同じなのです。ですから、流行のスーツを着ている時に気力が充実するように、私は今77歳ですが、もっと健康でいたいと思います。「フルパワー10」を飲んで、ずっと「元気、勇気、AOKI」という気持ちで仕事の第一線に立ちたいと思っています。そして、日本の皆さん、中国の皆さんが77歳になった時に私と同じように全身に活力が満ちているように願っています。ですから、私はAOKIで「フルパワー10」を販売することを決めたのです。

 

—— 御社は会長が創業し成功したオーナー企業です。今後は事業拡大を継続・継承できるかどうかという点が課題になると思います。これらの課題についてはどう思われますか。

青木 オーナー企業に限らず、企業にとって、事業拡大、事業承継が最も重要な課題です。

私は創業してから、しばらくは、ピンチの連続による生活のためのビジネスが続いていました。大勢の方に支えられて開店したある大型店がきっかけとなり、生活のためのビジネスが終わり、ビジネスそのもので社会貢献するという新たな目標が生まれました。その時、社会性の追求、公益性の追求、公共性の追求という経営理念が明確化し、現在まで変わることなく実践しています。この先もこの経営理念に基づき、すべての事業活動の物差しとすることが、事業拡大の継続のポイントだと思っています。またオーナー企業における事業承継には、冷静な分析が求められます。オーナー家族の過去、未来各100年の歴史を整理し、経営能力を見極めることが必要と思っています。でも事業承継、業績向上にはオーナーの健康と長生きが大切です。そのためにも、私はフルパワー10を飲むことが欠かせません。

また私は中国古典から「生きる基本」である精神を学び、経営にも家族との連携でも生かしています。特に儒教の教えの五常「仁・義・礼・智・信」は、自分磨きの基本中の基本であり、企業としても家族としても大切なことです。過去を振り返ると、数々の失敗の原因は自らの考え方と行動にこの5つの中のどれかが欠けていることに気づきます。自分自身はもちろん家族、そして社員にも、理解し行動の指標とすることを提唱しています。

 

—— 今後、AOKIはスーツ、健康食品の販売のほか、中国人観光客にどのようなイメージを持ってほしいと思われますか。

青木 ぜひ中国人観光客の皆さまには東京の秋葉原や銀座などにおいでいただき、AOKIのスーツを買って、それを着てお友達の結婚式に参列したり、仕事に行ったりしていただきたいですね。その時、若々しく元気でいれば、AOKIのかっこいいスーツが似合うと感じられることでしょう。では、若々しく元気になるにはどうするか?それはAOKIで販売している「フルパワー10」を飲むこと。ファッショナブルなスーツを着て、さらにサプリメント「フルパワー10」を飲むこと。これこそAOKIが中国人観光客の皆さまに持ってほしいイメージですね。

 

取材後記

インタビュー終了後、青木会長はまだ語り尽くせなかったと、われわれを昼食に誘ってくれた。その席で青木会長は、社会人になって久しい私の息子に子供はいるのかと聞かれた。「息子はあと数年は遊びたいらしく、子供はまだいらないようです」と答えると、会長は「家族は伝承しなければなりません。そういう事情なら、お母さんに早く子供を作るよう説得してもらったらどうですか」と思いやりのある優しい言葉をかけてくれ、私の心には一気に暖かいものが流れた。

撮影/本誌記者 林道国