平野 洋一郎 インフォテリア株式会社社長
高品質のITサービスで日中両国を「つなぐ」

ITのハード分野で絶え間なくグレードアップやモデルチェンジが続く中国では、ソフトウェアの「人間本位」の優れたサービスが業界の注目を集めている。この分野では外国の先進的な経験を参考にし、優秀な「ソフトパワー」を導入することが、中国のサービスの品質を迅速に向上させるための重要な手段となっている。日本では、あるIT企業がまさに高品質の人間本位のサービスによって、日中両国を結び付けている。先日、このインフォテリア本社を訪ね、平野洋一郎社長に話を聞いた。

 

 

日本はITで

世界に貢献すべき

―― 社長は九州・熊本のご出身ですね。まさに“頑固で妥協しない”九州男児、「肥後もっこす」という言葉が思い浮かびます。なぜ、IT業界で起業されようと思われたのですか。

平野 私は学生時代からコンピューターに接していました。その当時、大学に入れば大型コンピューターを使えると思い、地元の大学を選んだのですが、ソフトウェアを学ぶのではなく作って世の中に提供したいと考えたので、大学を中退し、1年上の先輩とソフトウェア開発業を始めました。その後、東京に進出してきた外資系のソフトウェア企業に入り、そこで10年ほどマーケティングを担当しました。そして35歳のときに現在の会社を起業しました。20歳で中退してソフトウェアの業界に身を投じてから、今年はちょうど記念すべき30周年です。

日本は資源の少ない国ですから、外国から多くのものを輸入する必要がありますが、ソフトウェアは頭の中から生み出すことができ、海外のものはさして必要ないのです。ですから、この業界は日本が世界に貢献できるものの一つだと考えています。IT業界が発展していくかどうかを考えるより、むしろ自分を支える強烈な仕事への欲望を持てるかどうかが大切です。

 

中国はアジア市場の代表

―― 2011年7月、御社はスマートフォン・タブレット向けサービスの販売で中国IT大手と提携されました。なぜ中国に進出されたのですか。その経緯について、お聞かせください。

平野 弊社が提供するソフトウェアのコンセプトは「つなぐ」です。今の会社を設立する前、私は数多くのソフトウェアと開発・マーケティングを担当してきました。当時は多くのメーカーがデータベースや在庫管理システム、営業管理システムなどを「つくる」ソフトウェアを作っていましたが、弊社ではこれらのシステムを「つなぐ」ソフトウェアを提供しています。

具体的に言いますと、弊社ではASTERIA(アステリア)という商品を開発しましたが、これは会社内外の異なるシステムを相互につなぐ製品で、現在4,000社余りが導入しています。この製品は市場で5割近い市場シェアを占めており、同種の製品の中では圧倒的な第1位です。2009年、弊社では人と人をつなぐ新製品、Handbookを開発しました。これは主にタブレット端末や移動端末へコンテンツ配信を行い、ユーザーに場所を問わず使っていただけるものです。登場して4年ですが、市場シェアはすでに2年連続1位となっています。

中国進出についてですが、私自身が九州出身で中国とは地理的にとても近く、上海とは東京よりも近いほどです。日中両国の文化には共通点もありますので、私は弊社ソフトをもっと多くのアジアの人たちに使っていただきたいし、また中国はアジアの代表ですから、ぜひ中国市場に進出したいと思っていました。そのため、弊社がHandbookを発売する際にちょうど中国のIT企業から提携の話があったので、中国への展開を始めたのです。

 

インテリジェンス・サービスで日中をつなぐ

―― 現在、中日関係は決して良くありませんが、中国市場をどのように見ていますか。今後、中国でのビジネス展開をどのように考えていますか。

平野 弊社が開発したソフトウェアのグローバル化路線は両国国家の外交関係の影響をあまり受けていません。中国は大国で富裕層も日本より多いので、中国は安定して発展していくと考えています。弊社のソフトは中、日、英語版を同時に発売しています。

現在、弊社は中国に多くの戦略的パートナーを持っており、現在は在中国の日本企業を中心に展開していますが、多くの中国現地企業との提携の交渉を進めています。今後は中国の現有の市場を固めるとともに、積極的にその他の分野にも展開していきます。

「企業の社会貢献」の分野では、21世紀の社会を作るのは「つなぐ」ことだと思いますので、ずっとこの分野で中国に貢献したいと考えています。21世紀は大企業、大組織だけが大事業できるというわけではなく、中小企業も相互に「つながる」ことで大事業が成し遂げられるのです。日本の強みである人間本位のサービスは、中国でも現在非常に求められると確信しています。もしこの需要と供給の関係がつながれば、大変素晴らしいことだと思います。

 

グローバル化には

イノベーションが必須

―― 2012年3月、中国浙江省杭州市に子会社を設立され、11月には上海にも進出されました。企業イメージと人材確保のためにどのような努力をなさっていますか。

平野 弊社は以前から浙江大学と交流がありますが、浙江大学の学生は非常に優秀です。そのため、杭州には技術開発の良い人材が多いと思います。もう一つ、中国市場に進出する日本企業は上海と北京に支社を設立する場合が多いのですが、そこでは日本企業に合う人材が不足しがちで、企業間の人材獲得競争が激烈になっているという理由もあります。弊社の中国支社でも現地従業員を多く雇用していますが、彼らは若くて努力家で、日本人従業員も多いに刺激を受けています。

現在の中国の若者はさまざまな方法で外の世界を見ており、中国以外の国々にも非常に関心を持っていると感じます。弊社の従業員も同様で、何か言えばすぐに理解してくれますので、最新の技術や情報は常に意識して取得しているということでしょう。

企業イメージという点で、最も重要なのは「国際社会で通用するかどうか」であると思います。ソフトウェア開発の業界では、新しいサービスの多くは欧米から始まったものであり、日本企業は最初はマネから始めたのです。しかし、これからは国際社会では独自の価値のある製品を作ることが必要で、さもなければ取り残されてしまいます。

ですから弊社では設立当初、製品を企画する際、「模倣」をしないと決めました。たとえ日本ではそのような製品に市場があるにしても、その後グローバル化できないので、作らないことにしたのです。私たちの目標は全世界で通用する製品を作ることです。もしそういった製品が中国社会に貢献できれば、弊社の「グローバル化」は成功したことになります。

現時点では、弊社の海外での売上高は全体の1%にすぎませんが、将来は50%を超えるべく努力していきます。

 

中国に近づくには中国語で

―― 中国にはよく行かれますか。中国の社会や文化にはどのような印象をお持ちですか。

平野 中国には何回も行っています。独立して起業する前に何度も行きました。最初は90年代です。私は中国の文化や長い歴史が好きなのです。日本は中国の影響を多く受けています。私が生きているうちに中国の素晴らしい文化をすべて見ることはできないでしょう。いつも中国に行くたびに、驚嘆を禁じ得ません。

2年前、私は中国語を学び始めましたので、簡単な中国語会話なら大丈夫です。中国語検定試験の3級も取得し、今は2級取得に向けて勉強しています。弊社には中国語が話せる日本人社員が何人もいますが、みな中国市場に進出してから中国語を勉強し始めたのです。

以前、外資系企業に勤務していた時、英語を使ってコミュニケーションするのは、通訳を介するのとはまったく違うと感じました。流ちょうに話せなくても、相手と直接交流する感覚はとても重要です。ですから、本当に中国や中国人に近づこうと思ったら、中国語でコミュニケーションすべきだと思います。