江幡 哲也 株式会社オールアバウト代表取締役社長兼CEO
ネット情報に信頼のラベルを

ネット情報の付加価値といえば、スピーディーで、便利、ローコストなど枚挙に暇がない。しかしその特殊な性質から、ネット情報は信頼できない、有害だと見られる場合もある。ゆえにネット情報は広く受け入れられているものの、ネットから得られる情報には「?」がついてまわる。では、ネット情報にどのように信頼のラベルを貼ればいいのだろうか。8月7日、オールアバウトの江幡哲也氏は「各領域の専門家の情報を提供すれば、消費者は安心して信用できる情報を手に入れられる」と語った。

  

信頼できる情報を提供

―― 社名の由来とサービス内容をお聞かせいただけますか。

江幡 オールアバウトの名称の由来は二つあります。まず、当社はネット上で各種の有効な情報を提供していますが、その範囲は広くさまざまな領域に及んでいます。ですから、英語のAll About、つまり「◯◯についてのすべて」という意味です。

また、設立当初の提携先である米国のAbout.com社の名から、日本での創業時にAboutという単語を使いましたが、これだけだと誤解が生じることをおそれ、Allを加えたのです。

現在、ネットは発達しましたが、同時に情報の真偽を見極める問題ももたらしました。消費者の、有効で信頼できる情報に対するニーズは日々高まっています。当社は各領域の専門家をネットワークし、実名制によって彼らの情報を提供しています。このようにすれば消費者は安心して信用できる情報を手に入れられます。

現在、日本人は検索エンジンのYahoo!やGoogleを使っている人が多いのですが、当社のサービスである知識情報のAll Aboutは、検索エンジンにヒットしやすい構造になっています。現在、月間の総利用者数はパソコンと携帯を合わせて約2900万人で、日本の生活情報サイトのなかではトップクラスです。

―― なぜ、このようなサービスを始めようと思ったのですか。

江幡 インターネットが発展する中で、インターネット上に玉石混交の情報が溢れることを予想し、そうなった際に信頼できる“ヒト”の手によるナビゲーションが求められると考えました。また、各領域の専門家にインターネットをはじめとした様々な活躍機会を提供することもこのサイトを開設した狙いです。

専門家が講師としてリアルの場で授業を実施できる社会人向けスクール事業「じぶん学校」などはその際たる例でしょう。

こういったAll Aboutのような場があることで、専門家の皆さんが活動空間を広げるだけでなく、消費者はネット上で信頼できる情報を得られるのです。その情報はメディアの報道するものとは違い、多くの「生活の知恵」が付加されています。

消費者に対して、当社は不動産、資産運用、健康・医療など約1200にもおよぶ幅広いジャンルの情報を提供していますが、それらはすべて消費者の日々の行動を後押し、生活を豊かにするものだと確信しております。

 

タイミングは非常に重要

―― 御社の設立は、「ネットバブルの崩壊」と言われた時期ですが、なぜ業界全体が下降期にある時に創業されたのですか。社長にとってタイミングの選択基準とはどのようなものですか。

江幡 タイミングは非常に重要です。第一の理由として、創業時には社会が発展していく方向を正確に読み取らなければなりません。今後、社会は何を必要としているのか、どんなサービスが大衆に受け入れられるのか、そういったことが商品の価値と密接に関係しています。

二番目に、いつ、どのような状況で創業するかということです。当社は2000年に創業し、翌年すぐにサービスの提供を開始しました。その時はちょうどブロードバンドがスタートした時期で、ネット接続も早くなり、高額な費用も不要になりました。当社はこういったタイミングをつかんだのです。

またGoogleが日本に入ってきたのは2001年2月で、ちょうど当社のサービス提供のタイミングと合いました。実は、Googleの日本での初めてのパートナーは当社でした。Googleは検索に特化しており、当社はその検索の先にある信頼性の高いコンテンツづくりに特化しました。ですから、両社は共に発展できたのです。始めの3年間で当社は500万ユーザーを確保し、4年目には1000万人を超えました。

 

最も重要なことは「志」

―― 多くの若者がビジネスチャンスをつかもうとしています。起業にあたっては、どのような心構えが必要だとお考えですか。

江幡 起業は特別なことで、誰にでもできるというものではありません。起業する時に最も重要なことは、「志(こころざし)」です。頭がよければ成功するというわけではありません。最後まで生き残れるのは思いの強さです。自分自身が今これをやりたいということを、本当に深く考えてエネルギーを出せるかが起業のすべてです。まさにこの「志」があれば、資金調達、人材確保などがうまくいくのです。

 

中国市場はビジネスチャンス

―― 現在、中国人などの訪日需要に対応したグローバル事業に取り組んでいるとのことですが、中国の印象はいかがでしょうか。

江幡 ビジネスで訪中したのは数年前からですが、個人としての旅行は1990年代からです。中国でのビジネスで最も感じるのは、政策や法律法規の違いです。外資企業が中国の法律法規に適応すれば、中国でのビジネスはうまくいくということは当然のことです。

現在、中国経済は成長を続けており、その市場は非常に大きく、日本企業にとってはとてもよいビジネスチャンスです。当社は中国で3年前から業務を始めました。

訪日観光客が増加し続けている今日、当社では日本に関する情報を中国人消費者に提供しています。外国人観光客の視点で、彼らが本当に必要としている日本の情報に注目し、信頼できる情報を提供するというサービスを行っています。また、在日外国人向けフリーペーパー「メトロポリスマガジン」を発行するジャパンパートナーシップと業務提携し、日本語、中国語、英語、韓国語などのサイトの運営にも協力しています。

―― 江幡社長は小さいころから独立心が強く、目的達成のためならどんな苦労もいとわないとお聞きしましたが、現在の成功は家族のDNAか、それとも努力の結果でしょうか。

江幡 私の両親は会社員ではなく、独立した経営者でした。うちの家庭教育は厳格で、多くのきまりがありました。そのなかで、自分のことは自分でやる、というきまりがあり、私はいつも家の店を手伝って小遣いをもらっていました。

また、社会の決まりごとを知らなければならないとも言われ、私は小さい頃からいつも物事がわからなくて叱られていました。その頃は幼くて、人情や世間のことが分からないのが当たり前でしたから、私の成長した環境は確実に特殊だったのだと思います。