坂本 徳子 株式会社タスリージャパン常務取締役
中国の現代漢方「養生の文化」を世界に伝えたい

坂本徳子氏には、天士力薬品国際会社の日本法人㈱タスリージャパンの常務取締役と日中環境協会副理事長という二つの肩書があり、精力的に活動されている。坂本氏は中国文化、特に中国の養生の文化の「天人合一」の理念を愛し、自然を愛し、人間は自然と共に生きているということに深く賛同している。中国の現代漢方を通して養生の文化を世界に伝えることが、坂本氏にとって最大の使命だと応えた。インタビューの間、坂本氏は養生の文化という理念の輪をどんどん広げていきたいと重ねて強調した。坂本氏の考えが多くの人びとの共感を呼んでいることは確かである。

 

新しい漢方薬市場を開拓

―― 世界の漢方薬市場総額は3兆円規模だと聞いています。そのうち、日本が70%を占めており、漢方薬発祥の地である中国はわずか5%にすぎません。坂本常務は2009年から日本の現代漢方薬の市場で活躍していらっしゃいますが、この現象をどのように分析していますか。

坂本 タスリーは漢方の本家として漢方の現代化、国際化を進めています。既成の漢方薬(中医薬)と言うのは、使い方が曖昧で判りづらいことがありましたが、老若男女、誰にでも簡単に服用できるように、漢方薬をバランスのある現代医薬として提供しています。タスリー社は漢方薬の効能を科学的に解明した企業ということで、また漢方薬の現代化の取り組みをお聞きして、私はビビビッと心に感じるものがありました。

もともとお薬の中で、自然なものと言ったら、絶対、漢方であると思っていました。ただ今までの漢方薬は使い方が難しすぎて、効能についても曖昧で普及しづらいと感じていました。ですからこのタスリーという企業に出会ったときに、ものすごく簡単で便利で、判り易く、誰にでもなじみやすいと思いました。必ず普及型の漢方薬になるなと思いました。

日本人は漢方を多く消費していますが、知っているだけで、よく理解している人は少ないと思います。

また日本でいうお薬のカテゴリー(病気を治す)ではなく、普段から身体を守る、病気を予防する、つまり病気になる前の「未病」の段階で「養生」に使えたら素晴らしいなと思いました。特に高齢化社会の今、いつまでも元気で長生きすることが現代漢方の果たすべき役割ではないかと思いました。このタスリーの魅力にピーンときました。ピンときたので、私なりの組み立てで、この日本に落とし込んでいます。

 

―― 漢方薬は日中両国で盛んになった時期がありましたが、ともに排斥されたり、排除された時代さえありました。しかし、現代の日本では漢方薬の良さが再発見されていて、中国よりも先に見直されています。こうした情況をどう見ていますか。タスリーの34 の海外市場のなかで、日本市場の成長が最も著しいことと関係しているのでしょうか。

坂本 古来、中国から伝わった中医薬は、木の葉や草の根などを煎じて作るという伝統的な製法を保っていましたが、これは医者が処方しにくいだけでなく、患者にも効果が判りにくいものでした。ですから、江戸時代に日本で流行したいわゆる漢方薬は、すでに一部日本の製法で作られた医薬品となっていました。

私は西洋医学と中医学は融合して一つになるべきだと思います。人間の身体は自然なもので、化学薬品やその他の人工的手段で治療するだけでは、身体本来の状態には回復できないのです。現在、タスリーが中医薬の現代化に成功して、世界の医学界に証明(アメリカ食品衛生管理局で医薬許可フェイズ2取得)していることは素晴らしいことだと思います。

最も重要なことは、中医薬の養生の文化、天人合一(人と大自然の一体化)という理念を普及させていくことだと考えています。私が感動したように、多くの人に感動してもらいたいのです。漢方薬の販売という以前に、タスリーの理念をさらに多くの人に知ってもらわなければなりません。つまり、理念の輪を広げていくということです。当社はこの方法によって日本で多くの人に共鳴いただいています。なおかつ漢方薬を漢方薬としてではなく健康食品として提供しています。

 

健康な社会のために

養生の文化を広める

―― 日本はすでに超高齢化社会に突入しており、中国もまさにそうなりつつあって、「健康」はますます重視されています。御社の提唱する「大健康産業」構想とはどんなものでしょうか。中国の養生の文化を世界に広めることの重要性や必要性をどのようにお考えですか。

坂本 健康にまつわるいろいろなサービス産業の集合体ということです。医療は勿論ですが、お薬も含めて、人が生まれて死ぬまで病気にならないで健康に生きるための健康のサポート、いろんなカテゴリーのサービスがありますが、全部ひっくるめて大健康産業と称しています。このことは高齢化社会にもっとも大事な取り組みではないかと思います。

病気はお医者さまが治してくれたというイメージを払拭して、自分で治していくというような主体的な意識が大事だと思います。健康は本来人間が持つ自然治癒力に目覚めて、本来の生命力を多方面にわたって衰えさせないことが、本来の医療の役割ではないかと思います。年齢を重ねても、社会参加、稼げるという充実感なども大事なことで、社会全体が「生きる活力・生きがい」を創り出す「健康社会」を目指すべきではないでしょうか。私共はそういう場をタスリージャパンの会社で提供できればと思っています。大健康産業の一つの柱として、私どもは使命感がありますし、皆さんに提案させていただいております。

