江守 清隆 江守グループホールディングス代表取締役社長
「日中は一流品を創造するパートナー」

江守グループは「一味違う」日本企業だ。染料、化学品、電子材料、食品、資源開発など多くの業務を担うこの上場企業は本社を東京に移さず、その創業の地である福井県に百年間根を下ろし、福井のシンボル的企業となっている。4月21日、福井県の江守グループ本社を訪れ、四代目の江守清隆社長にインタビューを行った。社長室の壁一面には各地の従業員の写真が貼られており、日本国内だけではなく中国の従業員の写真もあった。江守社長は従業員を企業の最大の財産だと考え、一人一人の顔を覚えようとしているのである。

 

 

中国経済は

量より質の時代に

―― 以前、大学の講義で世界経済の現状分析をなさっていますが、世界における日本経済と中国経済の立場をどのように見ていらっしゃいますか。

江守 大学の講義では、冷静な目で「世界の中の中国」と「世界の中の日本」を見なければならないと話しました。特に今の日本は、昨年起きたことが今年同じように起きて、来年も同じでさらに10年たっても大きな変化はないと思っているし、希望しています。しかし、世界は毎日大きく変化しています。日本はどのようにそれについていくべきかということが個人的に大変気になっている問題です。日本は強い危機感を持つべきです。

―― 日本のこれまでの経済状況は「バブル経済の崩壊」、「失われた10年」、「失われた20年」と言われますが、現在の安倍内閣によるアベノミクスはそうした状況を変えられると思いますか。

江守 アベノミクスは短期的な対症療法で、一定の効果がありますが、万能薬ではありません。

日本経済の深層の問題は、そんなに簡単に解決できるようなものではないと思います。日本の「少子高齢化」、「上昇志向の低下」などの問題は、長く積み重なってきたものですから、長期的な努力で解決しなければなりません。

―― 日本のメディアは「チャイナリスク」、「中国プラスワン」などと宣伝し、中国以外の地域に新しい生産拠点を設立するよう呼びかけていますが、これについてはどう思いますか。

江守 中国経済は今後、量から質の時代に変わっていくと思います。現在、中国経済はすでに転換を始めており、世界で最も安価な生産拠点ではなくなりつつあります。一方で、中国が質の面でグレードアップしようとしています。中国は経済の質を向上させようと努力し、同時に巨大な市場を形成しようとしているのです。

 

日中はパートナーとして

巨大な生産力を生み出す

―― 江守グループは1994年上海に進出し、現在、すでに中国各地へと展開しています。日本企業のグローバル戦略に、中国マーケットはどのような役割を果たすとお考えですか。

江守 中国のこの10年の発展が素晴らしいことは誰もが認める事実です。経済が良すぎても、また悪い芽が出てきても、政府はすぐに調整します。中国経済がこのように強いのは政府の有効な調整と密接な関係があります。

この点から見ると、中国経済は多少の波はあっても、今後も継続的に発展するでしょう。日本企業のグローバル戦略に対して着実に成長する中国市場が重要な役割を持つことは言うまでもありません。

また、中国は今大きな製造能力を有しており、日本は先進的な新材料と技術を持っています。両者を組み合わせれば、大きな生産力を生み出すことができます。両国の企業がそれぞれ得意なものを出し合い、提携パートナーとなることで、世界トップクラスのものを作り出していけるのです。

―― 御社では会社の存在理由を「取引先・株主・社員・地域社会の幸福のために存在する」と明記されています。「幸福のために」というキーワードは中国ビジネスでどのように活かされていますか。

江守 第1には、もちろん真剣に交流することです。中国の大都市は医療が進んでいますが、地方の中小都市では医療水準がまだ高くないところもあります。当社は医療機器も販売していますので寄付もしています。また、教育の分野では中国の数多くの大学と連携し、支援をしています。

少し前、アメリカの投資家から「貴社はなぜ中国に経営資源を投入しているのですか」と聞かれました。私は逆に「世界のこの20年間の変化を見ると、中国のように発展した国がありますか」と聞き返しました。

どこでも業務を展開するのには、さまざまな困難が伴います。だとすれば、成長するマーケットの中で、世界が一番注目しているところを選択するべきで、中国は最良だと考えています。

