上田 利昭 株式会社チュチュアンナ代表取締役
日中民間交流を担うファッション文化

「カワイイ」文化は1970年代から日本文化の重要な要素となっており、津々浦々に広がっている。大企業から街角の食品店まで、国の政府機関から公衆トイレまで、日本のさまざまな場所が可愛いキャラクターであふれている。3月19日、靴下やインナーファッションを通して世界に「カワイイ」を発信し続ける株式会社チュチュアンナの上田利昭代表取締役を訪ね、同社の経営理念等について聞いた。

 

 

世界に向けて

「カワイイ」文化を発信

―― 御社はレディス向けの靴下を中心にインナーなどを日本全国に展開されています。チュチュアンナの社名の由来について、また、「カワイイ」をキーワードに世界観を発信する理由について、教えてください。

上田 弊社は1973年に創業し、当初は靴下を中心に卸売業をしていました。79年に株式会社とし、社名をチュチュアンナに変更しました。現在は主にレディス向け靴下、インナー、ホームウェア、雑貨などを自社店舗や卸売を通して販売しています。現在、日本国内に216店舗、中国に76店舗、合わせて300店舗近くを展開し、600社以上の企業と卸取引をおこなっています。

「チュチュ」はバレエのコスチュームを指します。「アンナ」は欧米の国々でポピュラーな女性の名前です。組み合わせて「チュチュアンナ」としました。「カワイイ」をイメージした造語です。

創業以来、私たちは女性の「カワイくいたい」気持ちに寄り添ってビジネスをおこなってきました。女性の「カワイイ」パートナーとして、常に新しい自分と未来をお届けしたいと考えています。

 

―― 日本の製造業は戦後復興の柱となり、「文化」、「人材」、「産業」を支えてきました。しかし、中小企業は世代交代における断絶や事業継承の困難さを背景に減少傾向にあります。企業が存続・発展していくために不可欠なものは何だとお考えですか。

上田 経営理念だと思います。弊社は1973年の創業ですが、私は満身の情熱を込めて会社をつくりました。

創業以降、私はビジネスに対する熱い想いをずっとノートに書き記していました。94年に文書化し、経営理念として社員全員の見えるところに掲示しました。会社の指針とは何か、何のために働くのか、どんな目的をもっているのか、ビジネスマンに必要なことは何か、何度も考えながらつくりあげた26ヶ条です。

また、今から5年前、経営理念に対する考え方を一冊の本にしたいと入社2~3年目の社員に話したところ、彼らは1年間かけて「チュチュアンナバイブル」という冊子を作ってくれました。社員全員が経営理念を理解し、実行に移す基盤になっています。

朝礼のときには一緒に音読しています。社員が挫折しそうになったり、つらいと感じたり、迷った時に、この「チュチュアンナバイブル」が羅針盤のように社員を導き、一致団結させ、結束させています。

経営理念をつくった当初は、数店舗でしたが、現在は216店舗になりました。現在、中国へもビジネスを広げていますが、言葉は違っていても、同様に価値観を共有することが大切だと思います。

 

中国の実際に合わせた

ファッションを提供

―― 中国と日本では文化も異なります。中国進出の日本企業として、企業文化を中国で広めていくために、どのような取り組みをされていますか。

上田 2009年、上海に第1号の店舗をオープンしてから4年がたちました。弊社のブランドが中国のお客様に受け入れられ、愛されるようになったことは大変ありがたく思っています。

進出先として中国以外にもいろいろ調査しましたが、やはり成長市場であることが大きな決定要因でした。日本に観光にいらした中国人のお客様が、弊社の商品をお土産として持ち帰り、好評を得ているという情報もあり、潜在的なニーズがあると確信していました。上海に1号店をオープンすると、すぐに予想を上回る業績をあげることができました。

弊社では中国のお客様に満足していただけるように、現地の状況に合わせた商品を企画し、展開しています。中国の女性と日本の女性では体型も違いますし、デザインの好みも違いますので、新たに企画する必要があると考えていました。