―― しかし、昨年から日中関係は悪化しており、両国間のビジネスも影響を受けています。大きな構想をお持ちですが、今後はどのように日中友好に貢献しようとお考えですか。アジア全体から世界を見ると、両国関係はどのような役割を持っているでしょうか。

坂本 日中関係はアジアや世界情勢の安定に影響を与える重要な二国間関係です。21世紀はアジアの時代と言われますが、中国あってこそのアジアであり、もちろん日本だけ、あるいは中国だけではダメです。日本と中国は手を携えて協力し、両国をいっしょに世界の中心にしなければなりません。私は両国の民間交流が頻繁になり、豊かになるようにできる限り努力しようと決心しました。

もちろん、国と国との関係は非常に複雑な問題です。でも、人と人との関係では、国境を超えた友好的な交流ができるのです。環境問題を考えた時、国境という概念そのものが意味を失っています。「中国は中国」、「日本は日本」という伝統的な概念を持ち続ければ、全人類が共有する思想や連帯感が失われてしまいます。地球は一つ、と考えなければなりません。

日本では中国人に騙されたなど、よく中国や中国人の悪口を聞きますが、当社の社長は日本人に騙されたことがあるそうです。つまり、どんな国家、どんな民族にもいい人と悪い人がいるのであって、中国人がみんな悪くて日本人はいいというようなことは絶対にありません。日本では「十人十色」といいますが、これはみんなそれぞれ違うという意味で、私もその通りだと思います。

 

「パーソナルブランド」効果を活用

―― 「パーソナルブランド」効果、「幸せのスパイラル」という独自のマーケティング理論を提唱されていますが、どのようなものかご紹介いただけますか。

坂本 一つの商品が市場に流通する時、販売実績を決定する要素はさまざまです。そのなかにはもちろんメーカーの信用やブランドの効果などもありますが、消費者にとって、商品購入の大きな動機は口コミです。身近な人がその商品を使っていれば、それが購買意欲につながるのです。

これはモノが売れていく仕組みを考えた時に、その会社や商品のブランド力(信頼度)も大事ですが、やはり隣の人が使っていたり、私の大好きな人が持っていたりすると、なにか購買的な動機・意欲が生まれるというのは、その人によって伝わり方が違うということです。受け方が・・、それを上手く活用するなら、まだまだ判らない中国の企業や商品をPRしようと構想した時に、パーソナルな個人的なブランド力のある方と・・ブランド力というのは、学歴や職責などの肩書とは全く関係なくて、その人が自信をもって生き生きと生きているかということではないかと思っています。その人それぞれが持っている個性を、私はパーソナルブランドといっています。

そういうブランド力のある方々がいっぱい集まってくれば、同じ理念を共有したこと時に幸せがさらに増すように思います。昨日も、今日も、明日もずっと幸せを感じ続けること、小さな幸せがどんどん増幅して、重なって、多くの人を幸せの渦にスパイラル(渦)に巻き込んで大きな渦を起こしていくことになると思っています。

幸せが増幅して、継続的に高まっていくと遠心力が働いて、もう落ちることはありません。私のいう「幸せのスパイラル」です。

 

普?の自然の魅力に魅せられて

―― この度、雲南省のプーアル市から日本人初の個人表彰を受けられ、今年6月には日中環境協会の代表80名を率いて、プーアル市を視察されましたが、どのような印象を持たれましたか。今後、環境保護のために両国で果たすべき役割はどのようなものでしょうか。

坂本 日本がすっぽり入ってしまうような広い雲南省に2度参りました。プーアル市の第一印象はとても美しいということです。空気もきれいで、緑に囲まれ、果物や野菜もとても新鮮でおいしいところです。私は豊かな自然に感動しました。

最も素晴らしいのは人です。少数民族が集まっていることから、日本人に対しても分け隔てなく、反発もなく、私たちを心から歓迎してくれました。普?市には非常によい状態の原始林と古い茶の木が残っていて、エコ茶園と近代化されたプーアル茶の加工工場もあり、大変印象に残りました。

多くの人は中国のことを知らないので、どんなにいいことを言っても、首を振って「それでも中国でしょ」と言いますが、彼らに実際にプーアルの茶畑を見せたら、きっとその言葉を撤回するでしょう。プーアルは本当に美しいところですから、私は今後もっと多くの日本人を連れて行き、プーアールの自然・文化に触れてもらいたいと思います。先日、私はプーアル市から感謝状をいただき、大変光栄に思っています。さらに努力して中国文化とプーアル市の魅力を広めていきたいと心から思っています。

私がプーアル市を訪れた主な目的は、環境視察のためで、交流を通して生態環境の保護方法を研究したいと思ったからです。環境保護は日中両国にとって同様に重要です。日本もかつて高度経済成長期に深刻な環境問題を抱えていました。ですから、中国も経済成長によって環境が破壊されるのを見たくありません。日本が以前歩んだ道ですので、中国に同じような苦しみを味わってほしくないのです。もし中国が日本の教訓を生かし、日本の先進的環境技術を取り入れれば、中国は環境問題において大きく飛躍できると信じています。