関 潤 日中合弁・東風汽車有限公司総裁に聞く
中国の消費者の信頼を勝ち取る

日産自動車は日本の自動車のトップメーカーの一つであり、創業以来80年、世界190カ国で年間520万台の自動車を販売し、世界の自動車市場で6.2%のシェアを占めている。そして、中国市場でも後れを取ってはいない。1973年に初めて乗用車を中国に輸出して以来、同社は中国に多くの会社、工場、研究開発センターを設立し中国大陸全体に業務範囲が及んでいる。2013年の新車販売統計によると、中国はすでにアメリカと並んで同社の最大の海外新車販売市場となっている。日産自動車の中国での成功・普及は、中国の自動車メーカーとの緊密な提携によるものである。2003年6月、日産と東風汽車公司によって、中国最大の自動車合弁企業である東風汽車有限公司が設立された。それ以来11年、二人の総裁が歴任した後、中国市場における日産自動車のハンドルは関潤新総裁の手にバトンタッチされた。関潤といえば中国人の名前だと思うかもしれないが、実は彼は日本人である。このことは「日産」が中国では「尼桑」と翻訳されているのと同様に、親近感を抱かせる。さらに、彼は日産自動車本社の専務執行役員も兼任しており、このことは日産自動車が中国市場を重視していることの表れでもあるといえよう。5月13日、横浜にある日産自動車本社を訪ね、関潤総裁にインタビューを行った。

 

 

中国は日産にとって最大の海外市場

―― 日本メーカーでは中国で最も販売台数の多い日産ですが、最近、中日の政治的緊張による中国での販売への影響は、ほとんどなくなったと明らかにしました。2012年秋から続く両国関係悪化の影響も少なからず受けてきたと思うのですが、中国市場をどのように捉えていますか。

 中国は日産自動車にとって最大の海外市場の一つです。2013年のデータでは、日産の中国での販売台数はアメリカとほぼ同じです。2014年の販売計画では中国はアメリカを抜いて単独で販売台数第1位となっています。販売台数と収益から見ても、中国市場は日産にとって極めて重要です。

しかし、一方で2012年の島の問題は日産に大きな打撃を与えました。同年9月に問題が激化した時には、一体いつになったら影響がなくなるのかまったく予測できませんでした。

今、日産は厳しい時期を通り抜け、島問題の影響もなくなりましたが、当社では、再び同様の事件が起きた時でも、出来るだけ影響を少なくするための準備を整えることにしました。今、当社は順調に新車を販売していますが、さらに中国市場と中国の消費者に信頼していただける企業になるべく努力しなければなりません。

車を購入していただく方はもちろん、東風有限の従業員、当社を支援してくださる投資者の方々や部品のサプライヤーなど、あらゆるステークホルダーの信頼を勝ち取りたいと思っています。ですから、当社は販売台数や収益面で、既に定めた目標を着実に実現していかなければなりません。

また一方で、当社は一貫して中国で社会貢献活動にも力を注いでいます。例えば、貧困家庭の児童の就学支援、清華大学などの研究機関との共同研究に加え、有名サッカーチームのサポートなどを行っています。当社は、企業の社会的責任を果たし、社会貢献活動を中国で根付かせることなしに、中国の国民の信頼は得られないと思っています。そのような努力をすれば、たとえもう一度何かがあっても、マイナスの影響は最低限に抑えられると思います。

―― 御社は昨年、創立80周年、中国での事業開始から40周年を迎えました。2003年に中国国営企業との合弁で東風汽車有限公司を設立しましたが、なぜ、拠点を内陸部の湖北省・武漢に置いたのですか。

 当時、日産が中国で合弁会社を設立した際には、他社とは違う特別な背景がありました。日産は40年前に中国に自動車を輸出開始しましたが、中国市場への本格的な参入は2003年にようやく始まったので、多くのグローバル企業やライバル企業に大きく後れを取りました。競争力を高めるために、相互補完し、多くの領域をカバーする包括的な合弁会社を作る必要があったのです。

一般的には、グローバル自動車メーカーが、中国で合弁会社を設立する際は、乗用車部門の合弁会社を設立するのが通例ですが、我々の合弁会社、東風汽車有限は、乗用車だけでなく、産業の発展を支える商用車部門にも携わっています。当社の事務所は中国全土にありますが、一方の親会社である東風汽車の本部とも緊密な関係を保つ必要があるため、東風汽車有限の本部を武漢に置いたのです。武漢は全国の事務所の中心の位置にあり、各事務所を均等に発展させることができるからです。

 

相互信頼と理解が最も重要

―― 御社は日本を代表するグローバル企業の一つですが、中国進出企業はどの企業も中国市場における戦略を持っています。戦略を立てる際に必要な視点、ポイントは何ですか。

 中国市場戦略を定める時には確かに多くの分野を重視することが必要です。私はそのうち最も重要なのは、中国の消費者のためにサービスすることを目標とし、彼らの信頼に値する企業になることだと思います。

ですから、当社では利益追求一辺倒の経営モデルは選ばずに、中国市場と産業のニーズを尊重し、商品を提供しています。例えば、これまで当社は中国で中・大型トラックなども提供しており、これらは中国の発展を支える物流機能の推進にも大きな役割を果たしました。

そのほか、当社では2011年から乗用車部門の東風日産が、自主ブランドの乗用車の販売も始めました。中国政府は、多国籍企業は現地に溶け込み、優秀なローカルブランドを開発しなければならないとずっと強調していたのです。この戦略の実施を通して、当社が最も重視したこと、つまり中国人による中国人のための新たな乗用車の開発という、より進んだ現地化の推進により、中国への貢献をご理解頂けると思います。