中国では特に綿素材が好まれます。また、十二支など動物のデザインがついているものを好むことに気づき、動物柄の商品を企画しました。他にも、中国の西北地域は大変寒いため、内側が裏起毛素材になった厚手のレギンスやタイツを生産したところ、大ヒットしました。機能性とデザインが好評で、その商品の売上構成は12月の靴下全売上の16%を占めました。ファッションを現地の状況に近づけることは、お客様の心に近づくということなのです。

弊社の経営理念の1つに、評価は公明公平公正という言葉があります。この概念に国籍はありません。良い仕事環境をつくるために、2013年秋から中国の各部門の責任者に現地社員を起用し、経営に参画させています。それ以来、彼らの仕事に対するモチベーションはさらにアップしています。今後も役割と責任を明確にしながらも、現地の状況にあわせて細やかに対応していきたいと考えています。

 

―― 中国と日本では従業員教育にどのような違いがあるとお考えですか。

上田 交流が大事だと思います。弊社では毎年中国で新年会を開催し、全土の店長が一同に集まり、交流をしています。社員教育については、スーパーバイザーやインストラクターなど専門の人材を配置して現地の課題に対して取り組んでいます。これには多くのマンパワーを投入し、工夫を重ねています。

 

中国は世界最大最高の市場

―― なぜ中国市場を最も重要な海外市場と位置づけているのですか。中国は国土が広いため、流通など様々な課題があると思いますが、今後の中国戦略についてお聞かせください。

上田 弊社はずっと海外進出を考えていました。中国以外に、韓国などを視野に入れて調査もおこなっていました。テストマーケティングとしての位置づけだけではなく、ビジネスとして成功するかどうかをポイントに考えていました。近年、中国では日本のファッションがますます人気になっています。今から考えると、中国進出の時期も非常に良く、最初に選んだ上海の選択は間違っていなかったと確信しています。

ターゲットは「中間所得者層」で、もっとオシャレを楽しみたいと思っている女性です。弊社の商品は大都市だけでなく、地方都市でも好評です。中国全土での認知向上のため、微博(中国版ツイッター)や微信(中国版ライン)など中国のSNSの活用にも取り組んでいます。

2013年7月までに中国で42店舗をオープンしました。15年12月までに120店舗に、19年までには240店舗をオープンし、売上高460百万元を目指しています。中国は世界最大かつ最高の市場だと感じています。

 

ファッションを通じて

日中民間友好を推進

―― 現在、中日関係は政治的に冷え込んでいます。そうした中で、ファッションを通じて中日両国の民間交流を推進していくことは可能だと思われますか。

上田 社会、文化、経済の繁栄に貢献することは、弊社の大きな指針です。ファッションビジネスを通して、両国の民間交流の推進に少しでも役立てればと考えています。

また、弊社は利益の1%を援助が必要な人のために役立てる社会貢献活動をおこなっています。1つ目は青少年育成、2つ目は貧困救済、3つ目は自然環境保護です。中国では山西省大同市の荒廃した土地に植樹し、乾燥した黄土高原の環境改善にも取り組んでいます。中国は弊社のビジネスに密接に関係している国ですので、貢献したいと考えています。

 

―― 社長自身は中国、また中国人にどのような印象をお持ちでしょうか。

上田 中国人は非常に聡明で自信を持っていて、自身の思いと理由を明確に伝えることができる方が多いと思います。例えば「この商品はどの部分が良い」、「この商品は、あの商品よりどこが良くない」などです。また中国人はチャレンジ精神も旺盛ですね。

日本と中国は、文化や食事、考え方などに違いがあります。相手をどのように受け入れるか。私は、お互いに心を開いて交流することが最も大切だと思います。二十数年来、私たちはずっと中国とビジネスをし、中国各地を回っています。ウルムチ、昆明、瀋陽など多くの都市を訪問しました。弊社の中国最北の店舗はハルビン、最も西の店舗は成都ですが、各地の店舗がともに発展するには、お互いに交流し、対話することが最も重要なのです。