 

現地の状況に

応じた人材育成を

―― 御社は創業100年を超す商社で経団連会員でもあり、東証一部に上場している少数精鋭のエリート企業と聞いています。なぜ東京ではなく福井県に中心拠点を置いたのですか。

江守 当社の百余年の歩みの中で、私は四代目です。曾祖父の代から始まって、祖父、父、そして私となりました。福井は繊維産業が盛んな土地で、当社もそれによって発展してきました。染料屋から化学品専門商社へ、そして徐々に総合貿易グループへと転身してきました。

本社を福井に置いているのは、さらに多くの優秀な人材を獲得するためです。東京でしたら、当社の規模の会社が採用できる人材は福井に比べると限界があります。当社の本社が福井にあり、この地域の代表的な企業となっていることで、優秀な人材を確保できるだけでなく、社会的な責任という分野でも大きな役割を発揮できるのです。

優秀な人材は、故郷のために仕事をし、故郷の経済発展のために貢献することで責任感と誇りを持つことでしょう。当社のスローガンの一つである「北陸から世界へ」は、本社は北陸福井にあるが世界的な企業に成長しなければならないという意味です。

―― 御社では「全員海外営業」の合言葉のもと、グローバルな人材育成に取り組まれています。中国進出企業にとって、どのような人材育成の取り組みが重要だと思われますか。

江守 地位、収入、激励です。日本ではこの3つの条件をすべて揃える必要はないのですが、中国では1つでも欠けたらだめです。これが日本人と中国人の最も違うところだと思います。

人材育成の分野では、日本の人材教育の会社に依頼して、幹部候補者20数名が1年間かけて最先端の経営管理方法を勉強する機会をつくりました。さらに、今年4月から中国にも新人事体系を導入し、給与と地位を明確にしています。

当社の中国の社長は本社で採用した中国人です。彼は入社して20年、最初は社長秘書室に勤務し、のちに中国に派遣して営業と管理の仕事をしてもらいました。今では彼は中国の200名以上の従業員を率いています。このような人材の現地化によって、当社グループの9割の顧客が中国企業となりました。

 

経済交流は

日中関係改善の基礎

―― 現状の中日関係をどのように見ていますか。 どのようにすれば両国の関係が改善されるとお考えですか。

江守 当社はBtoB(法人営業)ということもあり、大きなマイナスの影響は受けていません。中国のお客様とも安定したパートナー関係が継続されています。

私は経済人ですから、経済交流の強化が両国関係を改善する基礎の一つだと考えます。経済と貿易の世界では、日本人も中国人もありません。

見解が異なる問題について、日本と中国はまず冷静になってよく考えるべきで、過激な発言は控えるべきだと思います。

―― 社長はこれまで何回中国に行かれたことがありますか。中国、また中国人にどのような印象をお持ちですか。

江守 私は中国に50回以上行っています。初めて中国に行ったのは1988年で、北京から上海、最後に広州に行きました。当時は中国現状調査団に参加したのですが、当時の北方中国の発展はややスローだったものの、南方はすでに急速に発展していました。

最も印象深かったのは上海です。当時、浦東はまだ不毛の地でした。いつの間にか浦東新区がさっと出来上がりました。その後の中国の発展は皆さんご存知の通りですが、そのスピードは速く非常に壮観です。

中国には聡明な人が多いと感じます。しかし、それは両刃の剣で、聡明すぎると視野は逆に狭くなり、特に自分の仕事に関係すると視野はさらに狭くなりがちです。しかし、中国人は誠実で落ち着いており、また積極的に上を目指します。アメリカ人と似ていてシンプルではっきりしています。

私は、中国の数多くの若手経営者について、大変敬服し尊敬しています。彼らはとても優秀でグローバル化に熱心で、多くを学ぼうと貪欲です。彼らと一緒に仕事をすることで、新しい「何か」が生まれると信じています。

中国の環境問題については、欧米や日本も同様の問題に直面しました。急速な発展の過程では必然的に環境問題が出てきます。私が見たところ、中国政府は真剣にこの問題の解決に向かっており、近い将来中国にも青い空と澄んだ水が現れると期待しています。