―― データによると、中国に投資している日本企業は2万社以上あるようですが、その中には成功している会社も、失敗した会社もあります。日本企業が中国に投資する上で最も重要なことは何でしょうか。

 最も重要なのは、相互信頼と相互理解です。まず相手を理解し次に自分の情況をすべて相手に見せて、相手に自分を理解してもらうことで、信頼が生まれるのです。

例えば、当社は中国市場では東風汽車の一社だけと合弁していますが、他のグローバル企業は2社の企業と合弁するのが一般的です。日産と東風汽車とは互いに理解し信頼しており、彼らは日産が他社をパートナーとすることを心配する必要はありません。ですから、われわれの提携は非常に順調で、不要なところで精力を浪費しなくてもいいのです。

現在、私は日産本社の専務執行役員であり、同時に東風汽車有限の総裁でもあります。このような形は中国市場に進出した合弁当初は想像できなかったことであり、可能になったのは、双方の信頼関係に基づいています。

東風汽車はもちろん私が中国での業務に専心することを希望していますが、日産本社は二つの会社の提携がさらに成熟することを願っており、このような形になりました。このような深い相互信頼関係によりこの提携がさらに、一段階上に進むことができると思います。

 

中国の消費者の信頼を勝ち取るように

―― 日本企業が海外進出する際に直面する課題の一つに「現地化」があります。中国企業との付き合い方、社員教育、特に中国人従業員との接し方など、日本企業はどのような点に注意を払うべきだと考えますか。

 グローバルブランドとして、中国市場だけではなく、多くの国でわれわれは同じような課題に直面しています。当社の解決法は、「固定部分」と「変動部分」の二つに分類して、現地化を進めています。前者はグローバルで共通のスタンダードであり、後者は国や地域ごとの特徴、個性に合わせて異なるやり方で対応するものです。

当社は中国で設立して満10年を迎えたばかりで、他のグローバルブランドと比べるとまだ歴史が浅いため、まだ完全にマネジメントの現地化を実現してはいません。しかし、私たちは「日本人+中国人」というマネジメントモデルを運用したいとは思っておらず、さらにグローバル化の要素を取り込んでいきたいと思っています。

例えば、日産本社は社長も含め役員会メンバーの三分の一は外国人です。ですから、私たちは中国にもそのような経営層を作ろうと考えています。現在の東風有限の社内公用語は、まだ中国語・日本語ですが、将来は、中国語と英語にしたいと考えている。そうすればさらに多くの優秀なグローバル人材を中国市場に派遣することができるようになります。

しかし、これは非常に大きなプロジェクトです。日産本社では国内販売部門を除いて、すでに14年間英語を社内公用語としており、現在の課題は中国の会社で英語を普及させることです。私はいつかこの目標を達成できると信じています。

―― 21世紀の今日、多くの企業が社会貢献を掲げていますが、国や地域により異なるニーズに対応することが求められています。中国は現在、深刻な大気汚染の問題があります。中国での社会貢献の必要性、重要性について、どのように考えていますか。

 社会貢献はグローバル企業にとって非常に重要です。日産が中国でおこなっている主な社会活動は、貧困児童の援助、清華大学との共同研究、著名なサッカーチームのサポートなどです。中国は現在非常に深刻な大気汚染に直面しており、政府もこの問題の解決に力を入れています。この分野では、日産は自社の持つ先進的な自動車理念と技術によって、中国の大気汚染問題の解決に貢献したいと望んでいます。

例えば、当社では昨年から中国での電気自動車の普及に力を入れています。この技術はすでに世界で広く普及し始めており、好評をいただいています。現在、この種の自動車の主な市場は日本、アメリカ、EUです。中国でも電気自動が既に販売されていますが公用車が中心であり、電気自動車の普及の鍵は、個人ユーザーの拡大です。恐らく一般の消費者は、バッテリーを中心とするパワーユニットの耐久性や信頼性に疑問を抱かれているのだと思います。

一方、当社の電気自動車の販売実績はその殆どが個人ユーザー向けであり、これまで全く大きな品質問題を起こしていません。

このグローバルでの実績を中国のお客様にも理解して頂く様なプロモーションが出来れば、心配も解消でき、販売を拡大する事で、中国の大気汚染改善に大いに貢献できると思っています。

 

良好な民間交流を推進

―― 現在、中日関係は政治的に冷え込んでいます。中日関係改善のために、どうしていけば良いと考えますか。

 私の回りには沢山の中国人と日本人がいますが、彼らの関係は非常に良好です。民間または個人のつきあいでは、両国関係に大きな問題は存在していません。

例えば、東風と日産の中国人社員たちは日本の文化、飲食、流行やスターなどが非常に好きですし、一方、日本から中国に派遣された日本人社員も現地の食べ物とテレビ番組を気に入っています。ですから、双方ともに好意と誠意を持って互いに付き合っているのです。

また、私の年代の日本人は中国の歴史が好きで、武漢には多くの『三国志』の史跡、石碑があります。日本の文字を使う歴史は5世紀から始まりましたが、中国では3000年以上の歴史があります。日本人は中国の文化と歴史にあこがれたのです。両国はもともと兄弟とも言えますから、互いに尊敬することが必要です。

現在、日中両国は政治と外交面では問題がありますが、われわれ民間企業と一般市民は、民間の友好交流を続けていけば良いのです。

―― 中国人にどのような印象をお持ちですか。

 中国の人たちは情に厚いと感じます。私の回りの人の多くは私のことにとても気を配ってくれ、特に私の健康にはとても気を使ってくれています。また、中国人社員はとても勉強家で、本で学んだ知識だけで満足せず、それを実際に使ってみたいと望む、そんな強い意識を持っています。これまでの経験から、私は中国と中国人に対して非常に良い印象を持っています。