山本 忠人 富士ゼロックス株式会社代表取締役社長
「中国は未来に向けての最重要市場」

事務機器メーカーのトップ企業である富士ゼロックスは実に語るべきことが多い企業である。社長の山本忠人氏は、中国が同社にとって最重要市場であり、直販網を通じ中国の顧客へのソリューションやサービスの提供を強化することで「より価値あるコミュニケーション環境を創出し中国社会に貢献したい」と抱負を語った。また中国では、最先端の商品を生産しており、重要な量産拠点であると話した。同社は「廃棄ゼロの資源循環システム」を中国でも完備している業界唯一の企業だ。先日、中国の習近平国家主席がカザフスタンのナザレバエフ大学での講演で、「われわれは美しい山河も必要だし、金山銀山も必要だが、美しい山河こそ、金山銀山に値する」と強調したことを思い出さずにはいられなかった。日中両国はともに環境保護を重視し、努力していることが伺える。

 

 

東京オリンピックは

技術を進歩させる

―― 御社は中国では国民にたいへんよく知られている日本企業です。昨年、御社は創立50周年を迎えました。すでに半世紀の歴史を持つ御社の今後の展開、目指す方向についてお聞かせください。

山本 多くのお客様からご愛顧いただき、当社は昨年創立50周年を迎えることができました。50年間の歩みを振り返りますと、複写機、プリンターの製造と販売は、順調だったと言えるでしょう。日本経済の高度成長とともに発展したこと、またこの分野での優秀な商品技術と機器レンタルという斬新なサービス方式によるものだと思います。

今までの50年間、人と人とのコミュニケーションは手紙のやり取りから電話、動画などさまざまな手段へと変わってきました。複写機、プリンターも白黒からカラーへ、デジタル化とネットワーク化へと変化しています。

また、1995年にウィンドウズというOSが登場するなど、IT環境の変化により、当社は既存のコピー、プリントなどの機能だけではお客様に満足していただけないのではないかと考えました。ここ数年は、一連の改革を行い、「Value & Volume戦略」を取り、お客様に高品質の商品と付加価値の高いサービスやソリューションを提供、売り上げを拡大しました。

先日、56年ぶりに東京でオリンピックが開催されることが決まりました。前回のオリンピックの時と比べて日本の技術は格段の進歩を遂げています。当社においても、これまで培ってきたイメージング技術と新たな技術を融合し、ICTの進化に対応していきたいと考えています。

富士ゼロックスはお客様の価値あるコミュニケーションを支援するという考えのもと、お客様の課題解決をお手伝いするソリューション&サービス事業への転換を加速していきます。

12月には、カラーの新商品などをお客様にご覧いただく大きなイベントを上海で開催します。当社の商品やサービス、ソリューションなどを通じ、より多くの中国のお客様の経営や業務における課題解決を支援していきます。

 

中国で営業人員を

積極的に教育

―― 御社は中国に進出した多くの日本企業と違い、合弁などを行わず、直販体制の強化を進めています。なぜこの方法をとられたのですか。

山本 当社は業界で初めて中国での直販を行いました。現在では10年以上の実績とノウハウがあります。技術上の問題に適切に対応し、お客様の複雑な経営課題やニーズに応えるためには、強固な直販体制が必要です。そのため、2005年に設立した教育センターにおいて充実した営業教育を行っています。

中国市場進出の過程で、もっとも難しかったのが優秀な中国人営業職社員を育てることでした。お客様の省力化、増力化などに結び付くサービスやソリューションを提案できる営業担当者を育てるには時間がかかり、場所も必要ですし、さらに能力をブラッシュアップしていく方法も考えなければなりません。

このような取り組みにより、優秀な営業担当者を育成しています。

 

期待できる中国経済の

成長持続

―― 御社は世界に供給される商品の約9割を、上海と深?の2つの生産拠点で生産されているそうですが、日本のメディアは常に「チャイナリスク」や「チャイナプラス1」に言及しています。それについてはどう思われますか。

山本 当社が深?に進出したのは1995年です。円高によって商品輸出における競争力が徐々に弱まると考えたので、深?を選択し、当社の輸出型商品の生産拠点としました。深?進出時には、中国政府は当社に優遇政策や優秀な労働力を提供してくれましたので、優れた商品を大量に生産することができました。

最近10年間、中国市場における複写機、プリンターの販売量は大幅に増加し、さらに富士ゼロックス商品の輸出も拡大し続け、新興国向けの商品ラインが増加しました。

私自身は、中国経済は今後も成長が続くと思います。経済成長が続く中国は、依然として当社にとって最重要市場です。今後、深?と上海の工場は、当社が日中両国に向けた付加価値の高い商品の生産拠点となるでしょう。また、中国市場のニーズに合った商品を開発するため、上海の生産拠点における開発部隊を増強、中国人開発者を30人から約70人へ増強します。

上海と深?の生産能力では市場から要求される生産量のニーズに応えられなくなったため、今年から欧米へ輸出する商品の生産をベトナムで行います。

とはいえ、「チャイナリスク」、「チャイナプラス1」というような考えは持っていません。当社は中国への投資を続け、また中国の発展に期待していますので、中国各地の拠点では営業や開発の人員を増やしています。

 

「企業の成長は従業員の成長と幸福によってもたらされる」

―― 御社では、中国人従業員の満足度を上げることに積極的に取り組み、「廃棄ゼロ」「汚染ゼロ」「不法投棄ゼロ」という基準は、中国でも高い評価を受けています。企業の社会的責任に関する取り組みについてお聞かせください。

山本 当社は、CSR(corporate social responsibility、企業の社会的責任)は企業経営そのものであると考えます。部品調達から生産活動、お客様の商品使用時、使用済み商品の回収・廃棄まで、全バリューチェーンにおいてCSRを中国で実践しているのは、業界で当社だけです。

近い将来、天然資源の枯渇は深刻な問題となります。中国社会の持続可能な発展に貢献するため、当社の中国工場では、使用済み商品の回収と再資源化により、持続可能な資源再生に取り組んでいます。

また、当社は「企業の成長は従業員の成長と幸福によってもたらされる」と考えており、富士ゼロックス深?では、出身地から遠く離れて就業する若手社員の能力開発のために、従業員支援プログラムを実施しています。

その他、中国の奥地では教材が不足している学校に支援を行い、子供たちに識字力をつけてもらい、社会に出られるようにサポートしています。日本国内では、博士課程で学ぶ中国人留学生に奨学金を提供する基金を設けています。

 

若者には海外に出る情熱を

持ってほしい

―― 現在、日中両国の若者は海外で活動することに消極的になっていると言われています。豊富な海外経験をお持ちの山本社長は、海外に赴任する上で必要なのはどのような条件だと思われますか。

山本 富士ゼロックスに入社したのは、海外で仕事をしたいと思ったからですが、私自身は語学が堪能だったわけではありません。

私は他国の文化に興味を持つことが大切だと思います。語学力より、海外に向かう「情熱」が必要です。この「情熱」があれば、現地の地域社会に溶け込む、現地の人たちと親しくなることができると思います。この過程で語学力は自然に身に付くのです。

このような考えに基づき、若い社員に積極的にチャンスを作り、中国やアジア各国で仕事をすることを奨励していますし、実際 海外への赴任者も増加しています。

 

趣味からも学ぶことができる

―― ご趣味はセーリングだとお聞きしました。「趣味は人生観を養う」と言われていますが、いかがでしょうか。

山本 私は遊ぶことが好きで、セーリングのほかにもスキーなどのアクティビティが好きです。趣味でリフレッシュできるし、新しい仲間ができ、学ぶことも多いと思います。セーリングは見た目よりも大変で、何度も危ない目に遭いました。セーリングに出る前には、台風に対応できる準備もしなければなりませんし、乗組員全員が団結しなければならないなど、マネジメントにも通じることを学びました。

編集後記:インタビューが終わると、山本忠人社長が座右の銘としている「雲外青天」と揮毫してくださった。目先の困難(雲)の向こうに希望と達成の晴れがましい世界(天)があることを訴えている。日中関係のことだと感じた。